ミッション:インポッシブル:最新作 バード監督に聞く「ハリウッドは大画面の興奮を忘れてる」

最新作「ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル」について語るブラッド・バード監督
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最新作「ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル」について語るブラッド・バード監督

 トム・クルーズさん主演のスパイアクション大作「ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル」が公開中だ。96年のシリーズ第1作から数えて4作目となる今作では、クルーズさん扮(ふん)する米極秘諜報(ちょうほう)機関「IMF」に所属するエージェント、イーサン・ハントとそのチームが、ロシアの中枢クレムリン爆破事件の容疑をかけられる。それによって、IMFを米国政府から切り離す「ゴースト・プロトコル」が発令され、国や組織の後ろ盾を失ったハントたちは、汚名をすすぐべく、また核によるテロを未然に防ぐために行動を開始する。作品のPRのために来日したブラッド・バード監督に話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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 バード監督はこれまで、「アイアン・ジャイアント」(99年)や「Mr.インクレディブル」(04年)、「レミーのおいしいレストラン」(07年)を手掛け、もっぱらアニメーションの世界で活躍してきた。それだけに初の実写映画、しかも人気シリーズのメガホンをとることを不安視する映画ファンは少なくなかっただろう。だがそんな懸念は、インタビューの直前に開かれた会見での、プロデューサーも兼ねたクルーズさんによる「素晴らしい成果を収めてくれた。ストーリーテリングがうまく、観客を引きつけることができる。彼の実写映画第1作にかかわれて光栄だ」とバード監督を絶賛するコメントが払拭(ふっしょく)してくれた。

 主演のクルーズさんは、アラブ首長国連邦はドバイにある、地上828メートルの超高層ビル、ブルジュ・ハリファでのスタントに挑むなど、スーパーヒーロー“Mr.インクレディブル”並みのアクションを見せているが、俳優たちに数々の危険過ぎるアクションをさせることは、アニメの方がよかったと、後悔したことはあったのでは?と水を向けると、バード監督は「アニメのキャラクターの方が楽だと思ったのは、(俳優のように)脚本を説明してくれといってこなかったことぐらい」とジョークとも本気ともつかない返答だった。そして、「今のご時世、恐竜が歩いたり、ブタがしゃべったり、実写だろうがアニメだろうが、技術的にはなんでもできてしまう。あとは予算や撮影方法の問題。僕は、このアイデアならアニメ向き、これなら実写向きというふうに、どちらで撮るかを判断していきたい」と話した。

 それでも、撮影中は毎日がチャレンジだったと明かし、タイトなスケジュールに頭を悩ませることもあったという。とりわけ、映画序盤のハントの脱獄シーンでは、予定していた撮影場所が想定外の構造で、考えていたことすべてが不可能なことが判明。「トムと話し合って、急きょ脚本を書き直したんだ」という。それは、会見でクルーズさんが「監督の思いつきには興奮した」と表現していた、ディーン・マーチンの音楽が流れるまでの一連の場面だが、監督自身、「変えた方がよかった」と仕上がりに満足しているが、もう一人、大喜びしていた男がいる。そのシーンに登場している囚人ボクダン役の俳優だ。「彼は何カ月も前にオーディション用のテープを送ってきていたけど、役がないから無視していた。ところがあんな大きなシーンに出ることになり、しかもトム・クルーズと一緒だよといったら大喜びさ。あんまり面白かったから、彼には再登場してもらったんだ」と裏話を明かした。

 最近のハリウッドが、3D映画に頼り過ぎていることを憂えてもいる。「映画館ならではの体験は、100年前から変わっていない。それは大きなスクリーンで、他の人々と一緒に見ること。だが、シネコンができたことで、劇場もスクリーンのサイズも小さくなってしまった」。だからこそ、今回は約25分間をIMAX(通常よりも大きなサイズの映像を記録、上映できるシステム)で撮影した。「大きなスクリーンで見せたかったし、ものすごくクオリティーが高く、大画面でも詳細が見えるからね。IMAXで見たらインパクトはすごいと思う。ハリウッドは、その興奮を忘れている。だから、少なくてもいいから、大きな劇場は必要だと思うんだ」と熱弁する。今作はアクションを堪能できる大型娯楽作ではあるが、同時に大きなスクリーンの必要性を改めて世間に気づかせるという役割を担ったのかもしれない。

 <プロフィル>

 1957年、米モンタナ州生まれ。14歳でウォルト・ディズニーの伝説のアニメーター・グループ「ナイン・オールド・メン」の一人、ミルト・カールさんに師事。以後、ディズニーや他のスタジオでキャリアを積む。99年、「アイアン・ジャイアント」がアニメーション界のアカデミー賞アニー賞で9部門に輝き、クリエーターとしての地位を確立。その後ピクサー作品「Mr.インクレディブル」(04年)、「レミーのおいしいレストラン」(07年)でそれぞれアカデミー賞長編アニメ賞を受賞。今作「ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル」が初の実写映画監督作。ほかに「新・世にも不思議なアメージング・ストーリー」(87年)の1話で脚本・監督・共同製作、「ニューヨーク東8番街の奇跡」(87年)で共同脚本を務めている。

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