印象的なタイトルの今作「名前のない少年、脚のない少女」は、短編「Tapa Na Pantera」がYouTubeで1000万回以上再生されたブラジルのエズミール・フィーリョ監督の初長編作。ロカルノ、ベルリンなど国際映画祭で話題となった。地方に住む少年の閉塞(へいそく)感とインターネット世界の幻想に思わず引き込まれ、水、風、木々のざわめきも感じられる。劇場で空気を感じながら見てほしい1作だ。
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少年は母親と2人暮らし。「ミスター・タンブリンマン」というハンドルネームでインターネット上に自作の詩を投稿している。都会に住むチャット相手からボブ・ディランのコンサートに誘われるが、遠くて行くことができないと思う。ある夜、少年はジュリアンという青年に出会う。ジュリアンは恋人のジャングル・ジャングルと自殺を図り、彼女だけが死に彼は生き残ってしまった。少年はジャングル・ジャングルがネットに残した映像作品にのめり込んでいく。ネットの中で彼女は「生きている」のだ。少年は町から出たいという思いを募らせていく……。
ブラジルが舞台だが、退屈な田舎の町でさえあえばたぶん世界のどこでもよかったのだろう。ネットの世界に入り浸って現実感の乏しい少年にとって、日常はリアルに感じられない。どこかに自分の居場所があると信じていて、その想像こそ「本当」だと感じている。28歳の若いフィーリョ監督が思春期の閉塞感を見る者にリアルに感じさせられたのは、おそらく登場人物に共感しているからだろう。少年はネット上の森ガール風少女に夢中だが、彼にとって彼女こそが現実なのだ。その幻想世界を母親がときどきぶち壊す。しかし、その母親と並んでテレビを見る少年は、かろうじて家族とつながっているし、少年のおばあちゃんはこういう。「お前のことを考えていたの」と。“人と人とのつながり”……ここに監督のメッセージを感じた。全国で順次公開中。(キョーコ/毎日新聞デジタル)
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