小田凱人選手:「全米オープンテニス」車いす部門開幕 生涯ゴールデンスラム達成へ「いつもより気合が入っている」 上地結衣選手は8年ぶりV目指す(インタビュー全文)

松岡修造さん(右)とガッツポーズする小田凱人選手=WOWOW提供
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松岡修造さん(右)とガッツポーズする小田凱人選手=WOWOW提供

 今年最後のグランドスラム「全米オープンテニス」の車いす部門が9月2日深夜(日本時間)、ダブルスから開幕する。開幕を前に、WOWOWの現地レポーターを務める松岡修造さんが小田凱人選手と上地結衣選手にインタビューを行った。3日深夜にスタートする車いすシングルス1回戦で小田選手はC・ラツラフ選手(アメリカ)と、上地選手はL・デ グリーフ選手(オランダ)と対戦する。小田選手は今大会の優勝で生涯ゴールデンスラム(4大大会とパラリンピック制覇)の達成を、上地選手は8年ぶりのシングルス優勝を目指す戦いとなる。

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 ◇小田凱人選手のインタビュー

 松岡修造さん:(先ほど国枝慎吾さんとお話されていましたが)常に周りの環境が変化し続けている車いすテニス界のトップにいる感覚は?

 小田凱人選手:(国枝さんは)テニスを始めた時に、車いすテニス界の第一人者として、紹介されている記事を読んだり、車いすテニスの起源を調べた時に「ボン!」と写真と文がでていました。YouTubeも見たりしていたので、もちろん知っていました。僕が生まれた2000年代から活躍されていたと思うので、そこからいろいろな変化はあったと思います。

 その中に、僕が少しでも違う色を入れることができたらと、僕が一選手として車いすテニス界の変化の中心にいたいと少し前から思っています。30~40年後に振り返ったときに、2024~2025年に車いすスポーツがガラッと変わったなと思ってもらいたいです。(国枝さんは)いろいろなことにチャレンジされてきた方なので、すごくリスペクトがあります。

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 松岡さん:小田選手は全米にどのような思いがある?

 小田選手:すごい楽しみですね(笑)。ハードコートも久しぶりだし、ニューヨークは毎回テンションが上がって、フレッシュな感じです。「自分のテニスを見せつけたいな!」という感じで、とてもワクワクしています。(前回の大会が)2年前なので結構昔に感じていて、久しぶりに来たなという感覚です。数字だけで見るとあまり結果は出ていないですけど、感覚的には全然ここの大会だけ嫌なイメージとかはありません。「まぁ、いけるっしょ!」という感じです。

 松岡さん:男子テニスといえば、今はシナー選手とアルカラス選手、車いすだと小田選手とヒュウェット選手がいます。このライバル関係についてはどのように感じている?

 小田選手:あの2人はロールモデルにしたいと思っています。(ヒュウェットとは)年が少し離れているので違うところは違うと思うんですけど、ここ最近はずっと僕が勝っているのでライバルというよりは、彼と決勝で戦って勝利してこその優勝だと思っています。お互いに決勝まで勝ち上がって、ベストなテニスをしたいと強く思っています。ウィンブルドンの時もそうでしたけど、バチバチした試合をしたいなと思います。

 松岡さん:シナー選手は精密的でまじめ、アルカラス選手は自由で情熱などそれぞれ個性がありますが、小田選手にはどのようなタイプ、個性がある?

 小田選手:見ていて楽しいのは、アルカラス(のプレースタイル)です。どちらかというと、自分もアルカラスタイプかなと思いますが、それだけだと面白くないので自分の色を出したいのが一番です。結構淡々と試合をしている感覚が僕にはあって、(感情を)顔に出さないとかを意識しています。そこが海外の選手とは少しスタイルが違うと見ていて思います。自分が日本を代表しているという意味では、その点をすごく大事にしています。

 松岡さん:小田選手は日本で一番注目されているテニス選手の一人ですが、自分のプレーでどのようなものを伝えていきたい?

 小田選手:一番は、「こいつやべーな!」と驚かれたいです(笑)。そのためには、勝っていないとそう思われないし、どんなにかっこつけても負けていたらそうはいかないと思っています。勝ってこそ、自分が表現したいことが表現できると思っています。

 松岡さん:炎がデザインされた帽子をかぶっていますが、魂は燃えていますか?

 小田選手:燃えています! それくらい(気持ちは)出していこうかなと。確実に、これまでの大会とは感覚が違います。現地にきて数日間過ごしてみても、いつもよりも気合が入っているなと自分でも思います。そういうときの方が今のところ結果が出ていると思うので、今回もやらかしたいなと思います(笑)。

 松岡さん:2年前の全米で負けて泣いているときに、この場所でインタビューしたのを僕は忘れられないです。そういう思いは、良い意味で忘れられるんですか?

 小田選手:あれは良い意味で、良くない過去として残っています。変に自分の中で消化して、「あの経験があるから今がある」とは全く思っていません。あそこで勝利できていれば、最年少で(優勝することができた)とかも僕の中ではあるので、それが良いものとして残らなくていいと思っています。悔やむところとして自分の中に残っていて、その方が自分の中で頑張ることができるし、あの経験もフラッシュバックすることもあります。

 ◇上地結衣選手のインタビュー

 松岡修造さん:2012年のロンドンパラリンピックの時に引退する感覚があったそうですが、それからずっと競技を続けている自分をどう思う?

