超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、現在はゲーム開発と産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、イメージとは違う「東京ゲームショウ」の来場者動向について語ります。
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15~18日に開かれた今年の東京ゲームショウ(TGS)の来場者数が、過去最高の約27万1200人を集めた。それまでの最多だった2013年の約27万200人と比べると、ビジネスデー、特に2日目の来場者増が効いた。また2013年の1~9ホールに対し、2016年は1~11ホールだったことも大きかった。
もっとも来場者数が、幕張メッセの収容限界に近づいていることは、主催者側のCESA(コンピュータエンターテインメント協会)も周知のことだろう。今年はドワンゴの特別協力により公式動画チャンネルのコンテンツを大幅に拡充。いわば「自宅で楽しめるTGS」を打ち出した。こうした施策もあってか、一般公開日の来場者数は2013年を下回った。
そしてCESAがまとめたTGS2015の来場者調査報告書によると面白い事実が分かる。試遊予定タイトル数が「0本」と答えた来場者の割合が、前年の15.6%から35%と2倍以上増えている。平均試遊予定本数も3.0本から1.8本とほぼ半減。調査書によると試遊タイトル数や滞在時間が長いほど総合満足度が上昇する傾向がみられるが、試遊タイトル数が「0本」でも全体の71.2%が満足と回答しており、目立った不満は感じられない。
ちなみに2015年はスマホゲーム向けのアイテムコード配布がピークを迎えた年で、2016年は配布が自粛されたため、今年の数字に変化が見られそうだ。しかしコードの配布はそれ以前から盛んに行われていた。むしろ「アイドルマスター」のライブなどのステージイベントが充実しており、イベントが試遊タイトル数に影響したと考えることもできる。
訪問コーナー別では、企業ブースと回答した数が1029人と最も多く、以下イベントステージの501人、物販コーナーの492人と続く。一方で平均満足度では、サイバーゲームスアジア(eスポーツゲーム競技会)が4.3(5点満点)と最も高く、次いでイベントステージ、ゲームスクールコーナー、スマートフォンゲームコーナー/ソーシャルゲームコーナー、コスプレエリアの4.2が後に続く。企業ブースの満足度は4.0だった。
これらから読み取れるのは、会場内を一通り回って1、2本のゲームを試遊すると、後はお目当てのコーナーに長時間滞在して楽しむユーザーの姿だ。従来はTGSのメリットは新作ゲームが早く試遊できることと考えられていたが、スマホゲームなどの増加で発売前タイトルが試遊できるメリットが低下した一方、イベント関連が充実した結果、ユーザーも試遊だけにとどまらないプレミアム感をTGSに感じ始めたといえる。
これまでイベント会場でしか体験できなかったVR(仮想現実)ゲームも、PSVRが10月に発売される。ここ3年は、VRがTGSの注目要素だったが、それも今年までの話。今後は、動画番組の充実などをさらに進めつつ、新作ゲームの試遊だけにとどまらない「総合ゲームイベント」のあり方を検討する時期に来ているといえそうだ。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長をへて2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚し、妻と猫3匹を支える主夫に“ジョブチェンジ”した。11~16年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後もIGDAの一員として活動している。
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