乙葉しおりの朗読倶楽部:梶井基次郎「檸檬」 冷たさと香りが癒やしに…

「檸檬」作・梶井基次郎(新潮文庫)の表紙(左)と乙葉しおりさん
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「檸檬」作・梶井基次郎(新潮文庫)の表紙(左)と乙葉しおりさん

 美少女キャラクターが名作を朗読してくれるiPhoneアプリ「朗読少女」。これまでに50万ダウンロードを突破する人気アプリとなっている。「朗読少女」で、本の朗読をしてくれるキャラクター、乙葉しおりさんが「朗読倶楽部」の活動報告と名作を紹介する「乙葉しおりの朗読倶楽部」。第28回は、梶井基次郎の「檸檬(れもん)」だ。

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 皆さんこんにちは、乙葉しおりです。

 7月になって、いよいよ海開き・川開きです。

 海とくれば山、山開きも各地で始まっていると思いますが、実はこうした行事は山開きが最初なんだそうです。

 山岳信仰といって、山は信仰の対象とされていたために立ち入りを禁じられていたのですが、夏の一部の間だけ、身を清めるための修行として登山を許されるのが山開きの起源だと言われています。

 これから夏休みに向けて、海、川、山と行楽シーズンになっていきますけど、どこにお出かけするにしても、けがのないようにしっかり支度をして楽しみたいですよね(^−^)

 そして、7月1日は童謡の日。

 日本童謡協会が1984年に制定したこの記念日は、1918年、日本で初めての児童文芸誌「赤い鳥」の創刊号の発行日なんです。

 以前ご紹介させていただいた、新美南吉さんの「ごん狐」、芥川龍之介さんの「蜘蛛(くも)の糸」も、赤い鳥に掲載されたお話です。

 赤い鳥を創刊された編集長の鈴木三重吉さんは、日本の児童文化の創造に大きく貢献された方です。

 以前は数々の小説を発表して新浪漫派のさきがけと言われましたが、娘さんのために物語を創作したことがきっかけで児童文学に専念するようになったとか。

 1936年、鈴木三重吉さんが肺がんで亡くなられた後に「赤い鳥」は廃刊となってしまいましたが、1948年に創設された「鈴木三重吉賞」は、全国の優秀な詩や作文を書いた子どもに送られる賞として現在も続いているんですよ。

 ではここで、朗読倶楽部のお話、初めての朗読大会のお話の続きです。

 「課題図書一覧から1冊を選び、発表する壇上への入退場時間を入れて5分間でできるだけの表現を行うこと」

 このルールなら私たちでも善戦できるかもしれない……と思ったのは一瞬のことで、すぐにいろいろな問題に気づくことになりました。

 まず当たり前の話ですが、5分以内で朗読できる場所を自分で決めなければなりません。

 一部を朗読するなら、作中を代表する、特に印象的な場所を選ぶのが一番でしょう。

 でも、その場所が必ずしも5分以内で朗読できるとは限らないんです(>_<)

 もし印象的なシーンが長すぎる場合は、どこを切って調整するのか?

 逆に短い場合は、余った時間をどうすればいいのか?

 他にも強弱のポイントをどうするのか、どの程度感情を込めるのがいいのかなど、とにかく初めてのことなのでいろいろな問題をどう解決するのか、倶楽部のメンバーでたくさん話し合いました。

 でも一番の問題、それは……少なくとも私の場合、全然自信がなかった、ということでしょうか。

 もっとも今なら自信満々かというと、そんなことは全くないんですけど(>_<)

 ……と、いうところで、次回に続きます。

 次回もまた、よろしくお願いしますね(*^^*)

■しおりの本の小道 梶井基次郎「檸檬」

 こんにちは、今回ご紹介する一冊は、梶井基次郎さんの「檸檬」です。

 このお話は、1925年1月に創刊した同人誌「青空」に掲載された後、1931年に武蔵野書院から作品集として出版された、梶井さんの代表作です。

 始終「私」をさいなむえたいの知れない不吉の塊。

 病気や借金が元で心身をすり減らした「私」は、以前のように音楽や詩など、華やかなものに感動することができず、無気力なままに街から街へと心の癒やしを求めてさまよい歩いていました。

 店先に並ぶ果実の色彩がお気に入りの果物店で、いつもは置かれないレモンを見つけ買い求めると、その冷たさと香りが次第に「私」の憂鬱(ゆううつ)を和らげていきます。

 たったひとつのレモンのおかげで幸せになれた「私」は、気がつくと華やかさゆえに足を遠ざけていた書店「丸善」の前に立っていました。

 今なら入っても憂鬱な気分になるまいと、店に入っていく「私」でしたが……

 京都を舞台にしたこのお話は、登場する果物店「八百卯(やおう)」も、書店「丸善」も、実在したお店を描いていました。

 そのため、作品を読んだファンが「私」の行動をまねて八百卯でレモンを買い求め、丸善に置いてくるといったことが何度もあったとか。

 そんな二つのお店も、八百卯が09年に、丸善は1940年に移転後05年に、それぞれ惜しまれつつも閉店してしまったそうです。

 作者の梶井基次郎さん自身が肺結核に侵されていたこと、学生時代に京都に下宿していたことなど、作品の舞台や主人公の「私」と共通点があります。

 そのため私小説のようにも見えますが、梶井さんの作品は多くが私小説的で、結核を題材にしていることも多く、実際の経験をもとに書かれたものかどうかは分かりません。

 梶井さんが本当にレモンを使って作中のようなことをしたのか、想像してみるのも楽しいかもしれませんよ?

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