俳優の木村拓哉さんと人気グループ「嵐」の二宮和也さんが初共演する映画「検察側の罪人」(原田眞人監督、24日公開)は、師弟関係にある2人の検事が、ある殺人事件の捜査方針を巡って対立する姿を通して、「正義とは何か」を問いかける社会派ミステリー作だ。木村さんが、エリート検事・最上毅に扮(ふん)し、彼を師と仰ぐ若手検事・沖野啓一郎を、二宮さんが演じる。所属事務所でも、木村さんとは先輩と後輩の間柄にある二宮さんに、木村さんとの初共演の感想や撮影現場の様子を聞いた。
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「木村君は、僕のやり方を尊重してくれるんです。それほど長く(俳優を)やっているのだから、あなたのやり方でやっていい。その代わり、あなたのやり方を教えて。それにすべて添うことは難しいけれど、できる限りちゃんと整えるから、ということをやっていただけたというか……」と撮影現場での木村さんの“居方”を思い返す二宮さん。
二宮さんによると撮影現場での木村さんは、「感情がちょっと見えない」ところがあったという。なぜなら「すぐ黙る」から。「黙ると怒っているような顔になるから怒っているのかなと思うんですけど(笑い)、実際はそうではなくて、今、現場で起きている問題のその先、解決したあとをどのように展開していこうかと考えているんです。木村君にしても、原田監督と一緒にやるのは初めてだから自分の環境設定もあっただろうけど、僕を含め、他の人たちの環境を整えてくれたという印象でした。それが僕にはすごくやりやすかったし、みんなもやりやすかったのではないかと思います」と、木村さんの“座長”としての配慮に感謝する。
二宮さんが演じる沖野は、入庁5年目の若手検事だ。当初は最上を尊敬、信頼していたが、やがて捜査方針を巡り対立していく。沖野に対して二宮さんは「共感するところはなかったです」と言い切る。もっとも普段から「自分のことを応援してくれている人たちに間違った印象を与えないためにも、自分が借りるキャラクターには、共感であったり、深掘りしたりするようなことは、あまりしたことがない」という。
そのため、今回の撮影でも大事にしたことは「遅刻をしないとか、インフルエンザにかからないとか(笑い)」といった常識的なことと、芝居の面では、相手の演技に対して、「こちらも真正面からぶつかるときもあれば、受け流すときもあるというバランスを考えるということぐらい」で、「ここはもうちょっと疑っていいとか、そこは疑うのが早すぎるといった疑惑の濃度のハンドリングは、監督にやっていただいていました」と振り返る。
比較的穏やかな人柄の沖野だが、被疑者の松倉(酒向芳さん)の取り調べの際に見せる剣幕は、すさまじいの一言に尽きる。二宮さん自身も「狂気ですよね」と苦笑いしつつ、「あのシーンは大変でした。ずっと怒ってなきゃいけないし、ずっと罵倒(ばとう)し続けなきゃいけないし……」と話す。そして、「僕はどちらかというと円滑に生きようと思っている人間なので、ああいうことは一切しないんですけど、最初の段取りで中盤くらいまでやって見せたところで、じゃあ撮っていこうとなり、2、3時間くらいで終わったのでよかったです(笑い)」と打ち明ける。
その迫真の演技は、別室で2人のやり取りをイヤホンで聞いているという設定の最上役の木村さんの演技にも影響を及ぼした。木村さんは、先に撮影していた二宮さんと酒向さんの音源を聞きながら芝居をし、供述の内容に耐えきれなくなり部屋を出ていってしまうのだが、それは台本にはない行動だったという。
その場面について二宮さんは「そのシーンを撮る前日に、木村君が『明日あそこを撮るだろうから、やりたいようにやってきていいよ』というメールをくれたんです。当日も、『楽しみにしているね』というメールくれました。そういうふうに、(木村さんが)現場にいなくてもきちんとやらなくては、と常に思わせてくれる人でした」と改めて木村さんの座長としての気配りに敬服していた。
スリリングな展開に圧倒される今作だが、撮影現場は「基本は結構ワイワイとして」いたという。その陰には、初共演にもかかわらず、木村さんを「たくちゃん」と呼ぶ吉高由里子さんの存在がある。吉高さんは、検察事務官・橘沙穂を演じている。吉高さんとは「GANTZ」(2011年)で共演していた二宮さんは、当時の経験から「吉高さんは思考回路がちょっと変わった人(笑い)」と認識していたが、さすがに今回、吉高さんが木村さんに“ため口”をきくのには、「変な空気になったらどうしよう」と戦々恐々としながら、場を和ませることに腐心したという。
もっとも、二宮さんによると、当の吉高さんは木村さんとの共演には「相当緊張していた」そうで、「たくちゃん」発言のときも、二宮さんには「めちゃくちゃ怖かった。死ぬかと思った」と告白したそうだ。そんな吉高さんについて二宮さんは、スケジュールとオファーのタイミングから、「吉高さんは、多分、二つ返事で(今回の役を)引き受けているはずなんです」と推測しつつ、「(木村さんと二宮さんと共に)三角形を作る。その一辺を任されるとなったときに、いいですよ、やりますと言ってくれる思い切りのよさは、さすがとしか言いようがないです」と吉高さんの度胸をたたえる。
ところで、木村さんのことをこれまでずっと「平成の大スター」と思い続け、いつか共演をと切望していた二宮さん。その思いが一層強まったのは、かれこれ2年前、元号が変わるというニュースが流れたときだという。「その報道が出たとき、元年から30年までずっとトップで走ってきた人間と、その時代の最中に1回共演したい。それは誰だろうと考えたときに、やっぱり木村拓哉だなあと」と正直な気持ちを打ち明ける。以来、事務所には、機会があれば木村さんと共演したいと話していたそうだ。
その思いが実現した今、「僕はギリギリ滑り込めたからラッキーだったと思います」としみじみ語る。そして、「新しい元号になって、また新しいスターが出てきてとなったときに、(平成における昭和のスターの)石原裕次郎さんや勝新(勝新太郎)さんのように言われるのは、木村君だと思うんです。いろんな人たちの話を聞いていると、(裕次郎さんも勝新さんも)伝説はすごいじゃないですか。僕も新しい元号になったときに、(木村さんと共演したと)飲みながら後輩に自慢したいんです(笑い)」と晴れやかな表情を浮かべた。
(取材・文/りんたいこ)
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