山時聡真:「君たちはどう生きるか」主人公声優抜てき 話題の18歳の素顔 宮崎駿監督の思いを感じた一言

「君たちはどう生きるか」で主人公・眞人の声優を務めた山時聡真さん
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「君たちはどう生きるか」で主人公・眞人の声優を務めた山時聡真さん

 スタジオジブリの宮崎駿監督の最新作の劇場版アニメ「君たちはどう生きるか」。2013年公開の「風立ちぬ」以来、約10年ぶりとなる宮崎監督の長編アニメで、宮崎監督が原作、脚本を手がけた。2022年12月にポスタービジュアルがお披露目されたが、あらすじ、キャスト、主題歌などが事前に明かされないまま、7月14日に公開を迎えた。公開と共に一躍脚光を浴びたのが、同作の主人公の少年・眞人(まひと)の声優を務めた18歳の俳優の山時聡真(さんとき・そうま)さんだ。山時さんは、声優初挑戦で、宮崎監督の最新作の主人公という大役に抜てきされた。「経験したことがないプレッシャーを感じた」という山時さんの素顔とは?

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 ◇オーディションで大役に抜擢 「あり得ないことだった」

 山時さんは、2005年6月6日生まれ、東京都出身の18歳。2016年、11歳で映画「ゆずの葉ゆれて」で俳優デビューした。2019年のNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」で、主人公の一人、田畑政治(阿部サダヲさん)の子供時代を演じ、同年放送のドラマ「少年寅次郎」、2020年のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「エール」といったNHKの作品に出演。「エール」では、悲しすぎる最期を迎えた“ハーモニカ少年の弘哉くん”として視聴者に強い印象を残した。2023年もNHKのドラマ「大奥」、日本テレビ系で7月にスタートした連続ドラマ「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」と話題作への出演が続く注目の若手俳優だ。

 山時さんは、オーディションの末、「君たちはどう生きるか」の主人公・眞人という大役に抜てきされた。オーディションが行われたのは、2022年の秋ごろ。宮崎監督の最新作という以外は、ストーリーやキャラクターの説明はなく、眞人の映像を見ながらオーディションに挑んだという。

 「オーディションの時に見た映像で眞人と初めて対面しました。眞人がどういう役なのかはあまり知らなかったですし、まずは『このキャラクターの自然な声を出すこと』が僕の目標でした。40分間くらいのオーディションだったのですが、スタッフの方が言われたことをそのままやってみて、変な先入観を持たず、作りすぎないようにしました。多分、そこでどう自分のお芝居を見せるか?を見られていたと思うんです。一つのシーンで、4回ほど『こういう感情でやってみて』と、いろいろなパターンを演じることもあったので、『言われた通りにちゃんと声を出す』ということを意識して臨みました」

 オーディションは1回だけだった。約1カ月後、山時さんは合格の連絡を受け、驚いたという。

 「1回のオーディションで決まるなんて思っていなかったですし、次に来る連絡が合否だとは。マネジャーさんからLINEで合格の連絡をもらったのですが、内容が理解できなくて5回くらい読みました(笑い)。それくらいびっくりすることだし、あり得ないことだったんです。正直なところ、オーディションでは全くうまくできなくて、『僕には無理だ』『こんなに難しいことはできない』と思っていたので、受かった時は本当にびっくりしました」

 「君たちはどう生きるか」は、公開までポスタービジュアルとタイトル、公開日以外の情報は一切明かされなかったが、声優陣も同様で、山時さんも家族以外に出演を明かさなかったという。

 「『絶対言っちゃダメ』と言われていたので、家族だけに話しました。家族に話すのも迷ったくらいです。でも、家族に黙っておいて、公開日の朝のウェブニュースで家族が僕の出演を知るというのも面白かったかもしれないですね(笑い)。公開まで黙っておけなかったと思いますけど」

