超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、「JRPG」について考えます。
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「ドラゴンクエスト(ドラクエ)」シリーズの生みの親として知られる堀井雄二氏が米サンフランシスコで開催されたゲーム・デベロッパーズ・チョイス・アワード(GDCA)で3月23日(現地時間)、生涯功労賞を受賞した。日本人による受賞者は「ソニック」シリーズで知られる中裕司氏をはじめ、7人目となる。会場で上映されたビデオメッセージで堀井氏は、若い頃にマンガ家に憧れていたことを明かした。そして、「自分にとって『ドラクエ』はコンピューター上に描いたマンガのようなもの」だと説明すると、会場から拍手が湧いた。
もっとも、国民的RPGとして知られる「ドラクエ」シリーズも、海外での知名度はそれほどではない。理由の一つとされるのが、堀井氏が自ら説明した「マンガ的なRPG」という特性だ。マンガやアニメ文化の下地がある日本ではヒットしたが、欧米圏では「古くさく、地味なゲーム」と受け止められたのだ。「ドラクエ」と人気を二分する「ファイナルファンタジー(FF)」シリーズと比較すると顕著で、派手なCGで映画的表現を追求した「FF」シリーズが欧米圏でヒットしたのに対して、「ドラクエ」シリーズは足踏みが続いた。
こうした中、欧米圏のゲーマーで生まれた造語に「JRPG」がある。「ジャパニーズ・ロールプレイングゲーム」の略称で、正確な定義はないが、「マンガ・アニメ的なビジュアル」「古くさく、代わり映えのしないゲームシステム」「一本道なストーリー展開」が特徴とされる。2000年代以降、欧米圏のゲームがFPS(一人称視点シューティング)を中心に、リアリティーを重視していったのに対して、日本のRPGはマンネリで古くさい……。2006年にPS3・Xbox360が発売されると、こうした消費者の嗜好(しこう)はより強まっていった。
風向きが変わってきたのが近年のインディー(独立系)ゲーム市場の拡大だ。欧米圏でJRPGに影響を受けたゲームが数多く発売され、再評価の機運が高まってきたのだ。代表例が2015年に発売された「アンダーテイル」で、本作を開発したアメリカ人のトビー・フォックス氏は、影響を受けたゲームの一つに「MOTHER」シリーズをあげた。「MOTHER」はコピーライターの糸井重里氏が「ドラクエ」シリーズに触発されて企画書を書き上げ、制作を主導したタイトルだ。なお、「アンダーテイル」は2017年に日本語版が発売され、日本でもヒットしている。アメリカに輸出されたJRPGが現地で進化し、逆輸入された例だとも捉えられるだろう。
海外におけるJRPG熱の高まりには、ゲームエンジン「RPGツクール」の普及も影響している。1990年に源流をたどれる本シリーズは、幾多のバージョンアップを経て、国内外で数多くの作品を生み出してきた。その中には商業ゲームでは生まれにくい意欲作も多い。国産ゲームでは、バトル要素をなくして探索要素に特化したAVG「ゆめにっき」(2002年)が好例だろう。海外では、シリア難民の開発者による自伝的AVG「Path Out」(2014年)、アメリカ人のイラストレーターを中心に開発された、うつや自殺をテーマにしたRPG「OMORI」(2020年)などが高く評価されている。いずれもゲーム開発経験の乏しいクリエーターによるタイトルだ。
こうした変化を追い風に、「ドラクエ」シリーズの海外セールスも上向いてきた。発売元のスクウェア・エニックスでは2020年9月、ナンバリング最新作「XI」(2017年)で、全世界でのセールスが600万本を突破したと発表した。このうち海外での販売数は約160万本と推察される。「FF」シリーズで、すでに日本と海外での販売数が逆転しているように、現在制作中のナンバリング最新作「XII」においても、海外での販売数増加が期待できる。
ビデオメッセージで堀井氏は、「ドラクエ」が「ウィザードリィ」「ウルティマ」に影響を受けたことを説明した。同様にJRPGに影響を受けたタイトルが世界中で開発され、うねりをおこしている。この例に限らず、優れたゲームは国境を超え、互いに影響を与えあい、イノベーションを起こしていく。こうした傾向は開発ツールの普及やSTEAM教育の浸透に伴い、ますます強まっている。JRPGから揶揄(やゆ)的な表現が薄まり、ジャンルの一つとして定着が進む中、その国や地域ならではの、多様性に富んだゲームが楽しめるようになることを期待している。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。
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