ドラゴンボールDAIMA
第11話 デンセツ
12月23日(月)放送分
4月に亡くなったマンガ家の藤子不二雄Aさんの最後の新作となるエッセー「藤子不二雄A&西原理恵子の人生ことわざ面白“漫”辞典」の最終回が、「ビッグコミック」(小学館)10月増刊号に掲載されたことが話題になっている。最終回を掲載した同作の最新2巻も発売された。第2巻には、藤子不二雄Aさんが2022年3月末に執筆したという手書きの遺稿も収録された。「ビッグコミック」増刊号で約15年間連載された同作で、連載開始時から作品を担当した飯塚裕之さん、連載を立ち上げた初代担当編集に、“巨匠”と同作の魅力を聞いた。
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藤子不二雄Aさんは、1934年生まれ。1951年に小学校の同級生だった藤本弘(藤子・F・不二雄)さんとの共作「天使の玉ちゃん」でマンガ家デビュー。1954年に藤本さんと共に上京し「藤子不二雄」として本格的に活動を始め、共作の「オバケのQ太郎」などを生み出した。1987年にコンビを解消し、藤子不二雄Aとして活動。代表作に「プロゴルファー猿」「怪物くん」「まんが道」など。4月に88歳で死去した。
藤子不二雄Aさんと一緒に仕事をしたり、取材をしたりしてきた人から「優しい人だった」「社交的だった」という声を聞くことも多い。初代担当は「大変、お優しい方でサービス精神旺盛な方です」と語る。
「お酒を飲めば楽しく、無邪気で、いくつになってもやんちゃで、年下の編集者にも敬意を払って接してくれます。記憶をたどっても、怒ったところを見た覚えがありませんし、人の悪口を言ったところも聞いたことがありません。あるとすれば、お酒の席で冗談めいて話すそれがそうかもしれませんが、すべては“面白い宴席の話”というエンターテインメントの一環のような雰囲気があり、深刻さはありませんでした。仕事上、いろいろなストレスもあったかもしれません。ですが、すべてお酒とゴルフで、楽しく昇華させていたのだと思います。涼しい顔をして原稿をあげ、何事もなかったように飲みに行く。それがA先生のこだわりのスタイルだったのかもしれません」
飯塚さんも「昨今のコロナ禍で、ここ数年は直接お目にかかる機会にも恵まれませんでしたが、コロナ以前には年末のパーティーなどでお目にかかり、ごあいさつすると、とても温かく接してくださいました。たまにお目にかかっても、とても腰が低く、キチンと対応してくださり、人間的な優しさと人のよさを感じました。パーティーでお目にかかると、いつも握手をしてくださるのですが、あの手のぬくもりは今でも忘れられません」と振り返る。
一方、飯塚さんは「とても優しく、思いやりのある方だと思います。ただ、仕事に関しては厳しい一面もありました」とも語る。仕事に対する姿勢はストイックそのものだった。
「第1集を作る時、カバーイラストについてはかなりリテークをいただき、最終的にはA先生自らがラフを起こしてくださいました。そのラフを見て、線一本一本が、当たり前なのですが“絵を描く人の線”で、普段接している好々爺(こうこうや)のイメージとは別の一面を見た気がしました。現代のマンガ制作は、コンピューター上で行われることが多く、意のままに修正ができることから、仕上げ段階での調整に皆さん時間をかけられますが、A先生の作品はまさに“仏像の一刀彫り”みたいなところがあって、一瞬でも削り損じたら作品はおしまい……というような緊張感がみなぎっています。ネームを切らずに原稿用紙にいきなり下描きから入るというA先生の制作スタイルは、ある意味一瞬一瞬が真剣勝負なのでしょう。そこには『あとで何とかしよう』とか『この問題はほかをやってから調整しよう』とかの考えが入る余地がないので、描きながら頭脳がフル回転している感じがします。長年のキャリアとマンガ家の天性の勘で、確実に面白い作品を仕上げる。まさにプロ(職人)の鑑(かがみ)のようなお方です」
