レオナルド・ディカプリオさんがクリント・イーストウッド監督と初タッグを組んだ映画「J・エドガー」が28日から日本で公開される。アメリカ連邦捜査局(FBI)の初代長官で、死ぬまで長官であり続け、8人の歴代大統領でさえ恐れた米国の影の独裁者、ジョン・エドガー・フーバー(J・エドガー)の生涯を描く事実に基づいた作品。ディカプリオさんは20代から70代までJ・エドガーを演じ切り、米国の影、秘密を掌握していた彼の野望、たくらみ、葛藤、苦悩を迫真の姿で表現した。3度逃した悲願のオスカー獲得に注目が集まるディカプリオさんに話を聞いた。(毎日新聞デジタル)
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−−イーストウッド監督やスタッフとの仕事はいかがだったでしょうか。
彼の映画作りには非の打ちどころがない。直感を信じているからね。自分の勘を大事にしている。モニターの前に立って、僕ら(キャスト)を見ながら、スクリーンを通して見たときにこれでいいかどうかを自分自身に問いかけているんだ。自分の感覚を信じている。そんな人と一緒にいられるなんて、とても素晴らしいことだよ。
(ジョン・エドガー・)フーバーは米国人にとってとても重要な人物だ。それだけに、脚本家のダスティン・ランス・ブラックには、かなりのリサーチが要求された。ランスは僕がフーバーをどう演じるか、米国史のさまざまな時代とそこで起こった重要な出来事を通じて僕らがどんなトーンでこの作品を描き出すのか、どんなドラマを生み出すつもりなのか興味を持っていたね。
−−FBIが今のような巨大組織に変わっていく様子も描かれており、興味深いです。
フーバーは強迫神経症気味なところがあって、部下たちの外見に対しても執拗(しつよう)なこだわりを持っていたんだ。FBI捜査官はこうであるべきだ、というね。髪の毛もフサフサで、背も高く、筋肉質で、ヒゲもきれいにそっているべきで、いつもスーツ姿で、大学卒以上でなければならない。それにしゃべり方も丁寧で、若手政治家のような部分を持ち合わせることを要求したんだ。そうやって米国の警察のイメージを一変させた。彼が生み出した捜査官たちが何をしていたのかは、現在でも謎に包まれている。
−−J・エドガーが亡くなるまで仕え続けた、ナオミ・ワッツさんが演じるヘレン・ギャンディは、どのような人物だったのでしょうか。
ナオミ・ワッツは最高の女優だし、ヘレン・ギャンディも素晴らしい女性だったんだよ。全身全霊で打ち込んでいたし、プロとして仕事をこなしていたね。フーバーが弱さをのぞかせる時には、必ずヘレンがかたわらで彼を守っていたんだ。だからフーバーは彼女に全幅の信頼を寄せていたんだよ。彼があやういところをさらけ出せたのは彼女だけだったんだろうね。あとは母親だ。母親は絶大な影響を与えたからね。
−−J・エドガーの母、アニー・フーバーは彼に大きな影響を与えているように感じます。
ジュディ・デンチが僕の母親役を演じているよ。まさにフーバーの人生に大きな影響力を与えた女性だ。彼の政治的決断、野心にも、多大な影響力を発揮した。彼の野心をあおった人物さ。堅実さと真面目さで失望と混乱の時代を生き抜いてきた。それにフーバーは常に母親の助言を求めていたし、母親は息子の政治意欲を駆り立てていたんだ。彼女はステージママに似ている部分があると思うね。ワシントンで暮らしていただけに、息子にはフーバーの名を有名にして、この街の権力を手に入れてほしいと望んでいたんだ。
−−改めて、イーストウッド監督との今回の仕事を振り返って、どう感じますか。
クリントは僕らとチームを組んで、アイデアに耳を傾けて、一緒にこの映画を作ろうとしてくれたんだ。僕にとってこれがクリントとの初作品で、これまでで唯一のコラボレーションでもあるけれど、僕らの間には本当の信頼関係があったし、目標や意図を互いに共有し合って最高の映画作りを目指すことができた。僕が必要としている以上のすべてを彼は与えてくれた。
<プロフィル>
米カリフォルニア州ハリウッドに生まれ。14歳から子役として活躍。93年、トビアス・ウルフの自伝的小説をマイケル・ケイトン=ジョーンズさんが監督した「ボーイズ・ライフ」で一躍脚光を集めた。これまでに米アカデミー賞に3回ノミネートされ、数々の演技賞を獲得。最近では、名匠マーティン・スコセッシ監督と4回目のタッグを組んだ「シャッター アイランド」(10年)やクリストファー・ノーラン監督の「インセプション」(10年)に主演。12年にはバズ・ラーマン監督の「The Great Gatsby(グレート・ギャッツビー)」が公開予定。
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*……ディカプリオさんが演じたJ・エドガーとは、どんな人物だったのだろうか。彼はギャングたちによる銀行強盗など派手な犯罪が横行していた時代に、科学的なアプローチによる取り締まりで大きな功績を上げ、戦後にかけての原爆機密スパイ事件、共産主義者糾弾などを、FBI長官として陣頭指揮を執り、米国の保護と安全を確立させた祖国の英雄と呼ばれている人物。しかしその裏で、黒いうわさがつきまとう。
映画産業やさまざまなメディアを利用し、自身やFBIを誇大広告でメジャーにのし上がらせた。非公式に、歴代大統領をはじめとする政治家や著名人、運動家、ジャーナリスト、俳優などの情報を収集することで影響力を蓄え、スキャンダルを利用し、過激な脅迫、盗聴など手段を選ばず任務を遂行。公民権運動に尽力したキング牧師やあのアインシュタインに対しても、共産主義のスパイだと決めつけ、盗聴器を仕掛けて脅迫。ケネディ大統領の女性問題などの情報を収集し脅迫することで、自身の地位を維持し、独裁者のように振る舞っていたともいわれている。
マフィアとの癒着や、ケネディ大統領暗殺、マリリン・モンローの自殺の裏にFBIが暗躍したといううわさもあるほど。これらについて書かれた極秘ファイルはJ・エドガーが亡くなった直後、ニクソン大統領が探し求め、自宅やFBIを捜査したという逸話もある。
J・エドガーについてディカプリオさんは「彼は、米国の警察のイメージを一変させたんだ。FBIはどこにでも現れて、職務を遂行し、秘密裏に相手を調べ上げていた。フーバーは最も組織だっていて、効率的で、最高といわれた連邦捜査局と警察を作り出した男なんだ。そして、若いときから、成功することにものすごく野心的だった。彼はストイックで強引な法執行者となり、私生活は徹底的に隠し続けなければならなかった。彼の人生は秘密だらけになったんだ」と語っている。
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