ドラゴンボールDAIMA
第10話 ウナバラ
12月16日(月)放送分
藤子・F・不二雄さんの人気マンガ「ドラえもん」の劇場版アニメ43作目となる最新作「映画ドラえもん のび太の地球交響楽(ちきゅうシンフォニー)」が3月1日に公開された。「映画ドラえもん」シリーズでは初めて「音楽」をテーマにした作品で、ドラえもんやのび太たちが交響楽(シンフォニー)で地球を救う大冒険を繰り広げる。同作を手がけた今井一暁監督は「『ドラえもん』で音楽を描くことはチャレンジでした」と語る。なぜ「音楽」をテーマにしたのか? 制作の裏側や作品に懸ける思いを聞いた。
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最新作は、ドラえもんたちが仲間と出会い、音楽を通じて心を通わせ、壮大な冒険を繰り広げる。学校の音楽会に向けて、苦手なリコーダーの練習をしているのび太の前に不思議な少女・ミッカが現れる。のび太が吹くのんびりのんきな「の」の音を気に入ったミッカは、音楽がエネルギーになる惑星で作られた音楽(ファーレ)の殿堂にドラえもんたちを招き入れる。ミッカは殿堂を救うため、一緒に演奏をする音楽の達人“ヴィルトゥオーゾ”を探しており、のび太たちは、ひみつ道具を使いながらミッカと共に演奏することで殿堂を復活させていく。しかし、世界から音楽を消してしまう不気味な生命体が地球に迫っていた……という展開。
今井監督は、「映画ドラえもん」シリーズ最高興行収入となる約53億7000万円を記録した「映画ドラえもん のび太の宝島」(2018年)、「映画ドラえもん のび太の新恐竜」(2020年)を手がけてきた。最新作の構想を練り始めたのは、新型コロナウイルス感染症の影響から「のび太の新恐竜」の公開が延期となった頃だった。
「『のび太の新恐竜』の公開が延期になって、いつ公開されるかも分からない。『こんなことがあるんだな』という思いでした。僕には小学5年生の息子がいるのですが、当時は小学校も休校になって、子供たちも家に居て『外に出るな』と言われていた。そんな状態でやはり子供たちには相当なストレスがかかっていたと思うんですよね。そんなある日、テレビを見ていたら、コンサートを開くことができない中、リモートで各演奏者をつないで、一つの曲を演奏するという番組をやっていたんです。子供がそれを見ながら、大きな声で歌っていたんです。息子は、家で大きな声で歌うようなことを今までしていなかったから『あっ!』と思って。その姿を見た時に『次、映画ドラえもんを担当させてもらうのであれば、『音楽』をやりたい』と思いました」
1980年に第1作が公開され、長い歴史を持つ「映画ドラえもん」シリーズで、「音楽」をテーマにした作品は今作が初めて。藤子さんの原作でも、音楽を題材にしたひみつ道具はあっても、「音楽」をテーマに描かれたエピソードは少ないという。
「『音楽』はこれまで取り上げてこなかった題材だと思います。それを今回、無理をして『音楽でやりたい』と。やはり、スタッフの皆さんも『ドラえもんで音楽?』『どうなるの? 全然想像がつかない』とピンとこない感じはありました。原作にもなかなかヒントがないテーマでもありました。とはいえ、子供と音楽というのは、ディズニー作品もしかり、ものすごく近しいものがあると思います。だから、これを「ドラえもん」で描かないのはもったいない、と。絶対うまくやればできるなという思いがありました。というか、ドラえもんはうまくやれば何でもできると思っているんですけど(笑い)」
「ドラえもん」で音楽を描く。今井監督が最も頭を悩ませたのはストーリー展開だった。
「音楽をテーマと言っても、『ドラえもん』なんですよね。音楽を『ドラえもん』の世界に落とし込まなければいけない。それに、見るのは子供たちなので、そんなに大人向けのものでもない。音楽を扱うアニメはたくさんあるのですが、音楽を通した人間ドラマであるとか、成長の物語が多いので、『ドラえもん』でやるのであれば、違うんじゃないか?と。あとは、ただ同じ場所で楽器を演奏しているだけでは、ハラハラわくわくするような物語にはならないじゃないですか。それでは子供たちが楽しめない。音楽を題材にしながらも、『どうなっちゃうんだろう?』とハラハラわくわくするような、いつもの大冒険の『ドラえもん』というものにどうしたらなっていくか?と」
音楽を「ドラえもん」の世界に落とし込むため考えられたのが、音楽がエネルギーになる惑星で作られた音楽(ファーレ)の殿堂であり、世界から音楽を消してしまう不気味な生命体・ノイズだった。ドラえもんたちは、地球を脅かすノイズに音楽の力で立ち向かうことになる。
今井監督は、「音楽を“武器”にして戦うのは、音楽の本質と外れてしまう」と語る。
「そこは難しかったですね。音楽の力で敵をやっつけちゃうみたいな話にしてしまうと、音楽の本質とは違うものになってしまうので、どうそうせずに、ハラハラわくわくの大冒険になるんだろうか?と。その苦肉の策としてノイズという存在を登場させました。音楽が光だとしたら、その反対に闇の存在があるんじゃないか。音楽自体もひょっとしたら宇宙に源があって……とか、そうするとSFっぽくなってくるじゃないですか(笑い)。そんなふうに想像を膨らませながら作っていきました」
「音楽」がテーマということで、やはり“音”の面でもこだわった。今井監督は、これまでの作品とは音響面で「本当に違うと思います」と語る。
