上川隆也:役者という職業「こんなにも好きなんだ」  「遺留捜査」終え改めて実感

主演ドラマ「遺留捜査」の撮影を終え、インタビューに応じた上川隆也さん
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主演ドラマ「遺留捜査」の撮影を終え、インタビューに応じた上川隆也さん

 俳優の上川隆也さん主演のドラマ「遺留捜査」(テレビ朝日系毎週水曜午後9時~)が22日の放送で最終回を迎える。殺人事件の被害者が残した「遺留品」を基に、事件の真相や被害者の思いを解き明かしていく主人公・糸村聡を1クール演じきった上川さんが、貫地谷しほりさんをはじめとする実力派の共演者との撮影エピソードや演じることについて語った。意外にアニメ好きな素顔も明かしている。(毎日新聞デジタル)

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 上川さん演じる糸村は、スーツにスニーカー、ショルダーバッグをたすきがけにし、自転車にまたがって現場に現れるなど一風変わった風貌で、漂わせる空気も他の刑事たちとは異なり、どこかひょうひょうとして見えるキャラクターだ。上川さんに話が来た当初、決まっていたのは4月からの水曜9時の枠で主演ということだけだった。上川さんは「ストーリーが分かって、タイトルも分かって、目鼻が付いていく段階で、プロデューサーの方たちが意図されていたとおりの、今までになかったような、見たことのないような刑事ドラマが作られていく過程に今、立ち会っているんだなという思いでした」と振り返る。「物語が徐々に作られていくのと同様に、糸村の風貌も、決してあらかじめあったものではなかった。きっちりした刑事という型から少しずつ半歩、一歩と踏み出して作っていったキャラクターなので、毎話毎話が糸村という人物造形の場だったような気がしますし、まだまだ完成形にも至ってないのかな……」と思いを明かす。

 糸村が科学捜査係として参加する警視庁刑事部捜査1課の面々には佐野史郎さん、大杉漣さんといった実力派の俳優がそろった。「ちゃんとしたバネって、外からの力を吸収して、たわんで受け止めたり、逃がしたりしますけど、へたることはなく、ずっとその弾性は保っているんだそうです。そういうふうに強さとしなやかさを併せ持ったような皆さんばかりでしたし、だからこそ糸村としても、試行錯誤を遠慮なくできましたし、心強かったですね」と振り返る。

 捜査1課の刑事たちからは時に疎まれ、さげすまれることもある糸村。そんな中で、無愛想ながら徐々に糸村の言動に感化されていくのが貫地谷さん演じる織田みゆき刑事だ。「従来よくあるドラマのように、バディーになったり、お互いに信頼関係、協力体制を築いていき……とならないところが、この織田と糸村の関係の面白さかな」と話す。「でも、彼女は彼女で事件を解決したいし、被害者の救われていく道を模索してるわけですから、線路のレールのように、お互い決して近寄ることはないけれど、同じように目指す方向を向いて、進んでいるような関係性が心地よかったですし、それを貫地谷さんがやってくれたことはありがたかったなと思いますね。彼女はとても勘のいい方なので、現場で(急に)振ったアドリブでも適切に返してくれますし。適切な距離感でできた? そうですね」と感謝している。

 印象に残っているシーンについて聞くと、しばし黙考し、「ピックアップするのが難しいんですよ……。クランクインから思い出してみても、懐かしくはないんですが、シーンではないのかもしれません」と明かす。「撮影中に東日本大震災に見舞われてしまったのもあって、ドラマが持っている意義みたいなものを考えさせられる時間でした。僕にとってはすべてが意味を持って存在してるような気がしてるんですね」と神妙な面持ちで語り、「役者としてお芝居ができることが、どれほど稀有(けう)なことかということも含めて、考え直さざるを得ない状況だったので、どこか一つ(取り上げる)と思えない番組になってしまったんじゃないでしょうか」と分析する。

 ドラマの撮影中にはキャスト、スタッフらから誕生日を祝われ、46歳になっての目標を聞かれた際に「今は『遺留捜査』のことしか考えられない」と語っていた上川さん。1クールを演じきって改めて感じることや目標を聞くと、「やはり役者でい続けられることこそ、僕にとっては意味のあることなんだなと強く思いましたし、目標は演じる役柄に対する欲求とかではすでになくなってるんだなって思いますね。自分が誰にどう見えようと役者っていう職業、この生業をこんなにも好きなんだなということも改めて感じました」と熱く語る。

 俳優という仕事の魅力を問うと、「何なんでしょうね。これが分からないから、一方で続けていけるのかなとも思いますし、純粋に楽しいと思えるものであるのは間違いないですし、それが続けていけることの、得がたい環境というか、それを今ひしひしと感じているところなので、説明できるようなものですらなくなっているのかもしれない」と真摯(しんし)に語った。

 そんな上川さんだが、アニメ好きという意外な一面も。「ぼくは『宇宙戦艦ヤマト』に薫陶を受けまして、そこから80年代のアニメーションに頭のてっぺんまでどっぷりつかり、もうアイデンティティーのある大きな部分を、アニメーションに形成されたと言っても間違いない。どれかを選ぶのは難しいんですけど、まず譲れないのは間違いなく『銀河鉄道999』かなと思いますね。自分の中で別格なんですよ。自分自身の少年時代の象徴みたいなものにすらなっているような気がしてるんですよ。なにかモニュメントみたいにそこにある作品ですよね」と冗舌に語る。これまでアニメの声優にも挑戦したことがあり、今後は「オファーがあれば? 勇んで出かけていきます。お役に立てるかどうかは別にして、姿勢としては喜んで、私ごときでよろしければ」と大乗り気だった。

 ドラマは22日で最終回を迎え、「最後の最後まで、最後のカットまで、趣向を凝らして、撮影に臨んでますし、季節は暑くなってまいりましたが、水曜9時は、ちょっと心を温めていただければと思います」とメッセージを送った。

<プロフィル>

 1965年5月7日生まれ。東京都出身。中央大学経済学部在学中の89年に演劇集団キャラメルボックスに入団。NHK70周年記念日中共同制作ドラマ「大地の子」(95年)に主演。98年放送のドラマ「青の時代」(TBS系)でザ・テレビジョン最優秀助演男優賞を受賞。「日刊スポーツ ドラマグランプリ」では第2回から4年連続で助演男優賞を受賞している。NHK大河ドラマ「功名が辻」(06年)では山内一豊役で主演を果たした。09年7月には演劇集団キャラメルボックスを退団。舞台やテレビ、映画など幅広く活躍している。

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