注目映画紹介:「僕たちは世界を変えることができない。」リアリティーあふれる映像で成功

「僕たちは世界を変えることができない。」の一場面 (C)2011「僕たち」フィルムパートナーズ
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「僕たちは世界を変えることができない。」の一場面 (C)2011「僕たち」フィルムパートナーズ

 05年、医大生だった1人の若者が、カンボジアに小学校を建てるための募金活動を始めた。その青年、葉田甲太さんの体験記を、向井理さん主演、深作健太さん監督で映画化したのが映画「僕たちは世界を変えることができない。But,We wanna build a school in Cambodia.」だ。毎日の生活を物足りなく感じていた向井さん演じる医大生・田中甲太は、150万円の寄付でカンボジアに小学校を建てるという「ガチでハマれるもの」を見つける。仲間とともにその実現に向けてまい進していく姿をつづった青春映画だ。

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 とはいえ、彼らの計画がとんとん拍子に進んだわけではない。学生サークルを設立し、資金集めのイベントを開催したまではよかったが、その後のサークルへの誹謗(ひぼう)中傷や、本業の学業がおろそかになったり、ついには目的意識の違いから仲間割れが起こったり……。そうした挫折も包み隠さず描くことで、今作を単なる美談で終わらせていないところに好感が持てる。

 加えて、カンボジアにおける撮影も今重要なカギとなる。ポル・ポト政権下、収容所として使われていた場所が今ではツールスレン博物館となり、そこを甲太たちが訪れる。今作をドキュメンタリータッチでとらえることにこだわった深作監督は、見学する俳優たちの反応をリハーサルなしで撮影した。その手法が生きている。現地での向井さんたちの表情が生々しく、当時の悲惨さを観客に強く意識させる。また、原作者の葉田さんがカンボジア滞在中にお世話になったという観光ガイド、コー・ブティさんが本人役で出演し、自身の実体験を語っており、それが一層のリアリティーをもたらした。カンボジアといえば世界遺産「アンコールワット」が思い浮かぶが、それだけではない。旅番組では踏み込み切れていない “負の遺産”について、向井さんら俳優を通じて近づくことができる点でも、今作の役割は大きい。出演者は向井さんのほか、松坂桃李さん、柄本佑さん、窪田正孝さんら。23日から有楽町スバル座(東京都千代田区)ほか全国で公開中。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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