鋼の錬金術師:完結編製作に至った原作愛と“2人”の願い 実写版プロデューサーが語る5年の道のり

「鋼の錬金術師 完結編 復讐(ふくしゅう)者スカー/最後の錬成」のポスタービジュアル
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「鋼の錬金術師 完結編 復讐(ふくしゅう)者スカー/最後の錬成」のポスタービジュアル

 荒川弘さんの人気マンガ「鋼の錬金術師(ハガレン)」が原作で、人気グループ「Hey! Say! JUMP」の山田涼介さんが主演を務める実写映画シリーズの完結編が、「鋼の錬金術師 完結編 復讐(ふくしゅう)者スカー/最後の錬成」(曽利文彦監督、5月20日・6月24日公開)として2カ月連続で公開される。2017年に公開された前作から実に5年を経ての完結編公開までの道のりと、“ハガレン”の魅力をプロデューサーの葭原弓子さんに聞いた。

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 ◇完結編のきっかけになった2人のキーパーソン

 「鋼の錬金術師」は、2001~10年に「月刊少年ガンガン」(スクウェア・エニックス)で連載された、荒川さんの人気マンガ。錬金術が科学のように発達した世界を舞台に、エドとアルの兄弟が、失った体を取り戻すため「賢者の石」を探す旅に出る……というストーリー。アニメ化もされ人気を博し、2017年には1作目の実写映画が公開された。

 新作は、マンガ「鋼の錬金術師」の連載20周年を記念した新プロジェクトとして公開される。二部作の前編となる「復讐者スカー」は、原作でも人気のキャラクターである“傷の男(スカー)”を中心としたストーリー。かつて国軍によって滅ぼされたイシュヴァールの民の復讐(ふくしゅう)のために、すべての国家錬金術師の抹殺を誓うスカーが、エドと相対することになる。後編「最後の錬成」は、“お父様”との戦い、その後のエドとアル、仲間たちの物語が展開し、原作の最終話までを描く。

 完結編を製作するきっかけの一つになったのが、作品に携わった2人の“キーパーソン”の熱意だったという。1人目はエドを演じた山田さんだ。“ハガレン愛”がとても強かったという山田さんについて、葭原さんは「エドが、アルの体を取り戻すところまで自分で演じきりたいということをずっとおっしゃっていたんですね。前作の公開が終わった後も、お会いする度にハガレンへの熱意を伝えてくれました。」と明かす。

 そしてもう一人のキーパーソンが物語の生みの親、荒川さんだった。「(前作の)オリジナルキャストでハガレンの最後を見たい」という思いがあったといい、葭原さんは「お二方の声が製作陣の強い原動力になって。そこに突き動かされた」と振り返る。

 ◇原作の世界観を忠実に再現

 「オリジナルキャストを一人も欠かさない」という荒川さんや制作陣の心からの願いは、キャスト陣が売れっ子ぞろいということも手伝って調整に準備を要した。実際に企画が本格始動したのは2019年の5月だったという。

 始動の決め手となったのは脚本が固まったことだった。「偉大な原作のファンの方にも、ぜひ実写映画を見てもらいたい強い思いがあった」という葭原さん。制作陣だけでなく、荒川さん、出版元のスクウェア・エニックスといった原作サイドも納得できる脚本ができるまで粘ったといい、「よし、これで行ける!と思った脚本が仕上がったのが、2019年5月あたりでした」と明かす。

 原作の最後まで描くという大前提を踏まえ、葭原さんには壮大な原作の世界観を忠実に再現したいという思いがあった。「例えばアニメを見ている方、原作のファンの方が思い描いている『ハガレンってこういう世界観だよね』というイメージを実写として提供したい。そして、原作に忠実に描きたいという、二つの軸からぶれることがないように製作していました」

 世界観を忠実に再現したいという思いは、新キャラクターのキャスティングにも影響を与えた。「ルックスが似ているのは当然ですが、ハガレンは多くのキャラクターが登場する作品で、それぞれのキャラクターにもファンがついている。キャラクターの内面を俳優さんが持っていて、それを演技として表に出せる人を選ぶのもかなり大変だったので、そこがもう一つのテーマでもあったかなと思います」

 「やはり、二部作通して一番キーとなるのは、内野聖陽さんが演じてくださったヴァン・ホーエンハイムだと思います。ルックスが似ているというのもありましたが、内野さんはお芝居に対してとてもストイックな方。原作を読み込んでくださって、ヴァン・ホーエンハイムの性格、お父様の性格を自分の体の中の一部のようにして演じてくださいました。かなり監督とも長い時間をかけて、“お父様”、そしてヴァン・ホーエンハイムの人物像を確認し合いました」

 ◇コロナ禍で千葉にオープンセット 荒川弘も訪問

 2020年8月のクランクインを目指し、前作と同じくイタリアでの撮影を計画していたがコロナ禍が影を落とし、国内での撮影となってしまった。

 しかし、千葉県鋸南町に大規模なオープンセットを建築して、ハガレンの街を再現。美術担当は、前作と同じスタッフが務めていたため、前作で撮影したイタリアのトスカーナ地方をコンセプトに作り上げたという。「何重にもペンキでいろんな色を塗って古さを出したり、“ハガレンっぽさ”を出すのにとても細部にまでこだわってくださいました。街の再現というところに対しては、かなり高いものが提供できたと思っています」と葭原さんは自信を見せる。

 撮影は2020年8~12月と長期にわたったが、当時はコロナ禍真っただ中。撮影は困難を極めたが、現場のモチベーションはとても高かったという。「特に続投メンバーはすごく楽しみにしてくださっていたので、やっとできるという思いで、けっこう楽しんでくれました」と明かす。さらに、荒川さんも現場を訪問。鋸南町のオープンセットも訪れたといい、「荒川先生が喜んでいる姿を見ると、俳優部もスタッフもものすごくテンションが上がるので。私たちにとっては、偉大な原作を生んだ、自分たちがバイブルのように見ている作品の生みの親なので、その方が見ているのはモチベーションにつながりましたね」と振り返った。

 ◇

 「一言で答えられないのがハガレンの魅力」と語る葭原さん。テーマがたくさんちりばめられている作品で、年齢、性別、環境などの要素で受け取るテーマが左右されると分析する。

 「連載当時に鋼の錬金術師を読ませていただいた時と、作品に携わるということで読んだ時で、感じたテーマ性がまったく違っていました。人間愛であるとか、命であるとか、仲間の大切さであるというのを描いている作品だと思います。自分の成長とともに感じ取れることが変わっていくということが一番の魅力だと思いますし、20年前に荒川先生が書かれた作品が、2022年の今読んでも通じる普遍的なものだなと思います」

 スタッフ、キャストが一丸となり、原作へのリスペクトとともに長い時間をかけて作り上げた今回の完結編。“ハガレン愛”の魂が凝縮された二部作に仕上がった。

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