淀君の小袖:デジタル復元で所有者に異説 江か和子か? WOWOWで放送

「美術のゲノム」に出演するいとうせいこうさん(左)と小林泰三さん
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「美術のゲノム」に出演するいとうせいこうさん(左)と小林泰三さん

 デジタル復元師の小林泰三さんがデジタル技術を駆使して、経年劣化した日本の美術作品を復元する姿を追うWOWOWのドキュメント番組「美術のゲノム」の第6回「~浮かび上がる文様を解読!戦国・女たちのロマン!~」で国の重要文化財に指定されている安土桃山後期~江戸初期の着物「染分綸子地御所車花鳥文様繍箔小袖(そめわけりんずじごしょぐるまかちょうもんようぬいはくこそで)」(御所車花鳥文様小袖)を取り上げる。番組では、小林さんが着物の色彩を復元するだけでなく、着物に描かれた文様を解読。豊臣秀吉の側室・淀君が所有していたといわれるものだが、ほかの人物の着物ではないか……と推理する。番組の収録が行われた代々木能舞台(東京都渋谷区)で、小林さんと番組の案内役を務めるいとうせいこうさんに復元の苦労や番組の見どころを聞いた。23日放送される。(毎日新聞デジタル)

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 小林さんが行うデジタル復元とは、美術品の実物を撮影し、そのデータを基に経年による色変化を計算し、コンピューターで色彩を復元していく手法で、プリントアウトすることによってレプリカを制作する。色彩は、美術品の実物を検証したり、歴史研究家の意見を聞きながら考察していく。デジタル復元は、スピーディーな作業を実現し、比較的安価にレプリカを作成できるため、気軽に触れられるのが特徴。番組では、これまで俵屋宗達(そうたつ)作の「風神雷神図屏風(びょうぶ)」や高松塚古墳の壁画などさまざまな時代の日本の美術作品の色彩を復元してきた。なお、番組の案内役は、いとうさんとフリーアナウンサーの進藤晶子さんが務め、第6回はゲストとして女優の菊川怜さんが登場する。

 第6回で復元する御所車花鳥文様小袖は、主に慶長時代(1596~1615年)の終わりから寛永時代(1624~1644年)に流行した慶長小袖と呼ばれる着物で、淀君の所有物という学説が有力とされている。35種類以上の文様や金箔(きんぱく)、刺しゅうがあしらわれているが、現物は経年劣化によってほとんどが消えてしまっている。ちなみに、御所車花鳥文様小袖は、現代の価格に換算すると200万円程度。当時、小袖は普段着だったが、権力者の場合、1着の着用回数は2~3回だったという。

 小林さんは、松坂屋所蔵の現物をスキャンし、染色文化を研究する共立女子大の長崎巌教授の話を聞きながら色彩を分析。写真編集ソフト「アドビ フォトショップ」などを使って、色を復元していく。着物の生地には、慶長小袖の特徴である綸子の文様が編み込まれているため、綸子の生地を制作し、コンピューターで復元したデータをデジタルプリントする。さらに、職人が金箔を施し、手作業で刺しゅうを加えることによってよりリアルに仕上げる。また、着物に描かれた豊臣家の「桐」、徳川家の「葵」、「御所車」という文様を読み解き、淀君ではなく、妹の江、もしくは江の娘で皇室に嫁いだ東福門院和子(徳川和子)の着物かもしれない……という仮説を立てる。

 復元には、デジタル技術だけでなく職人の力を借りていることもあり、小林さんは「いつもの復元に比べると2倍くらい手間がかかった。ただ、復元する中で、現代にも通じる職人の技術を紹介できたのが今回のよかったところです」と語る。また、「着物を取り扱うのは初めてだったので、色彩を復元する際、神経の使い方がこれまでと違った。着物に詳しい人をうならせるクオリティーにしたかったので」と苦労を話す。

 完成したレプリカは、現物とは異なる鮮やか色彩に仕上がっており、小林さんは「光に当たると輝きや陰がしっかり分かる。キラキラ感は、当時着ていた人の威光を強める効果があったのでしょうね」と出来に満足している様子。いとうさんも「美術館に展示している着物は着られない。(レプリカは)こんなに(作品の詳細が)分かりやすいものはないですよ」とレプリカならではのメリットを話し「着物は広げたとき、人が着ているときによって印象が変わる。奥が深いですね」と語る。

 番組では、着物の所有者について大胆な仮説を立てているが、小林さんは「織田信長、徳川家に通じる人だと思いたい。皆さんが『こういう文献があるから違うはずだ』などと討論してほしいですね」とコメント。いとうさんは「こういうもの(レプリカ)があると、想像力が引っ張られる。学者の人に見せたいですね。学会で発表するとたたかれるかもしれないけど、テレビだから仮説が言える。でも、そうやって学問が変わっていくのかもしれない」と話す。今後、番組で取り上がる美術作品について、いとうさんが「小林さんは、釜から作って焼かないと」と冗談めかすと、小林さんは「だんだんデジタル系じゃなくて、職人系になりますね」と笑顔で話していた。

 「美術のゲノム」第6回は、WOWOWで23日午後8時から放送。(毎日新聞デジタル)

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