「音響のスタッフの方々が本当にこだわっていて、一つ一つの音が唯一無二の生音というか、楽器から出る生音なんです。僕にとっては初めてだったのですが、ドルビーアトモスの映画館で一つ一つの音がしっかりと聞こえるような音作りをしています。テレビやスマホからでは絶対に再現できないような、そういうものになっているかなと思いますね」
さまざまな音が奏でられる今作の中でも印象的なのが、のび太の「の」の音だ。リコーダーが苦手なのび太は、音楽の授業でヘンテコな音を出してしまい、ジャイアンやスネ夫に「のんびりのんきなのび太の『の』の音」とバカにされてしまう。しかし、この「の」の音が作中で重要な役割を果たすことになる。どのようにして「の」の音は生まれたのだろうか。
「『の』の音は、本当にずっと懸案事項でした。『のび太が出す変な音』と文字で書くのは簡単じゃないですか(笑い)。でも、今回の話では、その音がキーになる。一体どんな音であればいいのだろう?と、スタッフの間でも二転三転したのですが、最終的には音響監督の方が“音を作る”ことになりました。下のパーツを取り除いたリコーダーを水槽に近づけて、ちょっと吹くと、煽るような不思議な音がするんです。水につける角度によって音が違うので、ああでもないこうでもないと一生懸命やってくださって。その音響監督の方しか出せない音なんですよ。やはりみんなが『のび太にしか出せない音なのだから、ありきたりな音ではダメだ』『この音は機械じゃだめだ』とすごくこだわってくれて、本当に面白い音になりました。ほかにも、一つ一つの効果音も面白い作り方をしているので、作品の魅力の一つとなっていると思います」
音そのものへのこだわりはもちろん、音を映像化することにもチャレンジしたという。
「音は目に見えないものなので、映像にするのは本来難しいですよね。でも、映画ですし、音をビジュアル化できたほうが楽しいし、面白そうだよなと。やはり、子供たちが見る時にちょっとでも『面白い』と思える画面になったほうがいいなということで、今回の舞台となる惑星ムシーカの世界観では、音を発したら不思議なエネルギーの結晶体のようなものがキラキラと光るという設定にしました。音の種類に合わせて、いろいろな形の結晶体がキラキラと出たら面白いというイメージで、今回ファーレのビジュアルを考えました。例えば、音遊び的に、いろいろな音を鳴らしていたら、なんだか楽しくなってくるような、あの感じを映像にできたらすごくいいなと思っていました」
今井監督は、今作においては「音に絵を合わせていく作業」だったといい、「すごく労力、技術の必要なことだった」と振り返る。
「そうした音楽を組み込みながらも、ちゃんとストーリーにして最後まで持っていくということが本当に難しいというか。何という題材を選んでしまったんだ!と何度も後悔しました(笑い)。『本当にちゃんと着地するのだろうか』と、最後まで手探りしていって、出来上がっていったような感じですね」
「映画ドラえもん」シリーズで、また一つ新たな挑戦となった「のび太の地球交響楽」。同シリーズでは、さまざまなテーマが描かれ、新たな試みがなされてきたが、最も大事にされるのは「ドラえもん」らしさだという。今井監督にとっての「ドラえもん」らしさとは?
「僕はもう何周もしてしまって、分からなくなっていますね(笑い)。極論、ドラえもんとのび太くんたちがいれば、『ドラえもん』じゃないかくらいに思ってしまうのですが。やはり、藤子先生の魂というか、作品のテイストの中で、ヒーローを描かないんですよね。必ずちょっと間抜けだったり、滑稽(こっけい)だったりするキャラクターを描いていて、ヒーローを格好良く描いている作品ってほぼない。だから、のび太もヒーローではないですし、いじめられっ子で特技のない普通の小学生。そんなのび太がドラえもんとひみつ道具の力を借りて、友達と冒険して、本来だったらできないようなことをやってのけてしまう。その魅力があれば『ドラえもん』になるのではないかという気がしています。ドラえもんがいたらのび太くんでもあんなことができるから『僕も!』という夢があるんだと思います」
大冒険が「日常とつながっている」ことも重要と感じているという。
「肌感覚の日常とつながっていて、“すこし・ふしぎ(SF)”の世界にドラえもんを通してジャンプするという。そして、また日常に戻ってくる。日常から絶対に浮き上がらない感じというのが『ドラえもん』なのかなと考えています」
最後に今井監督は、「のび太の地球交響楽」を通して「音楽室のその先にある、広くて楽しい音楽の世界を感じてもらえたら」と語る。
「音楽って、そんなに小難しくないんだよと。何か物を叩けば音がするし、『これとこれは音が違うよね』とか、そういうことから音楽は生まれていく。みんなで音を出し合って、何か一つの曲になった時の楽しさって、すごくあると思うんですよね。ただ、それはある程度やってみないとなかなか感じられないことで、そこまでいくのに、音楽の授業だけでは『リコーダーも嫌だな、難しいな』と音楽から身を引いてしまうところがある。ただ、それではもったいない。映画を見終わった時に、『この楽器を触ってみようかな』『ちょっと音楽やってみたいな』と思ってくれたら、広くて楽しい音楽の世界にタッチすることができると思います。この映画がそんなきっかけになってくれたらいいですね」
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