斎藤工:巨匠ヒッチコック作品は「心をつかまれる」

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 WOWOWのノンフィクション番組「ノンフィクションW」では「特別企画 ~エンターテインメント、真実の記録~」と題して、100本を超えるこれまでのラインアップの中から、映画・スポーツ・音楽を中心に傑作8本を厳選して集中放送する。6日に放送される「アカデミー賞に嫌われた男~ヒッチコックはなぜ獲れなかったのか~」では、「サイコ」「裏窓」「めまい」など数多くの傑作を残した映画監督でプロデューサーの巨匠アルフレッド・ヒッチコックが、なぜアカデミー賞監督賞を受賞できなかったのか、その真実に迫っていく。番組にゲスト出演する俳優の斎藤工さんは、ヒッチコック作品について「気づかないうちに自分の心理を持っていかれている」と語る。斎藤さんに同番組の見どころを聞いた。(毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 −−この作品で一番印象に残ったことは?

 プロデューサーという職業にスポットを当てている部分が、すごく興味深い。映画を作るときに、監督が発信して始まるものもありますが、たいていの場合、プロデューサーが「0(ゼロ)」を「1(イチ)」にする。原作があって、この作品にベストな監督は誰だろうか?というところから監督は関わるというベーシックな映画の縮図の部分で、巨匠といわれる監督は、みんなプロデューサーとの出会いがあって、その相性から栄光と挫折も体験している。そのヒッチコックのプロデューサーの切り口部分が非常に興味深かった。

 −−日本で身近に接したプロデューサーとの違いは?

 日本だと、監督のカラーに対してプロデューサーがフォローするイメージがありますが、ハリウッドのプロデューサーは、その人自体が生み出す作品の色を持っている。日本でいう、監督に近いクリエーター的な位置にいると思う。ハリウッドがどう構築されてきたかというところには、絶対に名プロデューサーの存在がある。

 −−ヒッチコックの作品は何が好きですか。

 父が、ヒッチコックマニアで、小さなころから見させられていた。幼少期にああいうサスペンスを見るとトラウマになりますね。「鳥」が僕の中でトラウマ映画になっていて、焼き鳥も食べられなくなるほど。今、振り返ると、心をつかまれていたんだなと。ヒッチコックの作品で全部共通していえるのが、気づかないうちに自分の心理を持っていかれている。ワンシーンでつなげている「ロープ」も大好きです。すごくいろんな実験をしている。「めまい」のフォーカスもそうだと思いますが、ユーモアと完璧主義という両極の才能を同時に作品に込めている。

 そういうアーティスト性は、元から持っていたと思うけれど、セルズニックという完璧主義のプロデューサーの、原作に忠実であるという信念を持った人との戦いというか、契約をした9年間のフラストレーションが、後の傑作を生み出していたんじゃないかと思う。彼との出会いが、ヒッチコックがよりヒッチコックらしくした出会いだったのかな、と見ながら思いました。監督業って、国によって見られ方が違うというのが印象的だったが、自分を俯瞰(ふかん)で見られる視野が広がった出会いだったような気がします。ヒッチコックのパーソナリティー、輪郭を濃くしたのは、セルズニックがプロデューサーだったから。だからこそ、ヒッチコックは彼の棺を担いだんじゃないかなと思う。

 −−ディープな裏側にスポットを当てている「ノンフィクションW」全体の感想は?

 素晴らしい。見だしてしまうと、終わるまで確実にのめりこんでしまう。現実のドラマ性は、どんなフィクションもかなわない。着眼点が見事で、普段スポットが当たらない、うやむやにしがちなところ、自己解決しがちな部分にスポットを当てているので素晴らしい。この作品だけじゃなくて、人物に対する印象が深くなるというか、それは、真実の部分まで迫っているからだと思う。リサーチ力と着眼点というのが素晴らしいですね。

 *……ノンフィクションW「アカデミー賞に嫌われた男~ヒッチコックはなぜ獲れなかったのか~」は、WOWOWプライムで6日午後10時から放送予定。

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