M-1グランプリ2024 決勝戦
決勝戦 FIRST ROUND 前半戦 1~5組目
12月22日(日)放送分
世界最高峰の総合格闘技イベント「UFC255」が11月22日(日本時間)、米ネバダ州ラスベガスの「UFC APEX」で開催される。メインカードは、今年7月にフライ級新王者となったデイブソン・フィゲイレード選手が、アレックス・ペレス選手を迎え撃つ初防衛戦。セミ・メインカードとして、ヴァレンティーナ・シェフチェンコ選手対ジェニファー・マイア選手の女子フライ級タイトルマッチも組まれている。WOWOWの「UFC -究極格闘技-」解説者で、“世界のTK”としても知られる高阪剛さんが2試合の見どころを語った。
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ーー2階級王者ヘンリー・セフードが引退し王座返上後、新フライ級王者となったデイブソン・フィゲイレードを高阪さんはどう見ていますか?
フィゲイレードは、いい意味で“フライ級っぽくない選手”ですよね。フライ級はUFC最軽量級なので、スピードがあって、身体能力が高くて、細かい技術がある選手ばかりなんですけど、お互いそうだから、なかなか決め手にまで及ばない試合も多いんです。
ーーたしかに軽い階級になるとどうしてもKO率は下がります。
かつてフライ級の“絶対王者”と呼ばれたデメトリアス・ジョンソンですら、判定決着は多かったですからね。ところがフィゲイレードは、フライ級でありながら、“ヘタしたら(3階級上の)ライト級とかでも戦えるんじゃないか?”と思うくらい、KOパワーやサブミッションの極(き)め力があるんです。しかも試合を通して終始、強い攻撃を出し続けることができるというのが、この選手の強さだと思います。
ーーフライ級離れしたパワーが決定力につながっている、と。
そうなんですが、パワーだけが理由ではないんです。まず、フィゲイレードはスタンドでの距離設定は遠目で、ガードを下げた構えなんですよ。相手からしたら、相当遠く感じる距離から打撃を入れられているんです。
ーー実際よりも遠い距離から、一気に距離を縮められて打撃を打たれている感覚になっているわけですか。
ボクシングのようにしっかりガードを固めて、前傾姿勢を取るのではなく、伝統派空手のように体をまっすぐ立てて、ガードも下げた構えで、ちょうどいい距離設定をするんですよ。相手からすると“ちょっと遠いな”という距離から、踏み込みの速いフィゲイレードは打撃を当てられる。必ずその位置取りをしっかりとやるんです。
ーー自分の打撃だけが当たる遠い距離をまず取るわけですね。
そこから相手が前に出てきたら、カウンターを合わせるのもうまいんですよ。相手の打撃に合わせて、縦ヒジや右のアッパー、たまにタックルにも入るし。また、手数を出して相手を削るタイプではないので、だからこそ、あの強い打撃や極め力が持続するんだと思います。
ーームダ打ちせずに、効果的に強い攻撃を入れられる、と。最近は、序盤からフィゲイレードがペースをにぎり、そのままフィニッシュするような試合が多いです。
距離感を完全に把握したんだと思います。だから、その距離に入るのが速い。タイトルを取った前回のベナビデス戦でも、その前にやったベナビデスとの初戦より早く攻撃できる距離に入っているんですよね。
ーーより早く陣地取りができるようになっている。
だから、その辺のセンスもいいんですよ。一回対戦した相手の弱みや、“ここをいかれると、あいつは嫌がるタイプだぞ”っていうことがわかり、早くそこを突ける。それができる選手ですよね、フィゲイレードは。
ーーそのフィゲイレードに今回挑戦するアレックス・ペレスもまた、決定力が高い選手です。
そうですね。レスリングのバックボーンがしっかりあって、スタンドでもグラウンドでもフィニッシュできる選手ですけど、スタンドの打撃は、フィゲイレードとは全く異なる戦い方をするんですよ。とにかく手数を出して、どんどん自分から相手を追い込んでいくタイプ。最終的には手数で勝ることのプラスアルファとして、その体幹の強さから“当たれば倒せる”という打撃を身につけているから、高いKO率を誇っているんだと思います。
ーー遠い間合いからの一撃の破壊力のフィゲイレードに対し、接近戦での手数のペレスという違いがあるわけですね。
またペレスはアナコンダチョークを得意としていて、極めにいくのはもちろん、そこからいいポジションに移行する動きもよく使うんですけど、あれって“がぶり返し”というレスリング技術の応用なので、そこの移行がすごく早いんですよね。また、そもそものレスリング力があるので、プレッシャーをかけて、どんどん前に出られるんだと思います。要は相手のタックルを怖がってない。もし組みついてきても、いなす、がぶる、首を取る、という技術が身についているので、何も恐れず前に出られてるんじゃないかな。
