超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発と産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、今年のゲームショウで話題になった「e(イー)スポーツ」について語ります。
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「eスポーツのファンは、必ずしも五輪での競技化を求めているわけではない」
「東京ゲームショウ2017」の初日(9月21日)に開かれた基調講演のパネルディスカッション「日本におけるeスポーツの可能性」で、「eスポーツ」に詳しい米調査会社「NEWZOO」のピーター・ヴァン・デン・ヘイブさんの指摘だ。
司会を担当した日経BP社の山田剛良さんが、米の大手ゲーム会社「ブリザード・エンターテインメント(ブリザード)」で、人気ゲーム「オーバーウォッチ」の国際大会コミッショナーを務めるネイト・ナンザーさんに、eスポーツの五輪種目への希望を聞いた。ナンザーさんが「対話には入っていきたい」と言いながら明確な回答を避けた後に、ヘイブさんが、eスポーツの五輪での競技化に慎重な姿勢を見せたのだ。
eスポーツは、テレビゲームをスポーツ競技のようにとらえる試みで、興行ビジネスの総称でもある。欧米や韓国で先行し、2020年には全世界で動画配信の視聴者数が5億人、市場規模が24億ドル(約2500億円)に達するという試算(NEWZOO調べ)もある。「オーバーウォッチ」は、eスポーツの人気タイトルの一つで、開発・運営元のブリザードは国際大会を主催して事業の柱にすえている。
eスポーツは、国内では知名度が乏しかったが、2022年に中国・杭州で開催される第19回アジア競技大会で正式種目に採用すると発表されたことで、注目を集めている。
東京ゲームショウ2017の開催直前の9月19日、日本eスポーツ協会と日本eスポーツ連盟、e-sports促進機構のeスポーツ業界3団体が、日本オリンピック委員会(JOC)への加盟申請などを目的に、年内に統一団体を設立すると発表した。ゲームの業界団体「コンピュータエンターテインメント協会(CESA)」の岡村秀樹会長は、7月からCESAに「eスポーツ委員会」を発足させ、自ら委員長に就任したとあいさつ。業界をあげて支援していく姿勢を示した。
岡村会長は新団体の設立と共に「国際大会への選手団派遣と国産タイトルの供給」「プロライセンスの発行と選手の育成」「ゲーム文化の地位向上」を進める考えを示した。またパネリストの1人で、「CyberZ」でeスポーツ大会「RAGE」を主催する大友真吾さんは「eスポーツが五輪種目になることで、日本でも市民権が得られる」と期待を示した。
ヘイブさんの指摘は、こうした流れを踏まえてされたものだ。海外のパネリストが慎重な姿勢を見せたのは、五輪の正式種目化でゲームの基本設定や、爆発や血しぶきといった刺激的な表現が修正されかねないからだ。国際オリンピック委員会のトーマス・バッハ代表は、香港の英字紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」のインタビューで「五輪は『非差別、非暴力、そして人々の平和を促進するもの』であり、暴力・破壊・殺害などを盛り込んだゲームとは、一線を画す必要がある」とコメントしている。実際、eスポーツの人気ゲームには、サッカーゲームなど現実のスポーツをベースにしたものもある。しかし、その多くは「オーバーウォッチ」を筆頭に、銃撃戦などの激しい戦闘が醍醐味(だいごみ)で、五輪の理念に抵触しかねない面もある。
パネルディスカッションでは、第三者の介入を嫌う欧米と、ゲームの市民権を得たい日本の立場の違いが明確に表れた。パネリストの一人で、eスポーツチームの「クラウド9」にも投資するシグニア・ベンチャーズのサニー・ディロンさんは「オリンピックで正式種目になるには、委員会をはじめとした関係機関との調整が必要になる」と指摘した。これを受けてヘイブさんも「五輪種目に採用されたとしても、ゲーマーが望む内容にならなければ意味がない」と釘を刺した。現状の人気ゲームがそのままの形で五輪に登場しなければ、ユーザーコミュニティーの反発を招きかねず、メリットに乏しいというわけだ。
日本のゲーム業界がeスポーツに前向きな背景には、産業振興への期待に加えて、「ゲーム文化の地位向上」が大きい。eスポーツが五輪の種目になることはイメージアップになるため、業界にとって千載一遇のチャンスだといえる。だが業界の思惑が、五輪向け特別ルールの策定や、大会以外では誰も遊びたがらない専用ゲームの開発など既存ユーザーの無視につながるとしたら本末転倒。その割を食うのは、プレーする選手とゲームファンであり、結果としてコミュニティーの縮小にもつながりかねない。関係者には地に足をつけた議論を望みたい。
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