 ◇宮崎駿監督から感じた優しさ 「僕が言うことはない」「自由に」

 「君たちはどう生きるか」は、2013年に長編アニメの制作の“引退宣言”をした宮崎監督が、宣言を撤回して挑んだ。舞台は太平洋戦争中で、母を亡くした主人公・眞人が、父の再婚相手である母の妹・夏子の屋敷に疎開し、不思議な体験をすることになる。タイトルは、宮崎監督が少年時代に読んだ吉野源三郎さんの書籍「君たちはどう生きるか」から“お借りしたもの”という。

 山時さんは、同作の収録で宮崎監督と初めて対面した。緊張して臨んだ収録だったが、宮崎監督からの最初の一言で一気に心境が変わったという。

 「まず、宮崎さんに『僕が言うことはない』と言われたんです。『だから自分で自由にやってみて』と言われて、本当に優しいなと思いました。台本にも『映像を見るだけで、あまり作りすぎないで』『台本を読みすぎないで』と書いた紙が入っていたんです。それも優しいなと。出演が決まってプレッシャーを感じていたので、不安を与えないようにしてくださって。『自由に』という言葉もありがたかったです。まずは自分で自由に演じてみて、違ったら言ってもらうという。ちゃんと見守ってくれているんだという安心感がありました」

 収録の時点で台本は完成していた。山時さんに台本を初めて読んだ感想を聞くと、「分からなかったです。理解はできなかったです」と率直に語る。分からないながらも、山時さんは眞人を「どんどん変わっていくキャラクター」と捉え、眞人そのものになろうとした。

 「とにかく眞人に合った自然な声を出すんだという意識しかなかったです。『こういう感情を出したい』と思っても、それは感覚でしかできないというか、頭で考えちゃだめだなと。声の演技に初めて挑戦して、声で変化を持たせるのは難しいと感じました。どこをどんなふうに話したら怒っているように聞こえるのかとか。だから、感情によっては、表情から変えるようにしました。表情を変えると、声も変わるので。声から変えるというより、自分を全部眞人にして、声を出していくことしか僕にはできなかったんです。声の技術を持っていないので、存在から演じていこうと」

 山時さんは声優に初めて挑戦し、「声の重要性が分かった」と感じているという。

 「これまでは、声より先に、表情とか涙とか目に映るものを大事にしていたのですが、声もここまで大事なんだと気付きました。これからは表情だけじゃだめだし、身ぶり手ぶりだけじゃだめだし、声も大事にしなきゃいけない。逆に、声だけで人を泣かせたりとか、そういうことができるようになりたいと思いました」

 ◇山時聡真はどう生きるか

 大きなプレッシャーを抱えて臨んだ収録だったが、スタジオジブリ作品で主人公を演じたことを実感したのは公開後だった。山時さんの出演を知った友達や家族から連絡が殺到したという。

 「公開後に僕もSNSなどで反響を見ているのですが、自分の声についても、作品についても、コメントをいただき、家族や友達にも『良かったよ』と言ってもらえて。その一言だけでうれしかったです。不安だったし、本当にプレッシャーを感じていたので、そこでやっと心が苦しくなくなったというか、楽になりました」

 最後に、作品のタイトル「君たちはどう生きるか」にちなみ、「今後、どう生きていきたいか?」と聞いてみた。山時さんは「難しい……」と苦笑いしながら、「いろいろなものに影響されながら生きていきたいなって思うんです」と話し始めた。

 「この作品で眞人は『君たちはどう生きるか』という本を読んで変わっていくし、いろいろな人に関わって変わっていく。いろいろな世界を見るのは大切なことだと思いますし、自分だけで生きていくんじゃなくて、周りの人から言われたことやアドバイスを自分の中に取り入れていくというか。だから、僕も本を読んで、映画を見て、家族の言葉や友達の言葉や、さまざまなものに影響されながら、自分を持ちつつ生きていって、いろいろな世界を見たいです。それで、いろいろな人の心に届くような作品に俳優として携わっていけたらと思います」

 俳優という仕事は「眞人と一緒」とも感じているという。

 「俳優もいろいろなものになるじゃないですか。いろいろな立場、環境に置かれる。眞人と一緒だなと思います。今後、いろいろな影響を受けて成長していった自分が、たくさんの人を楽しませることができていたらうれしいです」

 ※宮崎駿監督の「崎」は立つ崎(たつさき)

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