マーガレット・サッチャー:フィリダ・ロイド監督に聞く 「メリルはとにかく演技が好き」

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 元英国首相のマーガレット・サッチャーさんの半生を描き、サッチャー役のメリル・ストリープさんが米アカデミー賞で2度目の主演女優賞に輝いた映画「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」が公開中だ。PRのためにストリープさんとともに来日したフィリダ・ロイド監督に話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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 かつては、英国初の女性首相として強烈なリーダーシップを発揮し、沈みかけた英国を救ったサッチャーさん。映画は、認知症を患い、夫デニス(ジム・ブロードベントさん)がすでに他界したことも忘れるようになった晩年の彼女が、過去を振り返る形で描かれていく。

 −−存命中の人物を映画で描くことは困難ではなかったですか。

 やりやすいことは一切ありませんでした。映画に登場する現在のマーガレット・サッチャーは、私たちの想像です。この映画を作るにあたって、私たち(スタッフ)は認知症の人を描くことの倫理的是非について議論を重ねました。導き出された結論は、大勢の認知症患者がいるという現実の中で、(認知症は)恥ずかしいことではない。そうした人々を隠そうとする今の社会的傾向こそが間違っている。メリルも脚本家のアビー(アビ・モーガンさん)も私も、これは共有するべきことであり、その手助けをすることが、私たちのミッションの一つである、ということでした。それに、メリルの演技は非常に威厳があります。サッチャーをとてもすてきに表現していると思います。

 −−そのメリルさんについてですが、監督の前作「マンマ・ミーア!」に続いてタッグを組みました。改めて、彼女が名女優といわれるゆえんはどこにあると思いますか。

 彼女は、人間に対する好奇心が旺盛で、例えば、今この場にいたら、私や部屋にいる人全員に興味を持ち、今度この人の役をやるならこういうふうに演じようと、たとえインタビュー中でも観察しています。同時に、俳優にとって重要な資質である知性と情熱を兼ね備えている。それにとにかく演技が好き。おそらくその情熱は、デビュー当時と変わっていないはずです。

 −−劇中に「王様と私」の主題歌「シャル・ウィ・ダンス?」が効果的に使われています。ミュージカルの演出もされるロイド監督ならではのアイデアだと推察しました。

 サッチャー夫人とデニスが交際中、いろんなミュージカルやオペラを見に行っていたという事実はありますが、そこに「王様と私」が入っていたかまでは分かっていません。ただ、サッチャー夫人があるインタビューで「王様と私」のモデルとなっている女性アンナ・レオノーウェンズを「とても尊敬し、共感できる」とコメントしたことがあり、そこからこの曲を使うアイデアが生まれました。

 −−終盤の、夫を“送り出す”場面では一抹の寂しさをおぼえました。ロイド監督ご自身は、どのような思いで演出なさったのでしょうか。

 この映画の中のサッチャーは、夫の遺品整理をしながら、政治家時代のいろんな体験を思い出します。そして、果たしてこの先、自分一人で生きていけるのかと考えます。でも彼女は実際、一人で闘ってきたし、夫も彼女に肯定的な言葉を告げています。その声を聞くことで、彼女は自分の今の境遇を受け入れるのです。もしかしたら、夫を送り出したことで完全に彼のことを忘れてしまうかもしれません。でも私はそこに、人生を続けていくことの意味を感じたのです。

 −−この映画を製作する前と後とでは、サッチャーさんに対する見方は変わりましたか。

 彼女が首相になったとき、私はまだ学生で、彼女の政策をまったく支持していませんでした。この映画を作ったからといって、彼女に対する政治的な見解は変わっていませんが、でも人間としては感銘を受け、尊敬する部分が生まれました。(雑貨商の娘として)上流階級ではない、むしろ下層に近い階級から一国のリーダーになることが、どれほど大変なことか。そのことのみならず、彼女は女性です。その中で権力を手に入れたということはまれに見るストーリーです。とても印象深い人生を歩まれた方だと思います。

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 このインタビューの前に開かれた来日会見で、ロイド監督は「どの国の人、どの年齢の人にも受け入れられる普遍性のある作品」であり、「老いについての映画」であると話していた。確かに、この映画の主人公は、“元英国首相のマーガレット・サッチャー”だ。しかしその姿に、観客は大なり小なり自分と重なり合う部分を見つけられるはずだ。そして改めて、人生というものを考えさせられるだろう。映画は全国で公開中。

 <プロフィル>

 1957年、英国ブリストル生まれ。バーミンガム大学を卒業後、BBCでテレビドラマの制作を担当し、その後、舞台演出家に。99年、ロンドンで開幕した舞台「マンマ・ミーア!」は、その後、世界を巡り、いまなお米ブロードウェーでロングラン上演されており、08年には自身の監督で映画化している。09年、舞台「メアリー・スチュワート」を演出、トニー賞にノミネートされた。ほかに演出した舞台は「私に近い6人の他人」「三文オペラ」など。オペラも「ラ・ボエーム」「カルメン」「マクベス」などを手がけた。10年、大英帝国勲章第三位の称号をエリザベス2世から授与された。

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