山田洋次監督が監督生活50年の節目に撮った「東京家族」(19日に全国公開)で、橋爪功さんと吉行和子さんが老夫婦役を演じている。2人は長年連れ添った夫婦の空気感をスクリーンいっぱいに体現。橋爪さんが「姑息なことを考えずに、現場に入ったら夫婦です」と話すと、吉行さんが「現場に行ったらそうなっちゃうのよ、橋爪さんだし。楽しくやりました」と息もぴったりの様子だ。温かな感動を呼ぶ作品となった「東京家族」について2人に聞いた。(上村恭子/毎日新聞デジタル)
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今作は小津安二郎監督の名作「東京物語」(1953年)をモチーフに、山田監督と平松恵美子さんが新たに脚本を書き下ろした。舞台は東日本大震災後の現代だ。
田舎から出て来た老夫婦が東京に住む子どもの家を訪ねて歩くが、都会で忙しく暮らす子どもたちとの間にすれ違いが生まれる。物語のフレームや家族、生死に触れるテーマは変わらないが、山田監督の作品らしく夫婦の横軸と親子の縦軸が骨太に描かれ、家族の過去をもしっかりと編み込んだ感動作となった。オリジナル作品の老夫婦役は笠智衆さんと平とみ子さんが演じたことで知られる。
橋爪さんが「オリジナルは意識しないようにしましたね」と話すと、吉行さんも「台本を読んだらオリジナルを忘れて、現代の家族の話として読めました」と語る。
橋爪さんが演じる周吉は元教師。口数は少ないが一本筋の通った頑固な性格だ。一方、吉行さんが演じるとみ子はおっとりしていてちゃめっ気がある。将来が心配な次男(妻夫木聡さん)に対するやりとりに夫婦の個性が表れている。
役へのアプローチについては「こういうふうに見せようと思わない。何も考えずにやれました」と口をそろえる。「山田監督におまかせしていれば安心でした」と吉行さんは加えた。
妥協のない丁寧な演出で知られる山田監督の要求に「監督の希望に果たして応えられているのか。心もとない気持ちもありました」と橋爪さんが語れば、吉行さんが「でも監督は間違っていると必ずダメといってくれるから安心なんですよ」と続ける。
橋爪さんが「山田監督はダイアローグ(対話)の達人」といえば、吉行さんも「短いせりふでピシッと決めてくる。ホントに(演出が)上手」とにっこりとうなずく。
たとえば周吉が居酒屋で本音を語るシーン。後半の部分は現場でせりふがかなり変更されたが、「毎日工夫があって、面白くて緊張感のある現場でした」と橋爪さんは余裕の表情だ。
映画は家族の自然な空気感にあふれているが、共演の俳優たちもよくまとまっていたという。橋爪さんは「すんなり信頼関係ができました。同志のような感じで、仲よくやっていました」と表現すると、吉行さんも「今回は質の似た人たちが集まりました。現場の空気は画面になんとなく出るような気がしますね」と仕上がりにも満足げだ。
山田監督はこれまで、日本のさまざまな家族の形を映画に投影してきた。現代の家族の物語を、西村雅彦さん、夏川結衣さん、中嶋朋子さん、林家正蔵さん、妻夫木さん、蒼井優さん、小林稔侍さん、風吹ジュンさんら実力派キャストでつむぎ出す。
橋爪さんは「お客さんがどう感じるのか想像するとワクワクします。できればスクリーンの裏側からそっと感じたものをのぞいてみたいぐらい。たくさんの人に見ていただきたい」と期待を寄せると、吉行さんも「どんな年代の方が見てもうなずける話です。若い方から高齢の方まで見られる面白い映画になりました」とメッセージを送った。
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