行定勲監督:「ソル・ギョングは俳優の中の俳優」 映画「カメリア」インタビュー

映画「カメリア」の1編「Kamome(カモメ)」で主演を務めたソル・ギョングさん(左)と行定勲監督
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映画「カメリア」の1編「Kamome(カモメ)」で主演を務めたソル・ギョングさん(左)と行定勲監督

 10年の第15回釜山国際映画祭のクロージング作品「カメリア」が22日、日本で公開された。3編のオムニバス形式で、そのうちの1編「Kamome(カモメ)」は「世界の中心で、愛をさけぶ」(04年)や「パレード」(10年)など話題作を次々に送り出している行定勲監督の最新作だ。主演は行定監督が「ずっとあこがれていた」という韓国の演技派俳優のソル・ギョングさん。43歳という偶然にも同じ年齢の2人に撮影のエピソード、一緒に仕事をしてみた感想などを聞いた。(毎日新聞デジタル)

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 「カメリア」はオムニバス形式の映画で、舞台は韓国・釜山、テーマは「愛」という条件のもと、参加した日本、タイ、韓国の3人の監督がそれぞれ作品を製作。行定監督の「Kamome(カモメ)」と、タイのウィシット・サーサナティアン監督の「IRON PUSSY(アイアン・プッシー)」、韓国のチャン・ジュナン監督の「LOVE FOR SALE」の3本が上映される。「Kamome(カモメ)」は、映画をこよなく愛する昔気質の撮影監督(ソルさん)が、不思議な少女(吉高由里子さん)と出会い、ほのかな恋心を抱いていく……というラブストーリー。

 「韓国で映画を撮れる機会はめったにないので、悔いのないようにしたかった」という行定監督にソルさん起用の理由を聞いてみると「脚本家の伊藤ちひろさんが書いてきた脚本が異様に手の描写が多かったんです。『手が大きい』とか『手が温かい』とか。聞いてみたら(伊藤さんが)ギョングさんと握手したことがあって、その印象で脚本を書いていたらしい(笑い)。だったらということでいろいろなツテをたどっていってやっていただくことになったんです」と話した。一方、ソルさんは「行定監督は韓国人の監督の間でも有名人。とても人気がある。私自身も『世界の中心で、愛をさけぶ』は大好きな作品なので、ぜひ一緒に仕事をしたいと思った」と即決でオファーをOKしたという。

 「自分の映画の中でソルさんが演じるものがどんなものになるか全く想像つかなかった」と行定監督は言うが、いざカメラを回してみるとソルさんの存在は「カメラの中にいるだけで存在感がある」とカメラマンがため息をつくほど圧倒的な存在感だったという。そんなソルさんに対して行定監督は「存在というものがこんなに重要だと感じたことはない」と話し「ソルさんはいろんなものを見ていて、自分の演技に集中するだけではなく順応性もある。全体性の中にきちんと存在する。そういう意味では俳優の中の俳優です」と言い切った。

 撮影隊は日本人スタッフと韓国人スタッフによるチーム。行定監督は「かなり大変だった」と撮影を振り返る。「日本は合理的に撮影を進めていくんだけれど、韓国のスタッフは非常にのんびりしている。そんな中でソルさんには助けられた。韓国のスタッフに発破を掛けて怒る役割もやっていただいた。そういう意味でもソルさんはとても求心力のある俳優」と語った。ソルさんは「『かもめ』は予算も少なく限られた時間で撮らなければいけないから、今までの(韓国の)やり方ではとても間に合わない。だから私もイライラしてスタッフを怒ったりということもありましたね」と話した。そして「よく言われているんですが、韓国の場合はスケジュールは“心で”組む。論理的に見て『この日はこの予定が入っているから無理』っていうのではなくてお互いの状況を確認し合いながら気持ちで組むんです。今回日本に来るのも映画の撮影の合間に来ているんですが、心と心でつながっているので本当は忙しいんだけれど、『“カメリア”のプロモーションということなら』とあっさりOKをもらいました」と笑った。

 ソルさんに初共演となった吉高さんの印象を聞いてみた。「吉高さんは匂いをもった女優さん。吉高さんは韓国も釜山も初めてということだったんだけれど、わずか5日間で全スタッフの心をわしづかみにして魅了した女優さんでした。だから彼女が帰った後も彼女の話は絶えなかったですね。私は俳優歴としては彼女より先輩ですが、彼女から盗みたい、そんな資質を持った女優さんです」と絶賛した。

 今回映画を出品した釜山国際映画祭は行定監督にとって「恩人」だという。映画祭の醍醐味について聞いてみると「海外の人たちに映画を紹介してもらえるという意味で釜山は“扉”なんです。そして映画祭という場所は出会いの場でもあるんです。映画人と映画人がお互いの映画を見て作った本人たちと会って語り合う、例え言葉が通じなくても通じ合う。言葉が通じない韓国人の、アジアの友人が何人できたことか(笑い)。それは僕にとっても財産なんです。だから今後も積極的に映画を釜山に持って行って、“友人”たちと再会できたらいいなと思います」と語った。

 <プロフィル>

 ソル・ギョング 1968年5月1日生まれ。韓国・忠清南道出身。漢陽大学演劇映画科卒業後、舞台で活躍。96年の「つぼみ」で映画デビューし、99年の「ペパーミント・キャンディー」で演技派俳優としての評価を確固たるものとした。02年の「公共の敵」「オアシス」で多くの映画賞を獲得、その後も「シルミド/SILMIDO」(03年)、「力道山」(06年)、「TSUNAMI−ツナミ−」など、映画を中心に活躍中。12年には主演作「タワー」が公開。

 行定勲(ゆきさだ・いさお) 1968年8月3日生まれ。熊本県出身。映画、クリップ、CMなどの映像制作に携わり、97年「OPEN HOUSE」で長編劇場映画初監督。「ひまわり」(00年)で第5階釜山国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞。「GO」(01年)で第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞をはじめ数々の映画を受賞し一躍脚光を浴びる。その後、「世界の中心で、愛をさけぶ」(04年)のメガヒットは社会現象となり、「今度は愛妻家」(09年)、「パレード」(10年、第60回ベルリン国際映画祭・国際批評家連盟賞受賞)とコンスタントに良質な映画を世の中に送り出している。

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