超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、新たなゲームの普及で生まれた映画会社との協業について語ります。
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成長を続ける世界のゲーム市場。2021年には約20兆円(1801億ドル)に達するという予測もある。家庭用ゲームだけでなく、モバイルゲームやPCゲームなど、分野の広がりもさまざまだ。日常生活へのゲームの浸透で、「ポケモンGO」に代表されるAR(拡張現実)ゲームが好例。2019年11月にマイクロソフトが拡張現実バイザーの第二世代「HoloLens 2」を法人向けに発売するなど、スマートフォン向けにとどまらない、新しいゲーム体験が広がりを見せようとしている。
もっとも、日常生活とゲーム体験の複合が進む中で、新たな問題が発生しつつある。開発テストを行う場所の問題だ。例としてスマホを片手に、屋外で遊ぶゲームについて考えてみよう。この場合、開発中のゲームを屋外でテストすることが必要だが、安全面の確保や秘密保持が課題となる。広大な敷地を持つ海外の大手企業なら可能でも、大半の日本企業では、テストの頻度が低下することは明らかだ。技術的には可能でも、現実的には難しいとして、お蔵入りする可能性も否定できない。
こうした中、映画会社とのコラボで新しい開発スタイルを模索する動きが出てきた。バンダイナムコ研究所が今年3月、東宝スタジオ(東京都世田谷区)のプロダクションセンター内に新設した「東宝スタジオラボ」だ。ラボは研究開発室と可動式の円筒型スクリーンを備えた映像ルームから構成され、AI、VR(仮想現実)、MR(複合現実)など、最新技術を用いたエンタテインメントの研究開発が行われる。試作品はスタジオの敷地内でテストできるほか、撮影ステージなどを有償で利用することもできる。
約7万8000平方メートルと国内最大級の敷地面積を誇り、高度なセキュリティーを備える東宝スタジオ。映画「七人の侍」など、さまざまな名作が製作された”夢の工場”だ。同社の本山博文さんはさっそく、映画「シン・ゴジラ」の撮影にも使用された、約400坪の敷地面積を誇る撮影ステージに、一体型VRヘッドセットのオキュラスクエストを持ち込んだ。その時の感想について「狭い開発室と異なり、どこまでも歩いていけそうな感覚に、これまでにない仮想体験が得られた」と語る。
施設や設備だけでなく、映像製作に関する膨大な知見と、経験豊富なクリエーターが数多く集まっている点も重要だ。映像ルームのデザインや内装も、映画のセットと業務用ゲームの製作ノウハウが交わり、細部まで配慮が行き届いたものになった。執行役員の大森靖さんは「CGやモーションキャプチャなど、映画とゲームで近しい技術もあれば、セットや小道具など、遠い技術もある。分野は違っても、クリエーティブな姿勢は共通で、さまざまな刺激や共創が期待できる」という。
ラボ新設のきっかけになったのが、2018年5月に行われた、映画「シン・ゴジラ」の宣伝イベント「ゴジラ・ナイト」だ。HoloLensを使用したリアルな拡張体験に、ゲームの新しい可能性を見いだし、クリエーター同士の交流がスタート。そこから1年半でラボが新設される、異例の展開となった。「バンダイナムコグループの各企業から、多彩な技術相談を受ける中で、弊社も次のステージに進む必要があった。ラボ新設はタイミングが良かった」と大森さんは明かす。
ラボでは東宝スタジオの敷地全体をドローンで空撮し、詳細な3DCGデータを作成。今後の研究開発などに生かしていく予定だ。ゲームと現実の融合が進む中、こうした異業種間でのコラボレーションは、今後も増えていくと思われる。既存の発想にとらわれることなく、視野を広げることが重要だろう。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。2008年に結婚して妻と猫4匹を支える主夫に。2011~16年に国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表として活躍。退任後も事務局長として活動している。
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