放課後カルテ
第10話(最終話) これからも健康でいてほしい
12月21日(土)放送分
チャレンジングな役柄にも果敢に立ち向かい、役者として進化を続ける松坂桃李さん。貫井徳郎さんのミステリー小説をドラマ化した「ドラマスペシャル 微笑む人」(テレビ朝日系、3月1日午後9時放送)では、母子殺人事件の容疑者という謎多きエリートサラリーマン役を怪演している。松坂さんがテレビ朝日のドラマで主演を担うのは、俳優デビュー作である「スーパー戦隊シリーズ」の「侍戦隊シンケンジャー」以来のこと。若手勢の登竜門としても知られている「スーパー戦隊シリーズ」だが、30代に突入し、実力派俳優となった松坂さんにとってはどんな学びのあった場所なのか。松坂さんが「戦隊モノで学んだことはたくさんあります。そしてそれ以上に、『ここから頑張らないと』と実感することが大事だったと思います」とこれまでの歩みを明かした。
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「微笑む人」で松坂さんが演じるのは、エリート銀行員の仁藤俊美。一流大学を卒業後、大手都市銀行に就職するなど、誰もがうらやむ生活を送っていた仁藤だったが、ある日、妻と娘を溺死させた罪に問われることとなる。
「侍戦隊シンケンジャー」以来のテレビ朝日での主演に、「背筋の伸びる思い」と晴れやかな笑顔を見せる松坂さん。ミステリードラマでありながら、仁藤が逮捕されてから始まる物語となり、「『この人は本当に事件を起こしたのか』ということが、尾野真千子さん演じる記者の目を通して描かれていきます。そういった展開は、なかなか珍しいものだと思いました」と内容に惹(ひ)かれ、同時に仁藤という人物にも興味が湧いたという。
逮捕された仁藤が殺害の動機として語るのは、「本の置き場所が欲しかったから」というなんとも不可解な言葉。穏やかなほほ笑みを持ち、仕事も家庭も順調に見えた仁藤の知られざる一面が次第に明らかになると、視聴者は「一体、仁藤は何者なのか?」と翻弄(ほんろう)されていくことになる。松坂さんは「仁藤という人物のつかみどころのない感じや、何を考えているのかわからないところなど、どうやって消化していけばいいんだろうと、いろいろ考えていました」というが、「彼と正面から向き合っていけば、ややこしいことにはならないだろうと思った」と悩みが吹っ切れ、仁藤役に立ち向かった。
「微笑む人」とタイトルにもあるように、仁藤の“ほほ笑み”が今作のテーマをよく表している。仁藤のほほ笑みが優しく見えるときもあれば、不気味に見えるときもあるから、不思議だが、松坂さんは「ほほ笑みを意識して変えようとは思いませんでした。今作では、他者の感じ方によって、仁藤のほほ笑みが違ったものに見えてくる」と明かす。今作を通して感じたのは、「誰もが、人を第一印象だけで完結させようとしてしまうことがある」ということだという。
「簡単に“いい人”、“悪い人”と決着させるのは簡単だけれど、誰にでもいろいろな一面があるというテーマが、今作のベースラインにはあって。それはとても興味深かったです。仁藤が語る動機にしても、大多数の人が『そんなことないだろう』と思うけれど、それは仁藤に抱いていたイメージがあってこそ、そう思うわけですよね。『こいつの言っていることは危険だ』と思うことは簡単だけれど、その人にとってはそれが真実かもしれない。さらに、自分自身も誰かから『危険だ』と思われる可能性はあるし、自分の中の“普通”と、相手が思う“普通”って、きっと違ってくるものですよね。そのちぐはぐ具合がこのドラマの面白いところだと思いますし、改めて印象やイメージだけでは片付けられないことって、たくさんあるなと感じました」
難しい役を演じきり、「ある意味、視聴者の方に石を投げ入れるような作品。やりがいがありました」と充実の表情を見せる。近年は、映画「孤狼の血」でのもがきつつ成長していく若き刑事役、「娼年」での娼夫となった青年役、「新聞記者」での自身の役割に悩む内閣情報調査室の官僚役など、数々の注目作で大きな存在感を発揮している。役者としてのスタートとなる「侍戦隊シンケンジャー」での経験を聞いてみると、「まだその当時は、ものづくりの楽しさを感じる余裕はなかったですね」と告白。「とにかく朝が早いんですよ。朝早くに岩舟山まで行って、爆発して、帰ってくる」と笑いつつ、「現場の厳しさを学んだと思っています。ド新人だったので、あいさつや現場でのマナーなど、この仕事をやる上で大切なことが学べたのが大きかった」と振り返る。
「仮面ライダー」シリーズと同じく、「戦隊シリーズ」も数々のブレーク俳優を輩出している。その後、活躍できるための秘策を学べるものなのかと聞いてみると、「やっぱり、本人次第だと思うんです」とニッコリ。「戦隊モノが終わると、一年くらいは“戦隊特需”と言われるものがあるかもしれません。でもそこで、“己(おのれ)として頑張る”ことが大事だと思っていて。例えば、戦隊モノでは撮影以外にも取材やヒーローショーなど、あらゆる仕事があって、新人とはいえ、新幹線でもグリーン車に乗せていただくこともあるんです。ファンの方から声援もいただけますし、ともすれば、勘違いしやすい状況でもある。そこで、『これは自分の人気じゃないんだ』『作品があってこその人気なんだ』と実感して、終わった後に『ここから頑張っていかないといけない』と邁進(まいしん)することが大事かなと。戦隊での経験を踏まえて、その後、自分をきちんと立て直せるか。そこまでできてこそ、戦隊の経験が生きてくるのかなと思っています」
「地に足をつける。それはすごく難しいことなんですが、身近な人の言葉を聞くといいかもしれないですね」という松坂さん。「僕のマネジャーさんは、勘違いしそうになるとすぐに言ってくれる人だったので。天狗になる前に、常に鼻をへし折られています!」とちゃめっ気たっぷりに周囲に感謝。積み重ねたキャリアを見渡しても、高い壁だからこそチャレンジするなど、穏やかなほほ笑みの中にいつも熱い役者魂をみなぎらせている。「作品選びの基準としては、マネジャーさんとはよく『バランスが大事』という話をします。いろいろな色が入っている作品に挑戦していきたい。それがきっと、40代、50代になったときに生きてくるはず。あとはうちの事務所は、“品とポップ”を掲げていて、それも守らなければいけないですね(笑い)。なにより自分が『面白い』と思ったものに向かっていくことが、一番のやりがいになります」
ドラマスペシャル「微笑む人」は、テレビ朝日系で3月1日午後9時から放送。(成田おり枝/フリーライター)
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