ライフ:マイケル・ガントン、マーサ・ホームズ両監督に聞く「特に生き物の目線を大事にした」

「ライフ いのちをつなぐ物語」を手がけたマイケル・ガントン監督(右)とマーサ・ホームズ監督
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「ライフ いのちをつなぐ物語」を手がけたマイケル・ガントン監督(右)とマーサ・ホームズ監督

 総製作費35億円、製作期間6年、撮影日数のべにして3000日という破格のネーチャードキュメンタリー映画「ライフ いのちをつなぐ物語」が全国で公開だ。ネーチャードキュメンタリーをうたう作品はこれまでにも数多く作られているが、“動物と同じ目線”で撮られた点で、今作は他のどの作品とも違う表情を見せている。PRのために来日したマイケル・ガントン、マーサ・ホームズ両監督に撮影エピソードを聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 −−どうやって撮影したのだろうと驚かされる映像にしばしば出合います。

 ガントン監督 運というのももちろんありますが、実はカギは、“自然に起きているように見せる”ことなのです。自分たちの撮りたいテーマが決まったら絵コンテを用意し、こういうストーリーを撮りたいと場面ごとの監督に話します。とはいえ、生き物は絵コンテ通りに演じてくれるわけではありませんから、(撮りたい映像を)撮れないときはもちろんあります。

 ホームズ監督 たいてい、その動物を何十年も撮っているとか、その群れを何十年も追いかけているといった専門のカメラマンがいるので、彼らに参加してもらいます。また、技術的にどういうアプローチをするかを決めることも大事です。その機材でないと撮れないという場合もありますから。そのいい例が、バンドウイルカが泥でわなを作り、餌を取るシーン。あれは空撮でなければ見ることはできません。つまり、私たちが見せたいもののために、どういう人選で、どのカメラでどう撮るのか。それをきっちり固めることがカギなのです。

 −−ニホンザルやカメレオン、チーターや食虫植物のハエジゴクなど、存在はよく知っている生き物でありながら、見たことのない光景には驚かされました。

 ガントン監督 リサーチに1年かけました。情報は、学会や学者の発見、そういうものから集めてきます。観客は、見たことのない斬新なもの、驚きやスペクタクルを求めているので、それに見合うもので、かつストーリーに合うものを選びました。

 −−重さ10グラムの赤色のイチゴヤドクガエルが必死に子育てをするエピソードにも感銘を受けました。

 ガントン監督 あのカエルの話については、リサーチの過程で聞いていました。ただ、学会誌の発表で見聞きするのと、改めてストーリーテラーとして読むのとでは、彼らに対する見方が変わるものです。後者として見ることで母親の苦労を知り、そこに共感が生まれ、だったらこれでいこうと決めて撮影に臨んだのです。

 −−ほかに観客の共感を得るために工夫したことは?

 ガントン監督 特に今回は生き物の目線を大事にしました。イチゴヤドクガエルの場合なら、例えば木を映すときに、カエルの目から見たように下からあおりで撮るとか。そうすることで共感やドラマ性が生まれると思ったし、そのために音楽も臨場感あふれるものにしました。というのも、彼らの世界に私たち人間がいるように感じてもらうことで、私たちもまた、彼らと地球を分かち合っていると感じてもらえると思ったからです。

 −−映像を撮りながら驚かされた場面、もしくは驚かされた動物は?

 ホームズ監督 (少し考え込んで)……行動するのを見込んで撮影しているので、撮ったものに対して驚いたりすることはなかったけれど、しいて挙げるならミズダコの場面。一生に一度の産卵を命懸けで行い、次の世代に命をつないでいく。その映像を目にしたときは、人間の気持ちを揺り動かす力があることに驚かされました。

 ガントン監督 僕の場合はバンドウイルカが(餌を取るために海中で)泥をかき混ぜてわなを張るシーン。その行動自体は以前から知られていたことだけれど、水中で撮っても水が汚れているから何が起きているのか分からなかった。ところが、今回初めて俯瞰(ふかん)で撮るのに成功した。あのシーンを撮って、映像を見たときには、心底すごいと感動したよ。

 <マイケル・ガントン監督のプロフィル>

 ロンドン生まれ。BBCドキュメンタリーシリーズ「Trials of Life」(90年)にプロデューサーとして参加したことがネーチャードキュメンタリー制作の始まり。以降、プロデューサー兼監督として「Natural Neighbours」(94年)などのネーチャーシリーズを次々と生み出す。01~04年にはBBC(Two)の看板作品「Nature World」シリーズの編集監督として60本以上の作品を手掛けた。現在はBBC自然史班クリエーティブディレクターを務める。動物行動学の中でもさらに「動物が持つ感覚」が専門。

 <マーサ・ホームズ監督のプロフィル>

 リビア生まれ。両親の仕事の関係で世界各国を巡る。ブリストル大学で動物学の学位を取得し、ヨーク大大学院で海洋生物学の分野で博士号取得。88年、「Reefwatch」のプレゼンターとしてBBC自然史班に加わる。世界的ヒットを記録した海洋ドキュメンタリーシリーズ「ブルー・プラネット」(01年)では極地とサンゴ礁のエピソードを手掛けるなど、海洋生物や北極・南極を専門分野として活躍している。現在は英国在住。

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