名探偵コナン
#1146「汽笛の聞こえる古書店4」
12月21日(土)放送分
2015年に、小学館のマンガ誌「週刊少年サンデー」誌上で、就任したばかりの市原武法編集長が、生え抜きの新人作家育成を優先する異例の宣言をして話題になった。「編集長が全責任を負う」の宣言通り、同誌では新人の連載が次々スタート。しかし、同誌の発行部数が苦戦するだけでなく、マンガ誌全体の部数も減る“冬の時代”に勝ち目はあるのか。市原編集長に聞いた。
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◇驚異の新人育成力が黄金時代を支えた
――2017年2月時点での「サンデー」を見ると、連載の半分以上は市原さんが編集長になってから始まりました。すべて新人というわけではなく、藤田和日郎や西森博之ら1990年代の「サンデー」を代表するベテランも入っています。
藤田、西森先生には「こういう雑誌にしたいので、あなたが必要なんです」と、僕が真剣にお願いしました。
僕は雑誌の「雑」という字が好きで。つまりバランスの問題です。すごい新人さんの連載がたくさん出てきた場合、僕がベテランの作家さんに引導を渡さなければいけない時もくるでしょう。だけど現状(編集長就任の2015年)で、藤田、西森先生を凌駕(りょうが)するような若手の連載が何本あるのか? 今の作家さんたちで“チーム・サンデー”を構成する場合、彼らがラインアップにいないことは理不尽。正しい競争をしてもらうためにも、彼らは欠かせないということです。
――これからの「サンデー」には、どんな作品が必要だと考えていますか?
80年代から90年代にかけて、少年マンガがメチャクチャ売れた。そのせいでマンガ業界に少年マンガの「売れるノウハウ」が強固にでき上がってしまいました。それを一つずつ破壊していきたい。少年マンガがもっと自由だった時代に戻したいんです。「売れるノウハウ」と「物語のおもしろさ」は本来何の関係もありません。ノウハウに固執すると、似たような作品の縮小再生産が繰り返されるばかりで、読者の方々を退屈させてしまいます。少年マンガの可能性は、もっともっと大きく自由だったはずなんです。今はそのノウハウを壊す作業と少年マンガの可能性を探る作業を真剣に進めているところです。
――新人作家の育成を「絶対的な使命」と宣言したのは?
それが70年代以降の「サンデー」の伝統だと思っているからです。新人作家さんを集めた月刊の増刊号を初めて定期的に出したのは、多分「少年サンデー」だったと思います。「サンデー増刊号」はかなり早い時期から新人を育てる雑誌として機能していた。あの時代の「サンデー」の新人育成システムは突出して優秀でした。皆川亮二、島本和彦、西森博之、満田拓也ら、当時の「サンデー増刊号」の有力作家輩出率は尋常じゃなかった。その増刊号が80年代・90年代の「サンデー」黄金時代を支えていたんです。新たなシステムを作ることで、あのころのように「新人作家さんをきちんと育成・輩出できるチーム」に戻したい、という思いがあります。
――2016年にウェブの「クラブサンデー」をやめて「サンデーうぇぶり」を開設したのもその一環でしょうか?
そうですね。末期の「クラブサンデー」は本誌の作品を紹介することがメインになっていました。それに対して「サンデーうぇぶり」はひとつの雑誌みたいなもの。
さっきの「ゲッサン」創刊とも通じる話ですけど、デジタルの場で活躍できる才能を持った作家さんがいらっしゃるんですよ。本誌で活躍できる才能とは少しベクトルが違う。そういう新人作家さんの作品を発表できる場として「サンデーうぇぶり」を作ったわけです。実際、「ジンメン」のような話題作も出てきました。いろいろな種類の才能を持った新人さんたちがいるので、その方々が「サンデー」というレーベルのどこから出てきてもらっても構わないんです。その場をどうやって広げていくかが僕の仕事です。
◇編集長が進める改革の最終目標とは
――今世紀に入ってから、「サンデー」だけに限らず、マンガ雑誌の部数は毎年減り続けていますね。失礼ながら、市原さんが編集長になってからも部数減が止まりません。
そうですね。マンガ雑誌が必要とされる理由が、80年代や90年代に比べてかなり変容しているのは間違いないです。今は雑誌の他にコミックスもウェブもある。
だけど、「サンデー」の改革がうまくいけば“反撃”は可能だと思っています。雑誌の価値を高めて売れ行きを伸ばすことは不可能ではない。そのためには、「読者が求める雑誌の姿」に変えないといけませんよね。自分の中にはある程度ビジョンがあるんですけど、それを行動に移し、結果が出るまでにはあと何年か、かかると思います。
――編集長就任からこれまでを振り返ってみて、いかがでしょう?
まだ満足するようなことは何もないけど、その時やるべきことはすべてやってこられているので、進むべき道を一歩一歩進んでいる実感はありますよ。まだ改革の入り口で、土台作りにあと半年。そこから2~3年で“改革の第2章”くらいまでは終わるかなと。
――第2章というと、まだゴールではないわけですね。改革の最終目標とは?
最終目標は、「サンデーは魅力的な新人作家さんが次々と出てくる強力なマンガレーベル」だと日本中の読者に思ってもらうことです。その信頼感を完璧に得るまでには長い時間がかかるし、僕の代では終わらないでしょう。でも“チーム・サンデー”の作家さんや編集者たちがその思いを共有して、新しい時代を創るところまでは行けるはず。そこまでが僕の使命だと思っています。
◇
小学館のマンガサイト「サンデーうぇぶり」では、6月24日に松江名俊さん、7月1日に小山ゆうさん、7月8日に石渡治さんのロングインタビューを掲載する。
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いちはら・たけのり 1974年、東京都生まれ。成蹊大経済学部卒業。97年、小学館入社。「週刊少年サンデー」編集部に配属され、あだち充、西森博之、満田拓也、田辺イエロウ、モリタイシらを担当する。「ゲッサン」を企画し、2009年の創刊時は編集長代理、翌10年から編集長。15年7月に「少年サンデー」第20代編集長に就任した。
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