「藤子不二雄A&西原理恵子の人生ことわざ面白“漫”辞典」は、西原理恵子さんとコラボしたエッセー。藤子不二雄Aさんが一番好きだという格言「明日にのばせることを今日するな」などをお題としたエッセーに、西原さんがイラストと“ぼやき”でつっこむという内容で、打ち合わせ一切なしの異例のコラボが人気を集めた。
初代担当が、連載が始まった経緯を説明する。
「この企画は15年前、A先生からの希望で始まりました。伊集院静さんと西原理恵子さんが、この企画とほぼ同じテイストの連載を持っており、それを読んだA先生が、西原先生に興味を持ったのがきっかけです。A先生と西原先生が直接お話ししたのは、新宿でした。初めて会ったにもかかわらず、ふたりはすぐに打ち解け、食事後はA先生の行きつけのバーで遅い時間まで飲んでいました。その時『僕に気を使わないで好きにイラストを描いてほしい。伊集院さん(A先生は古くからのお友達)との連載が大変気に入っているので、ぜひあのバージョン(バージョンはA先生の口癖)でやってほしい』と説明されていました。マンガ界の重鎮であり大御所でもあるA先生が、自分の作品に対して『どうぞ好きに暴れてください』と笑って許しているところが、とても印象に残っています。西原先生がどんなものを描いてくるのか、第1回目の原稿が上がってくるのを誰よりも楽しみにしていらっしゃっていたのはA先生でした。ことわざのエッセーは、A先生がいずれどこかで発表しようと書きためていたものでした。連載開始の時にはすでに10本以上ストックがあったように記憶しています」
同連載はエッセーだ。飯塚さんは、藤子不二雄Aさんの文章の魅力をどのように感じているのだろうか?
「マンガ家さんには『分かりやすく構成する』ことが求められます。読者の裾野が広いことから、より分かりやすい構成が求められるからですが、総じて皆さん構成がとても上手です。中でもA先生は、マンガ作品を見ても分かる通り、非常に分かりやすい構成と表現を持つ方なので、文章が分かりやすく、かつ天然で面白く表現することが身体に染みついていらっしゃるのだと思います。どんなささいなことでも、A先生が話すと分かりやすく面白い。導入から始まって、話題が展開するワクワク感、そしてクライマックスに続いてオチに至るまで、短いエッセーの中でもショートムービーのようなしっかりとした、かつ分かりやすい構成が、『さすがベテラン!』と思える完成度で仕上がってきます。それに加えて、先生ご自身の温かみのあるキャラクターを、文章の端々から垣間見ることができ、読後になんとも言えないほのぼのとした気持ちになります。仕事のこと、日常生活のこと、お酒のこと、ゴルフのこと、家族のこと、そしてトキワ荘のこと。どんな素材もA先生の包丁にかかれば、独特な味わいの料理としておいしくいただけます」
確かに藤子不二雄Aさんの文章には人柄が出ている。初代担当は「文章は淡々とした短文の積み重ねで、自然体のA先生を感じることができるかと思います。ですが、自然体のふりをしながらも、繰り返し推敲(すいこう)をして言葉を吟味し、最適な表現を選び抜いて書かれていました。『頑張って書いたぞ! すごいだろ!』という気負いを全く感じさせず、さらりと書くところが、A先生ならではの、文章の魅力だと思います」と説明する。
同連載で、藤子不二雄Aさんの人柄が出ているエピソードについて飯塚さんに聞いてみると……。
「第1集に収録されている『浅き川も深く渡れ』のエピソードが好きです。これは、グループでハイキングに行った時、川で溺れ、まさに生命の危機!!という場面であるにもかかわらず、女性が見ているから……というだけの理由で、助けを求めずに満面の笑顔で手を振ったというエピソードで、その場面が想像できて思わず笑ってしまいました。A先生の作品は、エッセーに限らず、人間の浅はかなところがよく表現されていて、読者は笑いながらも教訓として学べる。先生自身は教訓として書かれているつもりはまったくないのでしょうが、その波瀾(はらん)万丈な人生を描くだけで、非常に含蓄のある教訓となってしまうんです(笑い)。第2集の『頭隠して尻隠さず』も先生のお人柄がよく出ていると思います。これは、ゴルフのラウンド中に、痔(じ)が出血して、キャディーさんに見つかってしまうというエピソードで、その時の気恥ずかしさに加え、人間の見栄(みえ)のような気持ちにとても共感できます。数々の失敗を臆面なく、面白おかしく作品として表現できる懐の広さも感じます」
