青山真治監督:「フランスでは面白がられている」「サッド ヴァケイション」パリ映画祭で上映

インタビューを受ける青山真治監督=TV5MONDE提供
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インタビューを受ける青山真治監督=TV5MONDE提供

仏パリ市内で3~13日に開かれた「第8回パリ映画祭」では日本特集が組まれ、邦画計105作品が一挙に上映された。会場では、日本で07年に公開された「サッド ヴァケイション」と短編「WISH YOU WERE HERE」「DOWN」が上映され、青山真治監督が登場。質疑応答とフランス国際放送TV5MONDEの取材に応じた。

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 「サッド ヴァケイション」は浅野忠信さん主演。中国人密航者の手引きをする健次(浅野さん)は、北九州で幼なじみの妹ユリ(辻香緒里さん)と暮らしていた。ある日小さな運送会社・間宮運送で健次は、5歳のときに自分を捨てた母の千代子(石田えりさん)と再会。バスジャックの被害者の梢(宮崎あおいさん)らさまざまな過去を持つ人間が身を寄せる間宮運送に、千代子は健次とユリを住まわせるが、健次は母への復讐(ふくしゅう)を狙う……という物語。「Helpless」「EUREKA(ユリイカ)」に続く青山監督の“北九州サーガ”の第3作。

 −−青山監督の映画はいつも音楽が大切な役割をしています。「サッド ヴァケイション」の中では、特殊な楽器を使用しているようですが。

 この映画で一番最初に鳴る音が、口琴という楽器で、ブブゼラより簡単です。吹くのではなくて共鳴させて音を出すのです。僕の推察ですが、多分馬に乗って旅をする人たちが簡単に音を出して楽しめる楽器だったのではと思います。僕は映画は一つの旅だと思っていて、映画を作ることも旅だし、映画を作ることが人生だとしたら、人生もまた旅だし、その旅の原点みたいなサウンドを響かせることで、この映画を、旅の映画にしたかったという気持ちがあります。

 −−「サッド ヴァケイション」は、監督の他の作品と比べると空想的な映画といえますか?

 僕のやり方は、そんなにいつもと変わっていないかもしれないです。ただ、「ユリイカ」みたいに3時間半もかかる映画を作らないように心がけました。カラーですし、皆さんが見慣れているような所に、自分を押しとどめようと、わかりにくい映画にしないように心がけたつもりです。ただ、あるアンケートで面白い結果がでていて、2000年から2010年までで、一番面白かった映画に「ユリイカ」が選ばれて、第2位が若松孝二監督の「連合赤軍」で、昨年、ある雑誌の日本映画のベストに選ばれたのが園子温監督「愛のむきだし」で、3本とも3時間を超えているんです。日本人はどうやら、3時間半くらいの映画が好きらしいということが最近になってわかりました。ですから僕もあまり遠慮せずに3時間半くらいの映画をまた撮ろうかなと考えています。簡単に言うと、もっとバスに乗っていたいとか、もっと共産主義したいとか、もっと愛をむきだしたいとか、そういうことを日本人は求めているようですね。

 −−「サッド ヴァケイション」の母親像はどこから来ているのでしょうか。

 主人公の健次の母親はどういう人だろうと、僕が想像して作った母親像です。どこから来たかと問われると、僕の中から来たとしか言いようがないですね。モデルになった人もいないです。母親というのは、普遍的に何でも許すもので、そういうものだというところからスタートしています。もちろん怖いですよ。世界中どこ行ったって母親は怖がられているんじゃないですか。怖がられていないのが問題で、怖いと思われた方が良いです。

 −−「ユリイカ」が2000年・第53回カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞・エキュメニック賞を受賞し、フランスとの関係が深いようですが。

 フランスでは面白がられていると思いますね。どこまで本気にしていいかわからないですけど。日本と観客の反応は違います。今回の「サッド ヴァケイション」はほぼ満席で、終わって拍手が起こって、日本ではないですよね。うれしいなと思いました。既に「サッド ヴァケイション」は2年前にパリで上映しているので、お客さんは少ないかなと思ったのですが満席で、楽しんでくださって良かったと思いました。

 −−監督はカンヌ映画祭も何度か行かれていますが、このパリ映画祭について、印象はいかがですか?

 最初はあまり人影がなくて、大丈夫かなと思っていました。でも、ふたを開けたら、どの映画も満員で、他の人たちの作品も、若松さんの映画等も満席と聞いて、見た目は盛り上がっているように見えないけど、お客さんは入っていると知って、「じゃあ、いいじゃない」と思いました。カンヌは道を歩けないほど込んでいるけど、バカンスで来てスターを見にくる人であふれています。それと比べてパリの人は、都会人ですから、スターを見ようとも思っていないし、洗練されているから、純粋に映画を楽しんでいる方たちが多い気がしますね。

 以前ベルビルという地区に2カ月くらい滞在したことがあって、パリに来るといつも里帰りした気分で訪れます。この街は、食事もおいしいし、アフリカ人もアラブ人も中国人もフランス人もぐちゃぐちゃにいるところなので、日本人の僕が行っても楽。パリは高級住宅街は別として、人種のるつぼで、何でもありというか、自由というか、おれみたいなのがポッといっても、意識せずにいられる街ですよ。多分東京ではパリのようにはいかないと思います。いろんな意味で、フランス人は感性が豊かなのかなと思いますね。あくせくしないというか、おおらかというか。そういう空気の中にいられると、結構楽させてもらっている気になりますね。

 −−最近のフランスの日本ブームについては、どう思われますか?

 もしかしたら、フランスで受け入れられてブームになっている日本と、僕らが日本に住んでいて感じている日本とは、若干ずれがあるのかもしれないなという気がしますね。フランスで、「えっ!これでいいの?」とか、「ここがオモロいとこなの?」と感じる時が良くあります。今回来てみて特に感じますが、むしろ、そっちの方がありがたい気がします。素朴に日本のこれが面白いとこっちの人が見ているものは、必ずしも日本でウケていたり、メーンストリームという形で出てきているものではないですよね。

   *……TV5MONDEは、203の国と地域でフランスとフランス語圏の番組を放送する唯一のフランス語国際公共総合チャンネル。日本では、09年12月から1日10時間の日本語字幕付き放送を開始した。TV5MONDEのサイト(http://www.tv5.org/cms/japon/p-328-lg7--.htm)パリ映画祭特設ページでは、会場の様子、監督や俳優インタビュー動画など映画祭の情報を掲載しているほか、一般公募で選ばれた日本人リポーターによるUSTREAM、Twitter、ブログ、ウェブサイトなどを活用した複合的なマルチメディアリポートを行った。(毎日新聞デジタル)

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