誉田哲也さんの小説を、竹内結子さん主演で映画化した「ストロベリーナイト」が26日から全国公開された。10年に放送されたスペシャルドラマから始まり、12年の連続ドラマをへて、今回ついに映画化された。今作では、連続殺人事件の捜査にあたる女刑事・姫川玲子(竹内さん)と、菊田(西島秀俊さん)ら部下4人からなる“姫川班”の活躍が描かれる一方で、玲子が落ちてはならない男と恋に落ちるなど、ドラマからのファンの興味をかきたてるエピソードが盛り込まれている。メガホンをとったのは、ドラマから演出を務めてきた佐藤祐市監督。映画化が決まったときは「連続ドラマでやり切った感があったので、新しい玲子を描くには、どうしたものかと考え込んだ」と打ち明ける。佐藤監督に話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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−−映画、面白かったです。映画ですから当然なのですが、映画っぽさを感じました。
作った人間に面と向かって「つまらなかった」とはいえないですよね(笑い)。映画というのは、よほどつまらなかったり、(残酷な場面で)気持ち悪くならない限り、途中で席を立ちませんよね。ですから、(テレビでは必要とされる)説明的な描写は、極力排除していきました。映画的と感じたのは、そのせいかもしれません。
−−どのような描写を排除したのでしょう。
例えば、雨の中、ヤクザの牧田(大沢たかおさん)の車から出てきた玲子の腕を菊田がつかむシーン。腕をつかまれた玲子が菊田の顔をちらっと見ると、菊田がすっと手を離す。そのとき、手の寄りだけを映し、顔は見せない。そういうふうに、役者さんがどんな表情をしているのかと想像したくなるような撮り方、見る人によって解釈に差が出るような撮り方を意識しました。それが、今回挑戦したことの一つです。
−−挑戦といえば、ほぼ全編、雨の中で物語が進みます。
原作小説のタイトルが「インビジブルレイン」ということもありますし、ドラマのときよりも姫川玲子という女性刑事の人間性が強く出た話だったので、玲子が持っている闇の象徴として、全編に雨を降らせることにしました。晴れたら撮影は中止ですから周囲からは難しいといわれましたが、映画なんだからそれぐらい覚悟を決めてやろうと思い切ってやってみました。
−−玲子と牧田の雨の中でのシーンは、見ていてドキドキしました。竹内さんとはどのような話をしたのでしょう。
段階をきれいに踏んで盛り上がっていく恋愛では子供っぽくなってしまうので「突然情感があふれ出る感じで」という話をしました。そうしたら、竹内さんも「私もそう思います」とおっしゃったんで、大丈夫だなと思いました。一方の大沢さんも、牧田という役を楽しんで演じてくださっていたと思います。以前、2人が(映画「ミッドナイトイーグル」で)共演していたこともあり、お互いやりやすかったんじゃないでしょうか。
−−ドラマからのファンとしては、菊田の心情を思うと胸が痛みました。
ドラマファンの方を悲しみに陥れようとか、そういう作為的なことを考えたわけではなく(笑い)、玲子を中心に、牧田と菊田を陰と陽の存在として話を作っていくと、あそこに菊田がいる必要がありました。ただ僕としては、玲子にも菊田にも次の道に進んでほしいという思いがあった。ですから、連続ドラマを見ていた方が期待してくださっている部分に対しての、姫川玲子という女性と、彼女をずっと見守っていた菊田という男が出した結論が、あのラストシーンであるということです。
−−続編の構想は、佐藤監督の中にはあるのでしょうか。
誉田さんの原作が先にありきですから、構想があるかといわれるとないです。ただ、映画を作り終えて最後に思ったことは「それでも生きていく」ということ。玲子は過去に傷を負いながら、それでも刑事として男社会の中で戦って生きてきた。やっぱり人はどんなにつらくても生きるという選択肢しかないと思うんです。だから玲子も、根回しができるようになるとか、そういう成長を見せつつ、きっとこの先も歯を食いしばって生きていくんだと思います。
−−佐藤監督はコメディー路線の監督だと思っていたので、今回の「ストロベリーナイト」シリーズは意外でした。
意外と社会派なんですよ。うそです(笑い)。でも、コメディーをやっているとサスペンスを撮りたくなるし、サスペンスばかりやっていると、おバカなコメディーとか家族ものを撮ってみたくなります。
−−こうしたサスペンス映画は初めてですよね。
そうですね。昔は、2時間のサスペンスドラマをたくさん作りましたが、ああしたドラマは、ラストに感動的なシーンを盛り込むなどのひな型があります。でも今回のシリーズは、そうしたひな型を壊した作りになっているので、作っていて楽しかったです。
−−ちなみに、佐藤監督が影響を受けた映画は?
20代のころは、実はコメディーは好きではありませんでした。当時見た「ベティ・ブルー/愛と激情の日々」とか大好きですし、「2001年宇宙の旅」もすごく好きだし。自分の歴史をひもといてみると、解釈は見る側がする、そういう映画にすごく憧れていました。僕のことを、コメディーやワンシチュエーションの密室劇の監督とみなさんいってくださるんですが、そういうイメージと違うことがやれたことは幸せです。
−−メッセージをお願いします。
連続ドラマを見ていない方でもハラハラドキドキできる作品に仕上がっていると思うので、劇場に足を運んで見ていただけたらうれしいです。2時間7分、ものすごい勢いで突っ走っております。そこをぜひ楽しんでください。
<プロフィル>
1962年生まれ、東京都出身。テレビドラマ「将太の寿司」(96年)、「大奥」(03年)、「ウォーターボーイズ」(03、04年)などを演出。05年、「絶対恐怖 Pray プレイ」で映画監督デビュー。「シムソンズ」(06年)をへて、「キサラギ」(07年)でブルーリボン賞作品賞、日本アカデミー賞優秀作品賞を受賞。そのほかの映画作品に「守護天使」「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」(ともに09年)がある。初めてはまったポップカルチャーは、70年代に放送された英テレビシリーズ「謎の円盤UFO」。日本版のオープニングのナレーションはそらで全部いえるそうで、この日のインタビューでも、「1980年、すでに人類は地球防衛組織シャドーを結成していた。シャドーの本部はイギリスのとある映画会社の地下深く秘密裏に作られ……」と披露してくれた。
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