小野憲史のゲーム時評:「はじめてゲームプログラミング」 任天堂ならではの良質な“プログラミング遊び”

ニンテンドースイッチ向けプログラミングソフト「ナビつき! つくってわかるはじめてゲームプログラミング」(任天堂)の公式サイト
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ニンテンドースイッチ向けプログラミングソフト「ナビつき! つくってわかるはじめてゲームプログラミング」(任天堂)の公式サイト

 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、話題のニンテンドースイッチ向けプログラミングソフト「ナビつき! つくってわかるはじめてゲームプログラミング」(任天堂)について紹介します。

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 あくまで個人の趣味嗜好の話なので、異論があることは承知している。そのうえで書くと、これまで発売されたニンテンドースイッチの全ソフトの中で、筆者がもっとも高く評価しているタイトルが「Nintendo Labo」のVR Kitだ。段ボール製のキットを組み立てて、VRゲームを筐体ごと作って楽しむという内容だったが、ソフト側にも画期的な仕組みが入っていた。タッチ操作で手軽にプログラムができる「Toy-ConガレージVR」がそれだ。しかし、「Nintendo Labo」の売り上げ不振と共に、「Toy-ConガレージVR」も幻のソフトとなっていた。

 その特徴をそのままに、新たにパッケージソフトとして発売されたのが「ナビつき! つくってわかるはじめてゲームプログラミング」だ。タッチ操作だけで手軽にゲームが作れるという内容で、「Toy-ConガレージVR」のコンセプトが踏襲されている。そのうえで、「Toy-ConガレージVR」ではわかりにくかった点が徹底して作り込まれ、小学生から大人までプログラミング遊びが楽しめる内容に昇華された。プログラミング教育が必修化される中、絶妙のタイミングで発売されたこともあり、息の長いソフトになりそうだ。

 本作では鬼ごっこ遊びから本格的な3Dゲームまで、レベルの異なる7本のゲームがガイドに沿って作れる。クリア後は自分で自由にゲームを作ることも可能だ。有料の「ニンテンドースイッチ Online」に登録すれば、作ったゲームをオンライン上で共有したり、他人の公開プログラムを改造したりもできる。Twitter上でハッシュタグ「#はじプロ」などで検索すると、さまざまな自作ゲーム動画が投稿されていることが分かるだろう。中にはプロのゲーム開発者による投稿もあり、初心者から上級者まで、幅広い層から支持されているソフトになっている。

 中身に関して言えば、本作には、複雑なことをわかりやすく説明する、任天堂ならではの良質なチュートリアルのテクニックが満載されている。情報科の教員だけでなく、全教育関係者に体験して欲しい内容だ。また、ニンテンドースイッチの専用コントローラー、Joy-Conの多彩な機能を活用した、さまざまなゲームが作れる点でも数少ない開発環境になっている。UnityやUnrealEngineといったプロ用のゲームエンジンでは難しい、傾きセンサーなどを活用したゲームが、「はじプロ」では容易にできるのだ。この点だけでも「買い」だろう。

 もっとも、本作はプログラミングの入門編には最適でも、そこから高度なプログラミング教育につながる内容ではない。自分で中身を改造したり、拡張したりできないからだ。本作をプログラミング教材に活用したり、塾などの教材に使用されたりすることも、任天堂としては本意ではないだろう。任天堂のDNAは「おもちゃ屋」であり、教育ビジネスを新たな事業の柱に据える可能性もないと思われる。良くも悪くも「プログラミング遊び」に徹した内容であり、その意味で極めて優れたソフトである。そのことは本作の評価を決しておとしめるものではない。

そのうえで個人的には、改めて「Nintendo Labo」シリーズの復活を期待したい。ゲームの中身は画面の中だけにとどまらない。筐体(きょうたい)も含めてデザインされることで、ゲームの魅力が何倍にも膨らむからだ。実際に製品として販売せずとも、設計図をPDFファイルなどで公式サイトに公開し、ユーザーがダウンロードして段ボールなどに張り付け、組み立てるといった形も考えられるだろう。ゲームプログラミングは他人を楽しませるための手段であって、目的ではない。そして他人を楽しませる手段は、何もゲームプログラミングに限らないと思うのだ。

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 おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011年からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。

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