注目映画紹介:「ニーチェの馬」馬と農夫の6日間の話 シンプルな力強さと美しさに引き込まれる

「ニーチェの馬」の一場面 (C)Marton Perlaki
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「ニーチェの馬」の一場面 (C)Marton Perlaki

 伊トリノの広場で馬を見て泣きながら発狂したというニーチェの逸話から、「あの馬のその後」を描いた「ニーチェの馬」が11日、公開された。「倫敦から来た男」(07年)で知られるハンガリーの名匠、タル・ベーラ監督作。モノクロで長回し、2時間34分も尺があるというのに、長さを感じさないすごみがある。11年に第61回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員特別賞)を受賞している。

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 農夫が暴風の中、荷馬車を走らせている。寒々しい田舎の風景。古い石造りの家にたどりつく。農夫は娘と暮らしている。外はずっと暴風で仕事に行くことができない。馬は疲れ切っている。食糧は、ゆでたジャガイモが一日1個のみ。なすすべもなく、窓から外をじっと見つめる農夫。暴風はやまない。農夫と娘は次第に追い詰められていき……というストーリー。

 これは馬と農夫の6日間の話だ。向かい風と砂ぼこりの中、荷馬車が走る映像が延々と続く冒頭だけで、ワシッと心をつかまれた。この映像には、丁寧に描かれた絵やマンガの一コマが延々と動いているような、圧倒的な美しさと強さがある。じいさんと娘が朝起きて、イモをゆでて食べる。おおよそそんな毎日が繰り返されるだけの話なのに、見どころが満載だ。ほとんどせりふがないので、心でいろいろ突っ込みながら見てしまう。じいさんに「ゆでたイモはフーフーしてから!」とか、娘に「靴下は重ね履きなのかあ」とか、つい突っ込んでしまう。

 それはともかく、映画の持つシンプルな力強さと美しさに引き込まれる。同じように見えて、微妙に違う毎日を過ごす2人は、現代人の日常とそう変わりはないのではないか。決まりきった日々の中でジリジリと息が詰まっていく2人からは、どんな人も死という終末に向かって生きているという深刻な現実が重なる思いがした。11日からシアターイメージフォーラム(東京都渋谷区)ほか全国で順次公開。(キョーコ/毎日新聞デジタル)

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