放課後カルテ
第6話 そんな状態では見えるもんも見えないぞ
11月16日(土)放送分
「やまとなでしこ」(フジテレビ系)、「ハケンの品格」(日本テレビ系)、「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)、NHK連続テレビ小説「花子とアン」、大河ドラマ「西郷どん」など、数々のヒットドラマを生み出してきた脚本家の中園ミホさん。実は占師という顔も持ち、「私の場合は、占師をやっていなかったら、たぶん脚本書けなかったんじゃないかな。人間をたくさん見られたのがすごくよかったです」と話す。そんな中園さんは、「やまとなでしこ」で手応えを感じて以降、脚本執筆をする際にある“大切にしていること”があるのだという。中園さんにヒットドラマを作る秘訣(ひけつ)を直撃した。
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中園さんは、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒業後、広告代理店勤務、コピーライターを経て、14歳から師事していた今村宇太子さんのもとで、占師として活動を開始。1988年に脚本家としてデビューし、数々のテレビドラマを手がけてきた。
著書「占いで強運をつかむ」(マガジンハウス)を発売するなど、占師としても活躍する中園さん。この占師の活動が、現在の脚本家としての活動に大きな影響を与えたと話す。
たとえば、「高級そうなスーツをビシッと着こなした企業のトップ」のような人でも、占師の前では、自身の弱みや家庭の悩み、借金の話などを「なんでもさらしてくれる」という。
「人っていうのは、颯爽(さっそう)とした光の当たっているところじゃないところがみんなあるということと、私はそっち側の顔の方が人間的にチャーミングで、魅力を感じる人間なんだなと思って。そういう顔を見られると『ああ、なんてすてきなんだろう!』と思ったり、それは占師時代に発見したこと。だから私のドラマに出てくる人はみんなちょっとダメなんですけど(笑い)」と明かす。
中園さんといえば、徹底的に取材を行うスタイルから“取材の中園”とも言われている。「すごく人間ウオッチングができたので、たぶんその頃から“取材の中園”だったんだと思う。そのとき取材したことを今も書いているのかも知れないし、本当に無駄なことってないなと思います」と占師時代について語る。
「どんな脚本家にも負けないくらい、取材だけは本当に時間をかけている」と話す中園さん。その理由を尋ねてみると、「私、本当にね、才能がないので。才能のある脚本家は、じっとしていても、湯水のように、アイデアも、ストーリーも、いろんなものが浮かんでくる。そういう天才たち何人も知っていますけど、私はそういうタイプじゃない」と話す。
取材活動を通して、「次書きたいものが出てきちゃう」という。「スーパー外科医のドラマ『はつ恋』(NHK)というドラマを書いたんですけど、その取材をしているときに組織、大学病院って面白いなって『ドクターX~外科医・大門未知子~』につながった。林真理子さん(の同名小説が原作)の『anego』を書いているときに、派遣さんに出会って、『ハケンの品格』の取材を始めて(脚本を)書いたりとか、いつもそういうふうに次につながっていっちゃうので、今も書きたいものがあります」と明かす。
先日放送された特別編も話題となった「やまとなでしこ」のほか、「ドクターX~外科医・大門未知子~」などヒット作を次々と生み出す中園さんに、“ヒットドラマを作る秘訣(ひけつ)”を聞いてみた。
「私、ヒットドラマの何十倍も“こけたドラマ”を書いてるので、『ヒットドラマを作る秘訣は?』と聞かれると、『こけるドラマをいっぱい書くことです。そのうち当たります』ということしか言えない(笑い)。そんな方法知っていたら、全部当ててみせるし、そんなことできないので……」。
しかし、「やまとなでしこ」では、ある“驚きの発見”があったといい、脚本を書く上での方向性が決まった。
