少年寅次郎:“渥美清さん似”子役が早くも話題 昭和の悪ガキ“発掘”の舞台裏

井上真央さん主演のNHK連続ドラマ「少年寅次郎」で寅次郎を演じる藤原颯音君(右) (C)NHK
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井上真央さん主演のNHK連続ドラマ「少年寅次郎」で寅次郎を演じる藤原颯音君(右) (C)NHK

 女優の井上真央さん主演のNHK連続ドラマ「少年寅次郎」(総合、土曜午後9時)が10月19日スタートした。国民的映画シリーズ「男はつらいよ」の主人公・車寅次郎(寅さん)の少年時代を描いた、山田洋次監督の小説「悪童(ワルガキ) 小説寅次郎の告白」(講談社)のドラマ化で、先日、東京・渋谷のNHK放送センターで行われた第1話試写終了後、報道陣の間で話題に上ったのが、寅次郎の幼少期を演じている子役・藤原颯音(はやと)君(9)。「寅さん」としてその名を知らない人はいないであろう、故・渥美清さんを想起させるルックスの持ち主で、昨晩のオンエアを見て「あれ、この子……」と思った視聴者も多かったはずだ。以前に演技経験こそあったものの、役が付いてのお芝居は今回がほぼ初という颯音君“発掘”の舞台裏に迫った。

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 ◇子役選びは最重要課題 入り口として求められた“渥美清さん似”のルックス

 ドラマは、寅次郎出生の秘密から、戦争を挟んだ悪ガキ時代、そして最愛の妹さくらに見送られて葛飾柴又の駅から旅立つ14歳までの物語。脚本は、2017年度前期のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「ひよっこ」などで知られる岡田惠和さんで、井上さんは寅次郎の育ての母・車光子を演じている。

 寅次郎の幼少期として第1話から登場した颯音君は、2010年4月15日生まれの9歳。子供タレントの事務所に所属し、過去には朝ドラ「とと姉ちゃん」(2016年度前期)などにも出演しているが、このときは数いる子役たちの一人で、「少年寅次郎」では妹のさくら役を含む、600人規模のオーディションによって“発掘”された。

 山田監督の小説をドラマ化するにあたり、子供の頃の寅次郎を、“渥美さん似”にするというアイデアが制作スタッフに確固としてあったというのも大きいが、それにしてもよく似ている。

 颯音君を起用した一人で、制作統括の小松昌代さん(NHKエンタープライズ)は、「寅さんイコール渥美さん」という構図を、日本人の心の中に「実在の人物以上に、実在するから」とした上で、「そっくりそのまま“生き写し”とまでいかなくても、あの特徴的な目、あとは骨格が似ている子をとにかく選ぼうと思いました。そこはドラマの入り口でもあるので、“激似”まではいかなくても、渥美さんを想起できるというのが第一条件。山田監督にドラマ化の話を持っていったときも、開口一番、飛び出したのが『これ、(ぴったりな)子役がいるのかね?』との言葉で、寅次郎役を見つけるというのはこの作品にとって最重要課題でした」と明かしている。

 ◇「昭和の子」に違和感なし オーディションから「悪ガキ」だった?

 ドラマは主人公の光子(井上さん)と、そんな光子が大好きな寅次郎(颯音君、少年期は井上優吏さん)との笑って泣ける物語となっている。そして、“渥美さん似”というルックス(左目の上は付けぼくろ)と並び、視聴者を引きつけるのが、颯音君が醸し出す悪ガキっぽさと何とも愛らしい表情だ。特に、今や絶滅危惧種となった悪ガキ、「昭和の悪ガキ」を颯音君が見事に体現しているのには驚かされる。

 オーディションでルックスと共に小松さんらスタッフの心を捉えたのが、まさにこの部分。物語は戦前からスタートすることもあって、「昭和の子に見える」というのも絶対条件で、その点でも颯音君は「違和感がなかった」という。

 小松さんは「オーディションのとき、本当に落ち着きがなくて、スタッフもこれはきっと大変なことになるんだろうなって思ったんですけど(笑い)。あとはゲラゲラと笑う子で、当然せりふも言わせてみせるのですが、そんなに芝居できない、そもそもお芝居をやろうと思っていないのが逆に良かった。そこで『この子しかいない』と思いましたし、カメラテストをやってみて、現場は満場一致でした」と秘話を披露する。

 ◇「イマドキの達者な子役たち」に当てはまらない特長

 最近、ドラマに登場する子役の演技が注目されることも多く、どの子もそれ以前から経験を積み重ねてきていて「達者」という印象を受ける。NHKでいうと、9月28日に最終回を迎えた朝ドラ「なつぞら」の粟野咲莉ちゃん、続く「スカーレット」の川島夕空さんや横溝菜帆さん、稲垣来泉ちゃんが該当するが、颯音君に限っていうと、彼女ら「イマドキの達者な子役たち」の特長に当てはまらないというのも面白い。

 「オーディションで『何かやってみて』とお願いすると、慣れているお子さんは私たちを笑わそうとしたり、いろいろとやってみせる。でも颯音君がそのとき何をしたのか実は全く覚えていなくて……。そういった意味では、子役として何か特長があるわけではないんですが、みんなの中に強く印象が残った。お芝居の経験がないからこそ、とにかく自分の気持ち優先で、そこの子供らしさが一番、颯音君のいいところだな」と小松さんはじみじみと語る。

 ◇笑顔がうそにならないため撮影で求めた二つのこと

 撮影するあたっては、井上さんら「大人たちの力」を借り、颯音君がスタジオで家族と一緒に本当に生活をしていると思えるような環境作りに努めたといい、いつしか井上さんが、母として颯音君にうれしいことを言えば笑い、悲しくなるようなことを口にすれば泣き出すという感じになっていったという。

 そのほか、颯音君に求めたものも聞くと 小松さんはまずは「心から笑う」と回答。さらには「想像すること」を求めたといい、「笑うのも、本当に楽しかったり面白くないと、颯音君の笑顔はうそになります。環境を作るとともに面白いことを想像させる。そして、その場面を想像させる。感受性の強い子ですから、その時に湧いてきた感情が顔に出ますので」と説明している。

 颯音君の出番は11月2日放送予定の第3話の途中まで。以降、寅次郎役は、やはり“渥美さん似”の井上優吏さんへと受け継がれるが、まずは颯音君のうそ偽りのない笑顔、さらに涙を楽しんでもらえればと思う。

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