小野憲史のゲーム時評:eスポーツのゲーム使用許諾は? 競技採用の可否が企業業績に影響も

東京ゲームショウ2018で開催された基調講演の様子
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東京ゲームショウ2018で開催された基調講演の様子

 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、対戦型のテレビゲームを「スポーツ」として扱う「eスポーツ」のゲーム使用許諾について語ります。

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 9月20~23日に幕張メッセ(千葉市)で開催された東京ゲームショウ2018で、eスポーツが注目を集めた。「eスポーツがスポーツとして広がるためのロードマップ」をテーマに議論が交わされ、実際にゲームで対戦する大型のステージ企画「e-Sports X」では国内外から来場者が詰めかけた。そこで改めて課題として浮かび上がってきたのが、ゲームの使用許諾だ。

 基調講演で「eスポーツ」の新団体「日本eスポーツ連合(JeSU)」の岡村秀樹会長は、eスポーツ普及について、教育機関との連携というアイデアを示した。2019年に開催される茨城国体では、芸術や文化面から開催される公式行事の一つ「文化プログラム」ではあるが、サッカーゲーム「ウイニングイレブン(ウイイレ)」(コナミデジタルエンタテインメント)シリーズを使用したeスポーツ大会が開催されることが発表された。国体をきっかけに、eスポーツの層の拡大につなげたいというわけだ。

 実際、今年8月にインドネシア・ジャカルタで開催されたアジア競技大会では、デモンストレーション競技ながら、日本チームが「ウイイレ」で金メダルを獲得し、日本のトッププレーヤーが世界でも戦える実力を備えていることが示された。選手層拡大を進めるというのは自然な流れだろう。教育機関との連携を進めることで、eスポーツの認知度向上と社会的地位の向上も期待できる。

 ただし、囲碁や将棋などと異なり、eスポーツで使用されるゲームソフトは、ゲーム会社の知的財産物だ。教育機関でゲームを使用できるか否か、現状ではグレーゾーン。部活動のためにゲーム機やゲームソフトを購入するのも、現状では難しいだろう。すでに教育機関に対して、大会の運営支援などをしている企業もあるが、窓口は一本化していることが望ましい。

 一方、企業にとってeスポーツは新たなマーケティング手段でもある。競技種目に採用されれば大きな宣伝効果を見込めるが、選定規準は主催団体によって異なる。岡村会長は基調講演で、茨城国体で「ウイイレ」以外のタイトル採用の可能性についても示唆したが、これによって企業の業績が影響を受ける可能性もある。そもそも複数のサッカーゲームがある中で、「ウイイレ」が採用された理由も判然としない。今後は採用プロセスの透明化が求められるはずだ。

 こうした状況を踏まえて、業界内ではeスポーツをゲームメーカー主催の「ゲーム大会」にとどめるべきだとする声も聞かれる。しかし、それだけではゲーム文化の地位向上は限定的だろう。一方で暴力性の高いタイトルは競技種目に不適切という声があるのも事実。ゲームごとにさまざまな大会のあり方があるはずで、全てをeスポーツとしてひとくくりにするのは、避けた方が賢明だ。

 2017年10月の衆議院議員総選挙に先駆けて、東京都が若者の投票率向上を目指して開いた体験イベント「eスポーツ×衆議院議員選挙」のように、eスポーツはゲーム業界と社会が新たな関係性を構築する手段になりえる。そのためには業界側が襟を正すことが重要で、中でもゲームの使用許諾に関するガイドライン作成は急務だ。JeSUにはそのためのリーダーシップを求めたい。

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 おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚して妻と猫4匹を支える主夫に。11~16年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後も事務局長として活動している。

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