ひらやすみ:話題のNHK夜ドラ 「一行一行、検証しながら」脚本家が明かした実写化“三カ条” 

NHKの夜ドラ「ひらやすみ」キービジュアル (C)NHK
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NHKの夜ドラ「ひらやすみ」キービジュアル (C)NHK

 俳優の岡山天音さん主演、森七菜さん共演で話題のNHKの夜ドラひらやすみ」(総合、月~木曜午後10時45分)。「週刊ビッグコミックスピリッツ」で2021年から連載中の真造圭伍さんの同名マンガの実写ドラマで、ただ単にマンガのせりふを引用しただけでは醸し出せない空気感や温度感の再現度の高さからは、ていねいなドラマ作りと原作へのリスペクトが感じられる。脚本を手がけた米内山陽子さんが、実写化にあたって気をつけたという“三つのこと”を紹介する。

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 ドラマは、29歳のフリーター・生田ヒロト(岡山さん)が、近所のばーちゃん・和田はなえ(根岸季衣さん)から譲り受けた一戸建ての平屋で、山形から上京してきた18歳のいとこの小林なつみ(森さん)と2人暮らしを始めることに。彼らの周りには生きづらい悩みを抱えた人々が集まってくる……というストーリー。

 ◇実写作品だということ

 米内山さんが脚本を執筆するにあたって、まず気をつけたのが「実写作品だということ」。当たり前のようにも思える、その言葉の意味とは?

 「真造先生と初めてごあいさつしたとき、『ドラマなので、マンガっぽくなりすぎないようにしてください』というご意見をいただきました。『ひらやすみ』の原作は数あるマンガ作品の中でも特に生っぽい生活の手触りがある作品で、行動もせりふも自然です。だからそこまで心配せずとも……と、正直思っていました。しかしすぐに実感しました。絵のキャラクターが話している説得力と、生身の人間が話している説得力は、全く種類の違うものです。これはどちらが良い悪いではなく、本当に使っている筋肉が違うようなものです」

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 そのときから、米内山さんの中で「どうやってもっと生身に落とし込んでいくか」という勝負が始まった。

 「悲鳴の上げ方。笑い方。泣き方。語尾。原作のせりふの空気感は絶対に入れたい。その上で、生身の説得力を持たせること。やっていることは『あ!』を『あ……」にする、といった細かいことではあるのですが、一行一行、検証しながら進めました」

 ◇シーンとシーンとの関係

 次に気をつけたのが「シーンとシーンとの関係」だ。

 「例えば、ばーちゃんがトンカツを切っている同じまな板で1年後、ヒロトがトマトを切っている。ばーちゃんと一緒にしたラジオ体操を今はひとりでしている。ばーちゃんと作ったカツサンドを、ひとりで作れるようになっているヒロト。というような、同じ場面でシーンを変えると、時の流れを感じてもらいやすいのです。さらには、前のシーンを裏切るようなシーンを入れることで、クスッとできる要素にもなります。あかりんが泊まりに来るのを迎えるなっちゃんの大はしゃぎから、鯛の目にびびる、のような」

 第9回(11月17日放送)では、ヒロトの親友のヒデキ(吉村界人さん)が、高校時代に撮影した“ヒロト主演の自主制作映画”を見つけ、なつみと観賞するシーンもあったが……。

 「『ヒロト、早まるな!』も、原作上ではあの場面で映画を見ないのですが、ドラマでやらない手はないだろうと脚本に入れ、なっちゃんとヒデキのリアクションをどこでどう入れたら面白いだろう……と工夫しました。映像になったらさらに最高でしたね、『ヒロト、早まるな!』」

 ◇ナレーションとモノローグの扱い

 さらにもう一つ、「ナレーションとモノローグの扱い」を挙げる米内山さん。

 「ナレーションは今回小林聡美さんの素敵な声で届けられる、いわゆる天の声。モノローグは登場人物の心の声です。モノローグは登場人物の心の声です。原作の天の声はとてもユニークで、結構感情があるのがすてきです。心の声も、登場人物が口には出せないけれど思っていることを伝えてくれます。天の声を、思いきってキュッっと少なくしました。心の声も、独り言でできる、せりふで言外に匂わせられる範囲に留めました」

 なぜ、そうしたのか。「監督が切り取る画面と俳優さんの演技を通して、感じていただきたい。その一心からです」と理由も明かす。

 「時間の流れと光と表情を、ゆったり感じていただきたい。 終電を逃した帰り道に見た景色。歩道橋から見た景色……。ささやかな気持ちの『点火』を感じ取っていただけたのではないかと思います」

 ドラマの放送は残り1週となった。

 「ドラマが最終回を迎えても、原作のヒロト達の生活は続きます。願わくばその先もドラマに──という私の野望は消えませんが、こればかりはどうなるかわかりません。今後の回では真造先生のリクエストでもあった大切なエピソード、『白いアジサイ』も出てきます。 どうか最後まで、一緒に散歩するようにご覧いただけたらうれしいです」

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