超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発と産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、ゲームの専門学校から見た人材確保の取り組み、学生の動向について語ります。
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2017年5月から「専門学校東京ネットウエイブ」のゲーム分野で非常勤講師の仕事を始めた。従来の取材活動に加えて、教育面でゲーム業界との接点を持ったことで、改めて見えてきた側面がある。学生の正社員志向の高さと、奨学金の受給率、ゲーム会社の初任給の格差だ。これらは互いに関連性がある。
日本学生支援機構の2014年度学生生活調査によると、大学生の奨学金受給率は51.3%と半数を超えた。専修学校の資料は存在しないが、東京ネットウエイブでは日本人学生の2割弱が、日本学生支援機構か東京都育英資金を利用している。平均受給額は月額約8万円なので、2年間で約200万円を借り入れる計算だ。利子にもよるが、約1万3000円を約13年で返済することになる。
私も旧日本育英会の奨学金を活用し、約1万5000円を月々返済した。フリーランスになった直後は返済を猶予してもらい、書籍の原稿料などで繰り上げ返済できた。これができたのは正社員で新卒採用され、初任給が額面で約18万円だったこともある。最初から非正規雇用であれば、返済は困難だっただろう。奨学金返済のために、正社員雇用を希望する学生が増えていることもうなずける。
実際、セガやDeNAでゲーム開発に携わり、現在はゲーム業界の採用支援などをしているファリアーの社長、馬場保仁さんも「奨学金問題は過去にも識者に議論されてきたが、ほとんどが大学を対象としている。入学するハードルが比較的低い専門学校で、奨学金を利用している学生が非常に多いことは、案外知られていないのでは」と指摘する。
ゲーム会社の初任給はまちまちで、首都圏で約500万円の年収を提示する場合もあれば、地方では最低賃金に近いケースも少なくない。ゲームのハイエンド(最上級)化が進む中、1人でも優秀な人材を欲しいのがゲーム会社の本音。だが、少子化に奨学金の返済が加わり、賃金の低いゲーム会社は学生から敬遠されがちだ。その結果、地方から順に採用が困難になりつつある。
現状をすぐに変えるのは難しい。雇用問題と教育問題が密接に絡んでいるからだ。ポイントは社員の賃金を上げることだが、そのためにはゲーム会社の業績拡大が不可欠だ。そのためには優秀な社員の採用が不可欠で、さらに学校側の教育水準の向上が必要となる。つまり教育面での産業界と教育界の連携が不可欠なのだが、まだまだ道半ばというのが正直なところだ。
その上でゲーム会社側は、賃金面での弾力性を持たせることが必要だろう。ゲーム業界は過剰な長時間労働が常態化している印象を受けるが、昨今の「働き方改革」で状況は改善されつつある。その一方で残業規制が強まった結果、社員の実質年収が目減りする例もある。働き方が変化する中、給与の支払い方も検討が必要で、副業の推進はその一つだ。基本給とは別に「手当」という形で業績に応じて流動性をもった総給与額の設定も必要かもしれない。業績にダイレクトに影響される「賞与」の前に、調整として「手当」を有効活用するのも、試みとしてはありだろうし、少なからずその傾向は見られる。
学校側はどう考えるか。馬場さんは「ゲーム会社が最低賃金以上の給与を支払ってでも雇用したい学生をどう送り出せるかが問われると思います。学生に明確な付加価値を付けることが、就職を前提とした専門学校の使命だと思うからです」と指摘する。それはまた、専門学校が生き残る条件とも言えるだろう。専門学校の使命は、学生の技術をゲーム会社の求める雇用水準まで引き上げること。特に奨学金受給者には不可欠だろう。私も微力を尽くしたい。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚して妻と猫4匹を支える主夫に。11~16年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後も事務局長として活動している。
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