小野憲史のゲーム時評:ゲーム業界のテレワーク 意外に進まない理由

IGDA日本のテレワーク勉強会の様子
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IGDA日本のテレワーク勉強会の様子

 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、さまざまな業界で進むテレワークについてゲーム業界での現状を語ります。。

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 新型コロナウイルスの感染拡大に備えてテレワークの導入が拡大中だ。IT業界はその筆頭で、日本マイクロソフトが東日本大震災を契機に、2011年前後からテレワーク勤務制度を導入している。これに対してゲーム業界でもアカツキが2月19日から在宅勤務の推奨を始めた。他社でも時短勤務や在宅勤務の取り組みが始まっているが、総じて腰が重いのが現状だ。

 もっともテレワーク先進国のアメリカでは、最盛期には労働者の約4割がテレワークだったが、2010年代に入って縮小傾向に転じている。ポイントは、それまで旗振り役だったIT業界が態度を変化させたことだ。Yahooは2013年、IBMは2017年に在宅勤務を禁止し、アップル、Google、Facebookなども社員の判断に委ねている。コミュニケーション不足による生産性の低下などが理由に挙げられている。

 このことは、単にツールを導入するだけでは、テレワークはうまくいかないことを意味している。テレワークは働き方の問題にとどまらず、業務の進め方や、企業のあり方に関係するからだ。実際にテレワークが常態化している業界では、アニメや出版業界をはじめ、フリーランスの割合が多い。動画一枚、記事一本でいくらといった具合に、作業と労力の単位が明確だからだ。

 これに対してゲームは、さまざまなデータやプログラムが複雑に絡み合い、互いに影響を与えながら成立している。そのため個々の作業を適切な単位で切り分け、作業難度に応じて対価をつけつつ、個別に発注することが難しい。たとえ仕様書どおりに開発しても、テストプレーの結果を受けて、作り直しになることもある。開発環境を自宅でそろえる負担も大きい。このように、もともとテレワークに向きにくい業界であることは否めない。

 もっとも、少数ながら成功事例も存在する。スクウェア・エニックスから2016年に発売された「いけにえと雪のセツナ」は好例だ。都内のゲーム開発会社、Tokyo RPG Facgtoryによって、テレワーク主体で開発された。これに限らず英語圏のインディー(独立系)ゲームには、テレワークで開発する例がみられる。クリエーターが世界中に点在し、物理的に集まることが難しいからだ。

 一方で大規模開発においても、複数の企業が連携して開発することが一般化している。フランスに本社を置くUBIは好例で、1本のゲームを世界中のスタジオが連携して作り上げている。一つのスタジオだけでは人員がまかないきれないからだ。これは日本でも同様で、現世代機では協力企業の存在なしに大作ゲームを開発するのは、不可能に近い。そのための技術やノウハウが過去10年で蓄積されてきた。

 テレワークを地方人材の活用に向けて、積極的に進める動きもある。ゲーム業界むけにイラストや3DCGのクラウドソーシング事業などを手がけるMUGENUPでは、Uターン、Iターン人材を精力的に活用中。昨年11月に総務省から「テレワーク先駆者百選」にも選定された。

 こうした現状に対して、セガ、コーエーテクモゲームスなどでヒットタイトルの開発を手がけ、現在は総務省地域力創造アドバイザーもつとめる蛭田健司氏は、テレワーク成功のポイントに「コミュニケーション」「セキュリティー」「労務管理・人事評価」「マネジメント」の4点をあげる。そのうえで、「これらはテレワークで問題点が表面化しやすいだけで、ふだんから注意すべき点」だと指摘している。

 もともとテレワークは働き方改革の一環として、以前から導入が議論されてきた。今回の感染拡大は、そのきっかけにすぎない。それまで一社で完結していたゲーム開発が、今や複数企業で分担するようになったように、今後はゲーム業界においても、多様な働き方が当たり前の時代になっていく。そうした変化にいち早く対応することが、企業の持続的な成長に不可欠ではないだろうか。

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 おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。2008年に結婚して妻と猫4匹を支える主夫に。2011~16年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後も事務局長として活動している。

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