木村多江:映画「東京島」で薄幸役返上 女性が共感できる女性に 次はコメディー?

「東京島」に主演した木村多江さん
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「東京島」に主演した木村多江さん

 桐野夏生さんのベストセラー小説を映画化した「東京島」が、8月28日に封切られた。夫とのヨット旅行の最中に暴風雨に遭い、孤島に流れ着いた女性が、その後に漂着した日本人青年と中国人密航者たちとともに島からの脱出を試みるサバイバル映画だ。主人公の清子を演じているのが、これまで薄幸そうな役が多かった木村多江さん。木村さんは「なぜ私なんだろうということが知りたくて、清子役をお引き受けしました」と話した。(毎日新聞デジタル)

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 清子は、この出来事に遭遇する前はいたって普通の主婦だった。それが、島に流れ着き、環境の激変とともに考え方を変えていく。その変化を、木村さんは「ダンナさんからも女として求められなくなって、あとは健康を気にしながら生きていくのかな、ぐらいに思っていた。でも、島に行って、自分が男性たちから求められることに喜びや、自分の存在意義を感じられ、それが自信になっていった」と分析する。

 ヘビを捕まえそれを食したり、豚肉を素手でむさぼり食ったり。その姿は、下手をすると同性から反感を持たれかねない。木村さん自身も、最初は「嫌われる可能性もあると思った」という。そのため「共感できる何かを成立させる必要がありました」と話す。

 そこで考えたのが、「非常に人間くさい、すっとんきょうなところを入れること」。それを表現するために、歩いているときにコケたり、ビールにまつわる寝言を言ったりした。普段は演技についてスタッフに提案することは少ないというが、今回に限っては「監督にこんな感じでどうでしょうと相談させていただきました」と前向きに役作りをした。

 通常、台本を読んでいると「人が動き回り、その中で自分が動いている映像が見えてくる」という。ところが今回はそれが全くなかった。「立体化ができなかったんです。それは、無人島という設定も、女性1人という設定も、私自身、経験がないから。現場に入ってみないとわからないところがありました」という。

 そのため今回の撮影では、「準備をできない分、余計に現場で五感を思い切り開いて、第六感も使いながら演じることが大事でした」と振り返る。もともと、舞台役者からこの世界に入った。それだけにライブ感の重要性は認識している。

 「やっぱり、映像の中で、その人が生きているという感じが、まず、私の中で絶対的に大事なことなんです。役の大小は関係ありません。そこで息づいている感じを表現しなければならないのです。そのため、今回のライブ的な生々しさみたいなものを出すことは、経験則がないだけに準備していけない分、できるかなという怖さはありました」と明かす。

 そんな状態で、見事に清子を演じきった木村さん。今回の経験をきっかけに「今度はコメディーに挑戦してみたい」と話す。清子に勝るとも劣らない凛々しい女性を演じる木村さんを、ぜひとも見てみたい。

 <プロフィル>

 1971年、東京都生まれ。舞台役者として活動後、映画「踊る大捜査線 THE MOVIE」(98年)、「電車男」(05年)、「怪談」(07年)などの話題作に出演。ドラマは「リング」(99年)、「救命病棟24時」(01~09年)、「大奥」(05年)「チェイス 国税査察官」(10年)などがある。08年の映画「ぐるりのこと。」では日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、ブルーリボン賞主演女優賞などを受賞した。

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