名探偵コナン
#1146「汽笛の聞こえる古書店4」
12月21日(土)放送分
劇場版アニメ「海獣の子供」(渡辺歩監督)が、6月7日に公開される。「リトル・フォレスト」などの五十嵐大介さんがマンガ誌「IKKI」(小学館、休刊)で2005~11年に連載し、日本漫画家協会賞優秀賞(09年度)に選ばれたマンガが原作だ。圧倒的な画力と、海や生命の神秘を描いた壮大なストーリーで、ファンを魅了し続けている。アニメ化する上で渡辺監督は、可能な限り原作を具体化しようと考えたといい、「原作をアニメに落とし込みやすい形に変更することが正解にはならない」「途中で落ちるかもしれない高い崖を登るような覚悟だった」と話す。作品へのこだわりや思いを聞いた。
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「海獣の子供」は、自分の気持ちを言葉にするのが苦手な14歳の少女、安海琉花(あづみ・るか)の冒険を描く。琉花は、夏休み初日に部活で級友と問題を起こしてしまう。母親と距離を置いていた彼女は、長い夏の間、学校でも家でも自らの居場所を失う。そんな時、ジュゴンに育てられた不思議な兄弟・海と空に出会い、港町と水族館を舞台にさまざまな冒険を繰り広げる。
女優の芦田愛菜さんが琉花、石橋陽彩(ひいろ)さんが海、浦上晟周(せいしゅう)さんが空の声優を務め、稲垣吾郎さん、蒼井優さん、渡辺徹さん、田中泯さん、富司純子さんらも声優として出演する。
アニメ製作は、「鉄コン筋クリート」などのSTUDIO4℃。音楽は久石譲さんが手がけ、主題歌「海の幽霊」はシンガー・ソングライターの米津玄師(よねづ・けんし)さんが担当する。
渡辺監督は、原作について「ビジュアルだけ考えても非常に重厚感がある」と話し、アニメ化する上では「アニメに落とし込みやすい形に変更するということが正解にはならないだろうなという。可能な限り原作を具体化しようと、本当にチャレンジでした。ただ、どこまで到達点へにじり寄れるか、チャレンジするのは面白いかなと考えた」という。
製作は14年ごろにスタートし、大半の期間は「絵に費やされたといっても過言ではない」と渡辺監督。劇中の海の生き物などシーンによってはCGを使用しているが、基本は手描きだ。渡辺監督は「手で描くことの尊さへの挑戦というか。1枚、1枚、1本、1本といいますか、気の遠くなるような作業になってしまった」と振り返る。
原作は、大人になった琉花が昔語りをする場面から始まる長編だ。それを劇場版アニメにする上で渡辺監督は「琉花という一人の女の子のひと夏の出会いと別れのような形に落とし込めば、なんとか一編は描けるのではなかろうか」と考えた。アニメにする上でこだわったのは、どんなところだったのか。
「まずマンガの行間を埋めていくということでした。それは時間の流れやキャラクターの気持ちの流れみたいな部分。原作にないものを付け足すということではなく、原作にはないのだけれど、もしかしたらあったかもしれないなというふうに思ってくださればいいなという。マンガが持つ世界の一部に映画が存在できるような場面とシーンを描きました」
そのように原作の世界観に寄り添いながら、「アニメによって要約されてしまう情報は、むしろ盛れないか」ということを製作のテーマとしたという。
「原作のマンガに負けないだけの情報を画面に落とし込む。意識したのは、ロングの描写はたくさんあるのですが、顔のアップですね。意図的にアップを多めに撮っています。本来は情報が過多だったり、絵的に見づらかったりするので、アニメではアップはあまり多用しないんです。ただ、アニメが五十嵐先生の持つ絵の圧に負けじと、それ以上のものに到達しようと思った一つの証しが顔のアップでした」
音響の部分では、観客の「想像をかきたてる」ことにこだわったという。劇中では海の水の音やクジラの鳴き声など、実際に存在する音も登場する。音響監督の笠松広司さんが「実際の生音より、さらにディテールを研ぎ澄ますというか。実際その場では聞こえない音を彼が加工したり作ったりして、想像をかきたてる」工夫をしているという。
渡辺監督は「もちろん生音もたくさん入っていますし、水しぶきも当たり前のように入れています。ただ、一番大事だったのは、場面が展開したり、飛躍したりする時に聞こえてくる音は、実際の音じゃないのだけれど『こうかもしれない』と思ってもらうこと。それはキャラクターたちの気持ちを増幅させるような音でもある。そこは、笠松さんや音楽の久石さんに助けていただいた部分だと思います」と語る。
作品に流れるテーマは、海の神秘や生命の神秘と壮大で、クライマックスには、海を舞台にした超常現象も描かれる。一度見た時は圧倒され、その後、何が描かれていたのか、何を伝えようとしているのかと考えさせられる作品のように思える。アニメ「ドラえもん」シリーズなど子供向け作品を多く手がけてきた渡辺監督が、この作品から子供たちに伝えたいことは何なのだろうか。
「テーマは原作からお借りしている部分であって、言うなれば『答えは出ないことが答え』というか、『分からないということを分かる』というか……。子供たちは、自分の存在の意味みたいなものを考える時がいずれ来ます。その時に、この映画を通じて感じたモヤモヤが、『もしかしたらこういうことだったのかな』と考えるヒントや材料になってくれればいいなと思います。この映画が分かりにくいのは、主人公の琉花自身が分かり得ない部分に触れてしまったから。理解はできなくても、見たものや経験したものは本当のことだった。あれは確かなことだったと、自分自身で思えることがまず大事なことなんじゃないかなと思います。そこから、分からないものに向かっていくということが、好奇心。自分自身の飛躍も常にそういうところにあると思うので、自分の可能性をしっかりと抱き直してもらいたい」
渡辺監督は、原作者の五十嵐さんに「この作品は端的に言うと、どんなものか」と聞いたことがあるという。「五十嵐先生は、『たまたまふっと見た海の波間にぴゅっと魚がはねたような、そんな現象です』と話していました。それを必然とするか偶然とするかがとても大事で、答えは読み手やご覧いただいた方に預けられる。ぜひとも預かって、持って帰ってもらえたらいいですよね」と笑顔を見せた。
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