 上地結衣選手:長いなーと思います(笑)。できなかったことができるようになった嬉しさがあったり、それで終わりではなくまた新しくやりたいことができたりなど、毎試合毎練習自分がやるべき課題や挑戦が出てきて本当に終わりがないです。ある意味、完璧なテニスが試合や練習の中でできたら、それが終わる時なのかなと思います。今のところ、そういう完璧な試合や練習ができたことは一回もないので、明日もコートに立たないといけないと思う状況が続いていています。

 松岡さん:上地選手にとっての完璧なテニスとは?

 上地選手:自分の体が小さい分、パワーやリーチの長さで勝負ができないので、戦術的になんとか相手が嫌がることをさせたり、ミスをさせたところから追い詰めていくことで自分のスタイルは成り立っていると思います。そういうプレースタイルがありつつ、ここ数年は自分からしっかりと攻めていくことにも挑戦しはじめたので、またそこでもやりたいことがいっぱいあります。まだまだ、何ができたら自分が満足できる完璧なテニスなのかということがわかりません。

 松岡さん:パリパラリンピックの時は「これで引退してしまうのかな」というくらい素晴らしい勝ち方でしたが、当時はどのように感じた?

 上地選手:試合が終わった瞬間はすごく満足しましたし、やり切ったなと思いました。自分がこれまで苦手としてきた、下がらずにしっかりと前についてプレーすることや、相手を前に出させることなどいろいろなことに挑戦できて、それが結果として得られた試合だったので本当に満足しました。

 試合後のインタビューに行くまでの間に、何を話そうかなと試合の整理をしていると、全部やりきりましたという言葉よりも「あの時こうしていればよかった」や「こういうポイントの取り方ができたら流れが変わっていたかな」などプラスな意味での反省がたくさんありました。そういう思いが浮かんでくるうちは、まだ辞められないと試合後に思いました。

 松岡さん:(7月の)ウィンブルドンはどんな反省がある?

 上地選手:ウィンブルドンは、何をしたら良かったのかわからなかったです。自宅に帰ってから、WOWOWさんの映像で何回も見返しました。それでも、突破口はなかなか見つからなかったです。1回や2回見返しても、次はこれを使えば絶対にいける!というものがなかったです。それは芝コートという特性もあると思いますし、彼女(決勝で対戦したワン・ジイン)の落ち着いたプレーなどといろいろな要素が組み合わさっていたので、悔しくて難しい試合でした。

 松岡さん:デ グロード選手以外にも、中国勢もどんどん強くなっていますがどのように感じている?

 上地選手:注目はしていますし、対策もしっかりと取らないといけないとまずは思います。ただ、これまでアジアの選手がグランドスラムでこんなに出場できている年はなかったと記憶しているので、コンスタントに中国や日本の選手が出られるようになったことが嬉しいです。16ドローに拡張されてから数年たちますけど、半分はアジアの選手だと思うので、そのあたりはすごく嬉しい気持ちがあります。そのアジア選手の中で自分が先頭に立って引っ張っていきたいなという気持ちもあります。

 自分よりも年齢が下の若手選手も増えてきて、アジア勢でもパワーがある選手がたくさん出てきているので、本当に毎試合毎試合大変です。自分自身もいろいろと試行錯誤して、新しいことに今大会もトライしてきているので、それが少しでも試合の中で出せたらと思っています。

 松岡さん:生涯ゴールデンスラムを達成するために残っている1年後のウィンブルドンはどうみている?

 上地選手:ウィンブルドンの試合が終わったときは、「また1年後か」と思いました。1年は長いからもう辞めようかなという風には思わなくて、逆に1年後は長いなと思ったということは、(自分が競技を続けようと思っているから)長いなと思ったということだと思います。1年後の芝でどのようなプレーをするのかというしっかりとしたビジョンはないですけど、タイトルを獲れるまでは頑張りたいと思います。

 松岡さん:全米はワクワクという感じ?

 上地選手:そういわれると、車いすのことや、それに伴う自分のプレースタイルなどいろいろな感情があります(笑)。ニューヨークに来る前にオーランドで国枝さんに練習もしていただきましたし、やりたいことはいっぱいあります。対戦相手との掛け合いやだまし合いなど、自分ばっかりではなく相手との状況判断をして戦えたらと思います。

 松岡さん:やっぱり国枝さんは良い言葉をかけてくださる?

 上地選手:ボコボコにされました(笑)。良い感じで練習してもらっていたんですけど、最終日にボコボコにされました。それがエネルギーにもなって、心強いです。

 ※……「全米オープンテニス」はWOWOWで連日生中継。車いす部門の主な配信スケジュールは以下の通り。

「車いす男子ダブルス1回戦」(コート10第3試合)=G・フェルナンデス選手、小田凱人選手 vs M・デ ラ プエンテ選手、R.スパールガレン選手 (WOWOWオンデマンド)▽「車いす女子ダブルス1回戦」(コート15第1試合)=上地結衣選手、K・モンジェーヌ選手 vs A・ベルナール選手、K・シァストー選手 (WOWOWオンデマンド)

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