藤子不二雄Aさんの魅力的なエッセー、西原さんのつっこみのバランスが絶妙だ。2人の化学反応について、飯塚さんは「自然体のA先生に対して、とても攻撃力の強い西原先生のイラストですが、私はこの作品においては、西原先生の攻撃だけではない内に秘めた優しさをいつも感じています」と語る。
「ほかの作品ではよく知りませんが、この『人生ことわざ面白“漫”辞典』においては、西原先生は原稿を必ず締め切り前に上げてくださいます。そんなところにも、西原先生のA先生に対するリスペクトと思いやりをヒシヒシと感じる連載でした。A先生のエッセーに対して、一見そっぽを向いているようなネタのイラストを描いているように見えても、A先生がその文章を書いた時の気持ちまでキチンと感じ取って描かれているという印象です。原稿のやり取りの時にも、A先生のご健康を気遣うような言葉が端々にあり、A先生を思う気持ちを感じます。誌面においては、A先生が西原先生をご指名なさったのが大成功だったと思います。見開きの中で、それぞれが勝手なことを言っているようで、目に見えないところでお互いを信頼し合っている関係性があって、一つの作品となった時に何倍にも面白くなっている。A先生には最初からそこまで見えてらしたんだろうなと。連載15年はその調和と破壊力の成果だと思います」
初代担当が「A先生が西原先生のイラストを気に入らなければ、15年も続くことはなかったはずです。西原先生がA先生を尊敬していることはよく分かります。たとえ攻撃的なイラストでも、よく読めばA先生への愛情があふれています。逆にA先生もまた、西原先生に大変なリスペクトを抱いていたと思います。異例のコラボと、皆さんは感じるかもしれませんが、A先生自身からみれば、異例でもなんでもなく、西原先生の反応までを含んでの作品。A先生自身が、その仕上がりを楽しんでいたように思います」と話すように、“異例のコラボ”のようで、“異例”ではないのかもしれない。
藤子不二雄Aさんは代表作の一つの「笑ゥせぇるすまん」のイメージが強いこともあり、ブラックユーモアのマンガ家と認識している人も多いかもしれない。ただ、それは魅力の一つに過ぎない。飯塚さんに“巨匠の魅力”を語ってもらった。
「かつては黒い不二雄と呼ばれたこともあったようですが(笑い)、もちろんそういったブラックユーモア的作品は先生の魅力の一つだと思います。しかし、このエッセーの中では、黒に限らず、赤だったりピンクだったり黄色だったり水色だったり、それはもう無数のカラフルな藤子不二雄Aが登場します。マンガ家としてのA先生、マンガ家を目指す若者としてのA先生、ゴルフに明け暮れるA先生、飲んだくれるA先生、病気を楽しんでしまうA先生、ちょっとうまくいかなかったけど念願の映画を製作するA先生……。これまでに見たことのないような色とりどりなA先生が、この『人生ことわざ面白“漫”辞典』には登場します。この作品は、マンガ作品からは見えてこなかったA先生の魅力がふんだんに盛り込まれていますので、その人柄に触れ、あの巨匠の別の魅力も知っていただければうれしいです」
初代担当は「個人的な意見です」と前置きした上で「先生自身が、作品で取り上げるテーマに対し、正直で素直であるところが、A先生作品の魅力だと思います。どのマンガも物語としての脚色は当然あります。ですが、A先生は脚色しながらも、どっちが得か、どっちが正義かではなく、普通に考えたら、結末はこうだよねと、さらっと描き出すところがあります。全ては因果応報という視点で描いているのかもしれませんが、その達観したような自然体な表現が、魅力なのだと思います」と語る。
「人生ことわざ面白“漫”辞典」を読めば、藤子不二雄Aさんのさまざまな魅力を改めて感じるはずだ。“巨匠の魅力”が凝縮された同作をじっくり堪能してほしい。
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