龍と苺:「響」柳本光晴の新連載 圧倒的な天才を描く理由 「とんでもないものを描きたい」

「龍と苺」のコミックス第1巻(C)柳本光晴/小学館
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「龍と苺」のコミックス第1巻(C)柳本光晴/小学館

 マンガ「響~小説家になる方法~」で知られる柳本光晴さんの新連載「龍と苺」。今年5月に「週刊少年サンデー」(小学館)で連載が始まり、8月18日にコミックス第1巻が発売された。「響」は、「マンガ大賞2017」に選ばれ、アイドルグループ「欅坂46」の平手友梨奈さん主演で実写映画化された話題作で、デビュー小説で芥川賞と直木賞を同時受賞した女子高生・鮎喰響が主人公だった。「龍と苺」もまた天才少女・藍田苺が主人公で、中学2年生の苺が将棋界に真正面から挑む。なぜ、新作でも天才少女を描こうとしたのか? 将棋をテーマとした理由は? 柳本さんに聞いた。

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 ◇圧倒的なキャラを描きたい

 --主人公は「響」にも通じる天才です。キャラクターはどのように生まれたのでしょうか?

 「響」の次回作ということで、最初は意識して、響とは違う、おとなしいおどおどした子を主人公に添えてみました。ただ、どうやっても動いてくれない。どうやってもお話が10ページ以上続かない。それで、いろいろ考えたり「響」を立ち上げた編集さんと相談したりして、「響」の次回作、という考えをいったん捨てて、とにかく、今、描きたいキャラを描いてみよう、と思い。結果、苺というキャラになりました。特に理屈はなく、ただ、「響」の後でもまだ、こういうキャラが描きたかったみたいです。

 --圧倒的な天才を描く理由、圧倒的な天才の魅力を教えてください。モデルがいるのでしょうか?  自身とも共通点がある?

 前作に続いて圧倒的な天才というキャラですが、天才を描いているという意識はあんまりなくて、とにかく、圧倒的なキャラを描きたい。見上げるしかない、とんでもないものを描きたい、これは創作をする人には普通の考えだと思います。すごいものが描きたい!っていう。

 モデルはないんですけど、「響」の時から自分に似てるとは言われます。才能どうこうではなく、なんか、所作が。まあ大抵のマンガの主人公は作者の分身ですしね。

 --新作の題材に将棋を選んだ理由は? 昨今のブームも関係しているのでしょうか?

 ぎゃー! ブームは全く関係ない!と言っても言い訳にしか聞こえませんよね……! 将棋を描こうと思ったのは、「響」の初期の時、5年くらい前? 藤井聡太君が出てくる前なんです!

 「響」は最初、単行本があんまり売れず、これ、早々に終わっちゃうのかな、と思って、次回作を考え始めて、ちょうどその時にお会いした編集さんがすっごい変な方で。なんだこいつと思って、話を聞いてみたら、元奨励会の人だという。で、将棋の話を聞いてみたら、面白い世界で! そして、将棋の人って変な人が多いと思って。

 それで興味を持って、プロットを作り、キャラ、簡単なネーム(10ページ)を作り、そうこうしてるうちに「響」が売れてくれて、連載が続き、将棋がブームになり……。いったんお蔵入りになり……。今に至ります。

 ◇主人公の苺ちゃんがどんどん可愛くなってきて…

 --「サンデー」は少年誌です。少年誌ということで意識していることはありますか?

 なにもないです。そもそも、前作は青年誌でしたが、女子高生主人公でしたし。マンガにジャンルはないと思っています。営業の人が、お客さんに説明しやすいよう、便宜的に分類分けしてるだけで。あるとしたら面白い系かつまらない系か。面白い系のものを描こうと頑張っています。

 --苦労していることは?

 将棋の世界は何も知らないので、世界の把握がちょっと大変なんですが……。今のところは、小説に比べたら全然楽です。とにかく対立構造を作りやすい! 前作での小説というジャンルでは、対決にもっていくまでが毎回とにかく大変でしたけど、今回は勝負の世界なので、当たり前の様に対決してくれる。夢のようです。

 取材は……。コロナで、軒並みアマチュアの大会が中止になっていて。そしてアマの大会はあまり既存の写真資料もなく。それが多少困っていますね。マンガで将棋を描く、今のところは、本当、小説に比べたら派手にやってくれるんですけど。今後ワンパターンになりそうで、今からどうしようかと思っています。

 ー-今作を描く際に一番大切にしていることは?

 一話一話面白くなるように……だけだったんですけど、最近、主人公の苺ちゃんが独り歩きし始めてくれて、どんどん可愛くなってきて。この子の可愛さは伸ばしていきたいなと。

 まあ……盤面とか専門的なお話は、描いても読者の人に通じない以前に僕が理解してないので描けないので、そこは、無理に描こうとしないように。一つだけ、今作は、キングダム形式を採用していまして。強いやつはでかい。

 --今後の展開は?

 苺がはたしてどこまでいくのか。前作「響」の時もそうでしたけど、基本、先は決めていません。ただ、この子がどこまでいくんだろうと、描きながら見定めているっていうか。響と違い、苺ちゃんは弱さもあるので、途中での挫折もあるかもしれないし、ダメになった僕を見て、君もびっくりしただろう、みたいなこともあるかもしれない。先の展開を、楽しみにしながら描いています。

 --最後に読者にメッセージをお願いします。

 「龍と苺」は、苺ちゃんという女の子が主人公です。かつて天才と呼ばれた全ての人がその肩書を返上するほどの、圧倒的な、唯一無二の、彼女こそ天才の名に唯一人ふさわしい、50億分の1の存在である。それでいて、可愛らしいおちゃめな中学2年の女の子が、将棋という、強いものが正義といった男社会でどう立ち振る舞うのか。ぜひ、ご覧ください。

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