超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は任天堂のゲーム機の特徴ともいえる革新的なコントローラーと、その現状について語ります。
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コントローラーの革新でまったく新しいゲーム体験を生みだし、大ヒットにつなげる……。任天堂のゲーム作りの根幹に流れる思想だ。ファミコンの十字ボタンを皮切りに、NINTENDO64の3Dスティック、WiiのWiiリモコンやWii Fit、ニンテンドーDSのタッチペンなど、任天堂のゲーム機では、常に新しいコントローラーの提案がなされてきた。
しかし、ここにきて、その神通力が弱まりつつある。ニンテンドースイッチの兄弟機として9月に発売された「ライト」は好例だ。本家「スイッチ」は本体の左右に着脱式の専用コントローラー「ジョイコン」を備えたが、「ライト」では本体と一体型になった。振動機能や赤外線センサーといった、ジョイコンならではの機能も省略されている。
もっとも、これには業界の構造とユーザーの嗜好(しこう)という、二つの変化があると考えられる。
前者でいえば、ここ数年で大作ゲームとインディー(独立系)ゲームという、業界の二極化が進行した。両者で共通するのが、複数ハードへの移植展開を前提とした売り上げの最大化だ。開発の手間を考えると、ゲームの操作設計は共通であることが望ましい。その結果、ジョイコンの機能を生かしたゲーム開発が、敬遠されるようになってきたのだ。
後者の面では売り上げを見るのがわかりやすい。全世界で1473万本を売り上げた「大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL」を筆頭に、スイッチのヒット作はジョイコンに対して、過度に依存しないゲームばかりだ。逆にジョイコンならではのゲームは、「ワンツースイッチ」で301万本、「ARMS」で210万本とさえない(VGCharts調べ)。他社ならともかく、任天堂としては不満の残る数字だろう。
鳴り物入りで10月に発売された体感フィットネスゲーム「リングフィット アドベンチャー」も、初週の国内セールスが6万8497本(以下ファミ通調べ)と、ロケットスタートとはいかなかった。ジョイコンをアタッチメントに装着して楽しむスイッチならではのゲームだが、「Nintendo Labo」の不振で流通各社が注文を控えた影響か、動きが鈍い。ただし、2週目も6万4045本を売り上げているだけに、年末商戦に向けてどれだけ数字を伸ばせるか、期待したい。
もっとも、これがスイッチの失速につながるとみるのは早計だ。今後も11月に「ポケットモンスター ソード&シールド」、12月に「東北大学加齢医学研究所 川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のNintendo Switchトレーニング」、2020年3月に「あつまれ どうぶつの森」と注目作が控えている。ただし、いずれもヒット作の続編で、ジョイコンならではの遊びがどの程度盛り込まれるかは不明だ。
ここから導き出されるのは、スイッチユーザーの保守性だ。コントローラーの革新による新しい体験は不要で、なじみの操作で没入感のあるゲームを遊びたいというわけだ。もっとも、これはスイッチに限らず、家庭用ゲーム機のユーザーすべてに言えることだ。スマホゲームやPCゲームが世界的な存在感を見せる中で、家庭用ゲーム、そして任天堂がどのような体験を提示できるか、あらためて注目したい。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚して妻と猫4匹を支える主夫に。11~16年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後も事務局長として活動している。
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