ーーそうなると今回の試合も、スタンドでの距離設定が重要になってきそうです。
そうですね。遠い間合いのフィゲイレードと近い間合いのペレス。だからペレスが、どれだけ前に出ていけるかでしょうね。ただ、不用意に前に出るとカウンターを入れられてしまう。
ーーフィゲイレードの強打が待っているわけですね。
だから、そこでもう一つ工夫を入れた攻撃を用意しているかどうかだと思うんです。フィゲイレードは隙(すき)がない選手なので。打撃はカウンターも取れるし、自分から当てにいくこともできる。タックルもできれば、相手のタックルにギロチンチョークなどを合わせることもできる。またバックを取るのも早いから、スピードがあって、なおかつパワフルなんです。ペレスにしたら、普通に攻めていっても勝てないのは百も承知だと思うので、どこまで工夫できるか。自分の武器をどれだけ有効利用できるかだと思いますね。
ーー接近戦の強さとレスリングの強さをどううまく使えるかどうか。
リズムがつかめるかどうかですね。ちょっと手が出せないな、とか踏み込めないな、という局面が嫌なんですよ、こういう選手って。そうするとだんだんガードが下がってしまったり、相手のフェイントにハマったりすることが起こりがちなので。
ーーそれこそ試合開始早々にフィゲイレードに中央を取られて、バックステップするような展開にされたら、相当厳しいわけですね。
厳しいですね。もう一つ、フィゲイレードは前回ベナビデスを極めたバックチョークがあるじゃないですか。あれは絵面的にものすごく相手にプレッシャーを与えたと思うんですよ。こんな残酷な極め方をしてくるのかっていう。
ーーチョークでべナビデスの体が弓なりになって、プロレス技のキャメルクラッチみたいになっていました。それで白目を剥いて失神という……。
あれは衝撃映像でしたよ。ああいう極め力を持っているというのは、他のフェザー級選手に対してかなりのけん制になったと思います。ペレスがそれで踏み込めなくなってしまったら、良さがまったくなくなってしまうので、勇気を持って前に出られるかどうかですね。
ーー続いて、女子フライ級タイトルマッチ。王者ヴァレンティーナ・シェフチェンコが、シュートボクセ所属のジェニファー・マイアを迎え撃つ4度目の防衛戦ですが、この試合はどう見ていますか?
この試合も男子のフライ級タイトル戦と同様に、距離設定が重要になってくると思います。シェフチェンコはサウスポーで相手がオーソドックス、ケンカ四つの状態にめっぽう強いんですよ。相手が遠く感じる間合いをとっておいて、出てきたところに前手の右フックを合わせるのがすごくうまい。そしてマイアもくしくも前述したペレス同様、前に出たいタイプですよね。
ーーシュートボクセらしいアグレッシブな戦い方です。
だから接近戦での連打の打撃が得意で柔術黒帯のマイアからしたら、シェフチェンコにカウンターを取られないようにしながら、組めるかどうかというのがまず一つ。ただ、組んだところでシェフチェンコには柔道、サンボ仕込みの投げがあるので、なかなか崩していくのは難しいかな、とは思いますね。
ーーシェフチェンコは、キックボクシングやムエタイで数多くの世界タイトルを獲得したストライカーですが、柔道も黒帯のスポーツマスターで、近年は寝技の技術向上も目覚ましいです。
だからシェフチェンコもまた、隙がない王者なんです。マイアにしてみたら、スクランブルに持ち込むしかないと思うんですよ。例えば、シェフチェンコに投げられても、そのまま回転して上のポジションを取るとか。2の手、3の手をとにかくやめない、ということが必要だし、重要になってくると思います。
ーー荒れた展開に持ち込んで、盤石なシェフチェンコのリズムをいかに崩すことができるか。あの手この手で攻めていけるか、ということですか。
本当にグッチャグチャの展開に持ち込むしかないと思うんですよ。そこで負けないだけのフィジカルとスタミナを持つしかない。それこそシュートボクセらしく、とにかくガンガン前に出て攻めていくような、ヴァンダレイ・シウバ、マウリシオ・ショーグンをイメージした試合作りを期待したい。同じ土俵で技術の競り合いをしても分が悪いと思うので、泥臭くいってほしいですね。そうしたら、また別のシェフチェンコも見られるかもしれないし、かなり激しい試合になるんじゃないかと思います。
*……試合の模様は、「UFC‐究極格闘技‐ UFC255 in ラスベガス 男女フライ級ダブルタイトルマッチ」と題し、11月22日正午からWOWOWライブで放送。WOWOWメンバーズオンデマンドでも同時配信される。
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