国内外を含め、これまでに60本以上の映画にその名を連ねる演技派俳優の永瀬正敏さん。今年公開された「毎日かあさん」では12キロの減量に挑むなど、妥協を許さないその姿勢は、20、30代の若手俳優にも大きな影響を与えている。そんな永瀬さんが新たに挑んだのは、アクションエンターテインメント映画「スマグラー おまえの未来を運べ」(石井克人監督)だ。秘密の運送屋(スマグラー)のリーダー的存在・ジョーを演じた永瀬さんが今作の魅力について語り、“演技派”であり続けるワケに迫った。(新谷里映/毎日新聞デジタル)
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「スマグラー」は「闇金ウシジマくん」などで知られる真鍋昌平さんのマンガが原作。永瀬さんは映画化に当たってオファーを受け「即決で出演を快諾した」そうだが、決め手は石井監督の存在だった。永瀬さんが石井監督作に出演するのは「PARTY7」(00年)に続いて2度目。「昔、ご一緒した監督さんやプロデューサーさん、当時助監督だった方が監督になって映画を作ろうというときに、もう一度声をかけてもらえるというのは、役者冥利に尽きることだと思うんです。だから、10年前に「PARTY7」で仕事をした石井監督にもう一度声を掛けてもらえたのは、本当にうれしかったですね。石井組のスタッフは、監督のオリジナリティーな目線、監督が描きたいものを、スタッフ全員がとてもよく分かっている。撮影期間がタイトであっても誰一人として妥協はしないんです」と、今回の現場を振り返る。
監督やスタッフと同様に、永瀬さんの役作りにも妥協はない。武骨な中にも優しさのある魅力的な男ジョーを演じるに当たっては、石井監督がキャラクターを説明するために用意したという絵コンテのようなイラストが一役買ってくれたと明かす。そこに描かれていたものは「原作にも描かれていない、映画にも(直接は)描かれない裏設定というか、石井監督は人物像を緻密に構築される方なんですよね。監督が用意してくれたものを(受け取って)現場に持っていくという感じでした。たとえば、ジョーには不治の病の妹がいて、その治療費を稼いでいる。もともとはやんちゃで裏の世界に入っていたけれど、なかなかその世界から抜け出せずにいる、という設定を心の真ん中において演じていました。そういうキャラクターのバックボーンがあるとないとでは、演技は全然違ってくるんです」と話した。
また、以前からプライベートで親しくしている妻夫木聡さんや安藤政信さんとの共演も「いつか映画で共演したいとずっと思っていて、ようやく実現した」と、感慨深い表情を見せる。
永瀬さんの言葉の端々から強く感じたのは、人との出会い、作品との出合いを大切にしているということだった。スタッフ、キャストと一致団結して、より良い映画を一本でも多く残したい……そう思うようになったきっかけは、映画デビュー作「ションベン・ライダー」(83年)の相米慎二監督が亡くなったとき(01年)だったという。
永瀬さんが「僕の原点」「常に戻る存在」だったという相米監督。彼が遺してくれたものとは何だったのか。「相米のおやじは、とても感覚の鋭い人で、お前(今の演技は)本気じゃねえだろ?って、一瞬でバレてしまうんです(苦笑)。10年前におやじが亡くなったときも……僕はそのとき熊井啓監督の「海は見ていた」(02年)という作品を撮っていて。芝居に集中しなくてはならないのに、おやじが死んじまったよ……という気持ちのまま芝居をしてしまったシーンが1カットだけあったんですね。その時、雨も降っていないのにゴロゴロゴロって雷が鳴った。あっ、おやじが怒ってる!と、ハッとしました。今でも、1カット1シーン、自分は全力投球したのか?って自問自答すると、おやじの顔が浮かぶんです。おやじは自分にとって戒めの存在なんですよね」としみじみと語る。
永瀬さんの妥協のない姿勢は、相米監督が引き出してくれた、かけがえのない宝物だった。そして、気持ちが揺れたとき、方向性が揺れてしまったとき、映画に対する思いが揺れそうになったときは、必ず相米監督の作品を見ることで「映画ってこういうものなんだ!と、新たな気持ちになれるんです」と心の内を語る。
もちろん、「スマグラー」の1カット1シーンも全力投球で挑んだ演技であることは間違いなく、永瀬さんが演技派といわれるすさまじさを、スクリーンに刻んでいる。一度目にした観客は、また彼の演技を見たいと思うはずだ。
映画「スマグラー おまえの未来を運べ」は22日から新宿バルト9(東京都新宿区)ほか全国で公開中。
<プロフィル>
1966年7月15日生まれ、宮崎県出身。83年に「ションベンライダー」(相米慎二監督)でデビュー。91年に「息子」(山田洋次監督)で日本アカデミー賞、ブルーリボン賞ほか六つの映画賞を受賞。主な映画出演作に「学校2」(96年、山田洋次監督)、「誘拐」(97年、大河原孝夫監督)、「隠し剣 鬼の爪」(04年、山田洋次監督)など。海外作品にも「ミステリー・トレイン」(89年、ジム・ジャームッシュ監督)を筆頭に「アジアン・ビート(香港編)オータム・ムーン」(91年、クララ・ロー監督)などに出演。出演作は60作以上に上る。石井克人監督の作品への出演は「PARTY7」(00年)に続いて2作目。
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