小野憲史のゲーム時評:3DS活用した物理の公開授業 勉強の動機付けに

ニンテンドー3DSを使った物理の公開授業の様子
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ニンテンドー3DSを使った物理の公開授業の様子

 大阪府立泉尾(いずお)高等学校(大阪市大正区)で4日、ニンテンドー3DSを使った物理の公開授業が行われた。音波の性質について学ぶ2年生の授業で、教諭の森井辰典さんの指導のもと、15人の生徒が1人1台ずつ、ニンテンドー3DSで動作する波形測定器「オシロスコープ」のソフトを操作した。生徒達は声を発したり、音叉(おんさ)を鳴らしたりして、画面上で変化する音波の形を観察した。

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 最初に「大きさ」「高さ」「音色」という音の三要素について説明し、その後実際に音叉を鳴らしてニンテンドー3DSのマイクに近づけると、画面に波の形(正弦波)が表示された。続いて大きさの異なる複数の音叉を用意し、大きな音叉と小さな音叉では、音の高さや波形はどのように変わるかを実験し、波形が声によって変化する状況を観察した。さらに2台のニンテンドー3DSの内蔵音源を同時に鳴らし、波形がどのように変化するかも実験した。音の振動数が同じなら波形も一定だが、振動数がわずかでもずれると、音の大きさが周期的に変化し、波の大きさも変わった。

 森井さんは、振幅数がわずかに異なる複数の音を重ね合わせると、「うなり」と呼ばれる現象が発生すると説明。楽器の演奏前にチューニングを行うのも、うなりが発生するのを防ぐためだと教えると、生徒たちもうなずいていた。

 「オシロスコープ」のソフトは東北文教大学准教授で、教育工学が専門の眞壁豊さんが、ゲーム会社スマイルブーム(北海道札幌市)のソフト「プチコン3号 SmileBASIC」で、約2カ月かけて自作した。「プチコン3号」は、ニンテンドー3DSで初心者向けプログラミング言語のBASICを実行できるソフトで、ユーザーはタッチパネルやマイクといった、本体機能を生かしたプログラムを自由に作成できる。

 ソフトの完成後、眞壁さんがインターネット上で授業での使用を呼びかけたところ、スマイルブーム代表の小林貴樹さんを介して泉尾高校教諭の大見真一さんに連絡があった。泉尾高校は「プチコン3号」を用いたプログラミング教育で2015年秋から同社と関係があり、大見さんはその旗振り役だった。そして同僚の森井さんに相談したところ、自分の授業で活用したいと提案があり、実施することになった

 森井さんは「これまで音波の観察では、本物のオシロスコープを使用していたが、学校で数台しかなかった。ニンテンドー3DSとソフトを組み合わせることで、1人1台の環境を実現できた」と効果を語った。音波の形状を画面上で制止させて観察したり、他人に見せるといった、本物のオシロスコープでは困難だったことが、ニンテンドー3DSで簡単に実現できるメリットもあった。

 大見さんは「子供たちをとりまく環境は大きく変化しており、学校が社会や企業と連携を取って授業づくりを進めていくことが重要だ」と話しながら、生徒と教員の双方にとって、今回の取り組みが一つのきっかけになればいいと話した。生徒たちに興味のあるゲーム機を活用することで、勉強に興味を向ける動機付けにもなっているという。

 今回の授業は小林さん、眞壁さん、大見さん、森井さんといった立場の異なる関係者が、「プチコン3号」を軸に集結し、草の根の産学連携によって実現させた。その中心にあるのが、「子供たちによりよい教育環境を提供したい」という思いで、それが各自の自発的な取り組みを生み、成果につながった。ICT教育の重要性が叫ばれる中、現場のニーズに即した取り組みの重要性が改めて示された事例といえそうだ。

◇プロフィル

おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長をへて2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚し、妻と猫3匹を支える主夫に“ジョブチェンジ”した。11~16年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後もIGDAの一員として活動している。

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