注目映画紹介:「アブラクサスの祭」 自分の役割とは… 悩める僧侶が音楽と向き合う

「アブラクサスの祭」の一場面 (C)「アブラクサスの祭」パートナーズ
1 / 1
「アブラクサスの祭」の一場面 (C)「アブラクサスの祭」パートナーズ

 現役住職で芥川賞作家の玄侑宗久(げんゆう・そうきゅう)さんの小説が原作の「アブラクサスの祭」が全国で公開中だ。宗教という抽象的なテーマが含まれる小説のため映画化は難しいのではないだろうかと思っていたが、音楽の力を借りて見事に心に響き渡る作品に仕上がった。ミュージシャンのスネオヘアーさんが今作で映画初主演した。

あなたにオススメ

 福島の小さな禅寺の僧侶・浄念(スネオヘアーさん)は、かつてはロックバンドでギターを弾き、歌っていた経験があった。また、浄念はうつ病で入院したことがあり、禅僧になってからも薬を飲み続けていた。そんな浄念を妻の多恵(ともさかりえさん)は温かく見守り、5歳の息子は歌ってくれるパパのことが大好き。しかし、音楽への執着が抜け切れない浄念は、このままでいいのかと悩み、町でライブを開こうと思いつくが、周囲から反対に遭い……という物語。

 主人公は僧侶だが、特殊な職業に特化した悩みを描いたものではなく、浄念は自分の役割について考え続け、自分の中の苦悩と向き合う。そして、「そのままの自分でいる」という生き方に気付くが、これが一番難しいことなのではないかと思い悩む。「自分」についてよく分かっていなければ、「そのまま」ではいられないからだ。葛藤する浄念を、工夫をこらした照明と音楽で丁寧に描き出した。また、高校生を登場させることで、道に迷っている人間の姿を重ね合わせて表現。高校生を演じる村井良大さんがいい表情を見せている。

 原作者・玄有さんの寺がある福島県などでロケを行い、広がりのある風景から、凛(りん)とした空気も伝わってくる。浄念が慟哭(どうこく)のようなボーカルを披露するライブシーンはビリビリと心の奥に響いた。テアトル新宿(東京都新宿区)ほか全国で順次公開中。(キョーコ/毎日新聞デジタル)

ブック 最新記事

MAiDiGiTV 動画