立木文彦:現代によみがえった“弁士” ゲンドウから「イッテQ!」、「カイジ」まで

「見ている人を熱くたぎらせたい」と語る声優の立木文彦さん
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「見ている人を熱くたぎらせたい」と語る声優の立木文彦さん

 アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の碇ゲンドウなどで知られる人気声優の立木文彦さん。ナレーターとしても熱を帯びた独特の語り口で「世界の果てまでイッテQ!」など数々の人気番組を担当して話題を集めている。幅広いジャンルで活躍する立木さんの魅力に迫った。

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 立木さんは、「新世紀エヴァンゲリオン」で、主人公・碇シンジの冷徹な父ゲンドウや、「BLEACH(ブリーチ)」で最強の死神とされた更木剣八、「銀魂(ぎんたま)」で「まるでダメなオッさん(マダオ)」と呼ばれてしまう長谷川泰三など、数々の人気アニメで個性的なキャラクターを演じている人気声優だ。一方、「世界の果てまでイッテQ!」などバラエティー番組やスポーツ番組のナレーターも担当。アニメでの役柄とは異なった力強いナレーションで、幅広いファンの心をひきつけている。

 そんな立木さんは、高校生のころ、あこがれていた叔母から声をほめられたのをきっかけに、声優の道を志した。専門学校を経て83年にアニメ「聖戦士ダンバイン」のゼット・ライト役で本格デビュー。20代のころは、「ベテランの方がヒーローやヒロインの役をされていた」といい、主人公のかたき役や引き立て役など、実年齢よりも老けた役柄を担当することが多かったという。

 しかし、そんな立木さんのターニングポイントとなったのが、「新世紀エヴァンゲリオン」碇ゲンドウ役だった。庵野秀明監督は、立木さんに「芝居をやらないでください」と感情を抑えた演技を要求したという。アニメ特有のデフォルメをしない演技には、立木さんも大いに戸惑ったというが、その演出のお陰で、冷徹なゲンドウの姿が個性的なキャラクターがそろっているエヴァンゲリオンの中でも、存在感を示した。

 そんなゲンドウの演技は、その後のナレーションでもヒントにもなったという。立木さんは「声優は与えられた役柄にそって、100%自分で役を作っていく仕事。一方、ナレーションは抑揚をあまりつけずに、ちょっと引いたところから語りかけていく感じ」と分析。しかし、その中で「パーソナルな引き出しも重要になってくるし、自分の声質をどれだけ生かせるかも大切な要素」だと語る。

 「世界の果てまでイッテQ!」の加藤幸二郎プロデューサーは「ナレーターに求める『個性的で魅力的な声』、「表現力豊かなナレーション技術』、『まじめな人柄』の三つがすべてそろっていた」と立木さんを起用した理由を語る。「力強く、荒々しく、でも温かみのある立木さんの声は、あらゆる世代に届き、家族で見てほしい番組にとってありがたい。世界のさまざまな現象や情報を伝えるうえでの重みとインパクトも与えてくれている」と絶賛している。

 また、立木さんがナレーターを務めるアニメ「逆境無頼カイジ」では、立木さんの個性をさらに強調。印象的な言葉を3回繰り返して場面の緊張感を増幅させたり、叫ぶような強い口調での心情描写など、よりパワフルなナレーションを展開する。中谷敏夫プロデューサーは「声優としても活躍されているので、ナレーションの中に独特の“芝居感”がある」と分析。「止まった絵にナレーションがガツンと入る形は、アニメとしても挑戦的な手法。立木さんでしか成立しないナレーションで、まさに“裏の主役”だ」と話す。立木さん自身も「現代の弁士みたいなものかもしれません。他の収録現場でも『カイジのようにやってほしい』とよく言われるけれど、とてもうれしいですね」と手応えを感じているようだ。

 「器用じゃないから『あれもやっているんですか』と驚かれるのがうれしい」と語る立木さん。9月4日には東京・代官山で声優の笠原弘子さん、辻谷耕史さんと昭和歌謡をテーマにしたライブも決定。「言葉に魂を注ぎ込みたい」と熱っぽく語る“現代の弁士”の活動はこれからも広がっていく。(毎日新聞デジタル)

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