「やまとなでしこ」は、「世の中で一番大切なもの。それは、お金」「愛よりお金」という哲学を持つ松嶋菜々子さん演じる神野桜子が主人公。類いまれな美貌と教養を武器に仕事を完璧にこなすキャビンアテンダントで、幼い頃、極貧だったという大きなトラウマを持つ。そんな桜子が、ある日、合コンで医者だと身分を偽る貧乏な男・中原欧介(おうすけ、堤真一さん)と出会い、恋する姿を描く“ロマンチック・ラブコメディー”だ。
「借金まみれのハンサム男と裕福なブタ男、どっちが結婚して女を幸せにしてくれると思いますか?」などのセリフも印象的だったが、中園さんは「どんなに清らかな人でも、お金はないよりはあったほうがいいなということは、みんなちょっとは思っているはずなんだけど、それを松嶋菜々子さんが恥じらいもなくガンガン言うっていうのが、『逆にピュア』『逆にすがすがしい』っていうふうに女性たちが言ってくれた。あれは本当にびっくりした」と振り返る。
「『ああ、そうかー!』と思って。あの桜子さんが、自分の中の本音を言ってくれるということが、そんなにみんなを元気にするんだ、気持ちいいことなんだと思って」と続けた中園さんは、「これからはきれいごとは書かないで、人がいつも思っているけど、なかなか口にできないような本音を、私のドラマでは書いていこう、って思ったのが、『やまとなでしこ』からです」と明かす。
「他の脚本家だと『そこまでえげつないことは書かないよ』というような本音も書いていこうというのは、『やまとなでしこ』で味をしめたというか。そういえば、そのへんからこける率は少なくなったかもしれない……。でも、相変わらずいっぱいこけています(笑い)」。
「ハケンの品格」は、2007年にシリーズ1が放送された、数々の資格を持つ時給3000円のスーパー派遣社員・大前春子(篠原涼子さん)の働き方を描く作品。「私を雇って後悔はさせません。3カ月間お時給の分はしっかり働かせていただきます」というセリフ通り、高いスキルでさまざまな問題を解決していく。令和の時代となった今回の続編では、「働き方改革」「高齢化」「副業」「アウトソーシング」「AI導入」などをテーマに、新しい時代の働く人の品格を問う。
シリーズ1の取材時に出会った派遣社員とは、現在でも“Zoom飲み”を行うなど交流があるという中園さん。「最初はみんなガードが堅かったけど、腹を割って話してくれるようになった。それからは、立場の弱い派遣社員が職場でどんな理不尽な目にあうか、どんなことに傷つくか、本音で語ってくれた。本当にみんなよく泣いていた。それでも明日も会社にニコニコしていくっていうのは、素晴らしいな、偉いなと思ったし、この人たち、暴動も起こさずによく頑張っているなと思った」と振り返る。
「ハケンの品格」以降も数々の作品を生み出してきた中園さんだが、「いろんな作品を書いてきたけど、企画を考えるときに『彼女たち、彼たちが元気になってくれるかな?』『これ見たら明日会社行こうって気持ちになってくれるかな?』っていうのは無意識に考えるようになっちゃって。この人たちに寄り添うのは、もう長年かけて私の体質がそういうふうになってしまったからです」と大きな存在になっていると明かす。
実は、「花子とアン」を書いたときにも、彼女たちの顔を思い浮かべていたといい、「(吉高由里子さんが演じた主人公の)村岡花子さんが『赤毛のアン』を訳した言葉、『曲がり角の先に何があるのかわからないの。でもきっと一番いいものに違いないと思う』というメッセージを毎朝伝えられたら元気になってくれるかな? と企画を選んだときから考えていた」と告白した。
「やまとなでしこ」で手応えを感じたという、普段はなかなか口に出せないような人の“本音”を書いていく脚本。その“本音”は、粘り強い取材を通して得たリアルな言葉だ。丁寧な取材とリアルな言葉に裏打ちされた面白さに、「とにかく元気になってほしい」という思いを込めて物語を紡いでいく中園さんの姿勢が相まって、どの作品も、多くの支持を集める唯一無二の存在になっているのではないか。現在放送中の「ハケンの品格」はもちろんのこと、今後の中園さんの作品も楽しみにしたい。
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