渡辺謙:「西郷どん」斉彬の“真実” 「分かりにくさ」意識、「賛否両論」も歓迎

NHKの大河ドラマ「西郷どん」で薩摩藩主・島津斉彬を演じている渡辺謙さん (C)NHK
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NHKの大河ドラマ「西郷どん」で薩摩藩主・島津斉彬を演じている渡辺謙さん (C)NHK

 俳優の鈴木亮平さん主演のNHKの大河ドラマ「西郷(せご)どん」に、薩摩藩主・島津斉彬役で出演している渡辺謙さん。1月7日放送の第1回に登場すると、欧米列強の脅威から国を守るため、幕政を根本から変えようとする強い意志を前面に押し出した、どこかエキセントリックで新しい斉彬像を構築。視聴者に強い印象を与えてきた。「これまでの斉彬って人柄的に温かくて“ふくよか”なイメージ。でも僕はこの方の生き様を見ていると、いろいろなことをすごく急いでいる感じがしていて、その部分をかなりエッジを効かせてやっている」と話す渡辺さんに、斉彬や17年ぶりとなる“大河”への思いを聞いた。

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 ◇最近のドラマは「分かりやすすぎる」? 役では端境をどんどんとにじませ…

 渡辺さん演じる今回の斉彬は、聡明で卓越した知識を持ち、壮大な政治哲学で時代を牽引(けんいん)した“カリスマ”として描かれている。最初に大きなインパクトを残したのが、1月28日に放送された第4回。父の斉興(鹿賀丈史さん)と次期藩主を巡って“ロシアンルーレット”で対決するというまさかの展開にネットは騒然となり、以降も、御前相撲での吉之助(鈴木さん)との“大一番”(第5回)、激高しての“蹴飛ばし”(第11回)など名シーンを生み出し、その一挙手一投足がSNS上で議論の的になってきた。

 なぜここまで「西郷どん」の斉彬は視聴者の耳目を集めたのか。渡辺さんは「ここのところ役者や脚本、ドラマそのものというか映画も含めて、表現が非常に分かりやすく、懇切丁寧に奥の奥まで、説明しちゃっていることが多くて。今の“分かりやすいドラマ”の中では、面白がってくれてはいるのかなって気はしますね」と推測する。

 俳優として長年、第一線で活躍してきた渡辺さんから見ると、最近のドラマは「分かりやすすぎる」といい、「だから僕は、この人が何を考えているのか、分かりにくくしたい」ときっぱり。現在のドラマのあり方としては「ネット上で賛否両論あったり物議を醸したりするのはいいこと」と認め、「この人はいい人間なのか、実は悪い人なのか、そのへんの端境(はざかい)みたいなものも、どんどんとにじませようとしてやっている部分はある」と説明する。

 あえて“分かりにくさ”を信条とする渡辺さんだけに、斉彬役については「あとは見る方に委ねている感じ」と多くは語らず、「とにかく『西郷どん』の中の斉彬を、僕はこういうふうに思って、こういうふうに生きていますってやっているので、魅力的と思ってくださる方もいるだろうし、『こんなのは斉彬じゃない』と思っている方も多くいるだろうし、そのへんはお任せします」と話していた。

 ◇「全てをたたき込まれた」大河ドラマ よぼよぼになっても…

 そんな渡辺さんにとって大河ドラマとは? 初めて出演したのは1984年の「山河燃ゆ」。87年の「独眼竜政宗」では主演を務め、一気にスターダムにのし上がった。「基礎中の基礎をすべてたたき込まれた。歩き方や立ち居振る舞い、着物や鎧(よろい)の着方まで、ありとあらゆるベースを教えていただいた。ここまで時間をかけて、教わるということはないですから」と当時を振り返りしみじみ。「大河がなかったら今の自分は考えられない」と思い入れも相当強い。

 30年以上の時間が経過し、俳優としてベテランの域に入りながらも「今、自分がやりたいこと、やらなければならないこと、与えられたことに対して、どこまで真摯(しんし)に“たたき壊せるか”、日々やっているだけの話」と気持ちや情熱は昔と比べて何も変わらない。鈴木さんら“後進”に対しても「役でいえば藩主と配下という関係ではありますが、俳優としては同じまわしを巻いて同じ土俵で戦っているつもり」とまだまだ道を譲る気配はない。

 さらに渡辺さんは、以前NHKが大河ドラマと連続テレビ小説(朝ドラ)を「野球の3番、4番」に例えたことを引き合いに、「大河に出る、作るという気概みたいなものは僕も持っているので、この伝統は失わないでほしいですし、よぼよぼになっても、また出たいなって」と笑う。

 時代劇についても「制約が多くていいんですよ。携帯電話とかなくて、なかなか連絡もとれないし、すれ違うことも多い。人間の感情や情熱、情念。思いの深さというものが、僕らが今を生きているのと比べて、(当時は)3倍くらいある」と実感し、「だからこそ生きるの死ぬのっていうのが成立する。そういった思いや情念の深さの中で、生きていられるっていうのは俳優としての醍醐味(だいごみ)」と感慨深げに語った。

 「西郷どん」の第15回「殿の死」は、22日午後8時からNHK総合で放送される。

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