ボートレーサー江口晃生選手:書籍「ベテラン力」インタビュー 失敗を乗り越えるスキル伝授

「ベテラン力」を出版したボートレースの江口晃生選手
1 / 1
「ベテラン力」を出版したボートレースの江口晃生選手

 現役生活28年目を迎えた現在もボートレース界の第一線で活躍する江口晃生選手(46)が書籍「ベテラン力」(ぶんか社)を発売した。江口選手は、09年に早大大学院スポーツ科学研究科に入学するなど常に新たなチャレンジを続けており、初の著書では、プロ野球・西武を自由契約となり、現役復帰を希望している工藤公康選手(48)らスポーツ界のベテラン選手6人との対談などを交えながら、ベテランならではの人生訓を伝えている。江口選手に、この本にかける思いについて話を聞いた。(毎日新聞デジタル)

あなたにオススメ

 「ベテラン力」には、工藤選手のほかに、スキージャンプの船木和喜選手(36)、サッカーJリーグ・横浜F・マリノスの中澤佑二選手(33)、日本中央競馬会の武豊騎手(42)、アーチェリーの山本博選手(48)、男子プロバスケットボール・リンク栃木ブレックスの田臥(たぶせ)勇太選手(30)と現役のベテランスポーツ選手が登場。さらに、江口選手が10年3月に大学院在学時に発表した卒業論文「ボートレース界のさらなる発展に向けた改善策に関する研究」の抜粋も掲載している。

 江口選手は、本書を出版することになったきっかけについて「大学院で学んできたこと、27年間現役を続けていて感じたことには“共通のルール”のようなものがあり、それはどの世界、世代にも通じるものだと思ったんです。スポーツ界の現役ベテラン選手といわれている人とお話しさせていただきながら、その“共通のルール”を皆さんに伝えたかったし、自分が現役を続ける上での参考にもしたかった」と話す。

 “共通のルール”の一つについては「“失敗を乗り越えるスキル”です」と話し、対談に登場する6人のベテランスポーツ選手は「必ず、一度挫折したことがある人」に登場してもらったという。江口選手は「僕自身も挫折したことがある。選手を続ける中で“失敗を乗り越えるスキル”を培ったんですね。ほかの人はどうやって乗り越えたかを聞きたかった」と説明する。“挫折”に関して、特に印象深かったのが船木選手の話だという。船木選手は、98年の長野五輪で金メダルを獲得するが、その後の度重なるルール改定などの影響もあって成績が低迷。しかし、11年に全日本選手権で優勝し、復活を遂げる。江口選手は「船木さんは“プライドが粉々になったけど、粉々になったプライドを一つずつ集めていき、その中で自分が大きくなった”と話してくれました。すごくいい話でね。対談が終わった後に、後輩や娘に船木さんの話をしたんだけど、話すたびに泣けちゃうんですよ」と真剣なまなざしで語る。

 もう一つの“共通のルール”は「直感力」。江口選手は「僕はレース中は、瞬間で判断するんです。普段、いろいろな準備をしていても、最後に大事なのは勘だったりする。直感で判断する力は、おそらく経営者にも求められるものだと思う」と話し、対談をする中で「例えば、山本さんは、“最後は第六感で射る”という話をされていた。ほかの方も同じように直感や第六感の話をしていたんです」と“共通のルール”の存在を確信したという。

 また同書には、対談以外に江口選手の卒業論文の抜粋を掲載しており、論文では、ボートレース界のさらなる発展のために、指導者システムの導入や選手のセカンドキャリアのサポートなどを提案している。ボートレースの世界では、現役選手間で師弟関係を結び、師が弟子を指導するため、プロ野球などのようなコーチは存在しない。江口選手は「技術的、精神的なケアをできるコーチが必要だと思います」と力を込める。また、「プロ野球選手のように、引退後に講演会などで自分の経験を発信する人が増えてもいいと思うし、選手が引退後にもっとボートレースに関われば、レーサーを目指す人も増える」と新たな仕組みの構築を提案している。江口選手自身も「この本や講演会などをきっかけにボートレースをもっと見てもらえるようにしたい」と業界の発展のために意欲を燃やしている。

  「どんな人に読んでもらいたいか?」と質問したところ「同世代やもっと年上の方で新しいトライをしようと考えている人を元気付けたい。それと、若い人にも読んでもらいたいですね。対談をする中で、皆さんが自分の後輩や子どもに伝えたいことを話せてもらえたので。“恐れるな挑め”が私のキャッチフレーズなのですが、それをこの本から感じ取ってほしいです」と笑顔でメッセージを送った。

 <プロフィル>

 ボートレーサー。65年、群馬県出身。84年にデビューし、今年で現役28年目を迎える。SG競走(ボートレースの最高グレードレース)では、98年のチャレンジカップ(ボートレース平和島)と05年のオーシャンカップ(ボートレース桐生)を制覇。モーターの整備力は、ボートレース界で右に出る者はいないといわれている。レースを離れたところでは、09年に早大大学院スポーツ科学研究科を受験。公営競技の選手としてはじめての大学院入学を果たした。10年3月の卒業時に「ボートレース界のさらなる発展に向けた改善策に関する研究」を発表。優秀論文賞を受ける。同級生には、元メジャーリーガーの桑田真澄さんがいる。また、地元の群馬県では、知的ハンディキャップを持つ子どもたちをカヌーに乗せるボランティアを10年以上にわたって実施している。

ブック 最新記事