旧ソ連(現ウクライナ)のチェルノブイリ原発事故の当日と、その10年後の人々を叙情的な風景の中に見つめ出す「故郷よ」(ミハル・ボガニム監督)が9日、公開された。女性のボガニム監督の長編劇映画デビュー作だ。舞台は原発から3キロ離れた町プリピャチ。立ち入り制限区域内で初めて撮影された。ウクライナ出身で「007/慰めの報酬」で注目されたオルガ・キュリレンコさんが主演している。
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86年4月25日。豊かな自然に恵まれたプリピャチの春。父・アレクセイ(アンジェイ・ヒラさん)と息子バレリーはリンゴの苗木を植えた。木船の上で愛を語らう恋人同士アーニャ(キュリレンコさん)とピョートル(ニキータ・エムシャノフさん)は翌日に結婚式を控えていた。4月26日は朝から雨。森林警備隊隊員ニコライ(バヤチェスラフ・スランコさん)は、出勤途中で異変を感じた。雨がやんで結婚式が始まったが、森林火災があったとの報を受けた消防士のピョートルは、式の途中で現場に急行しなくてはならなくなった。一方、バレリーはリンゴの木が一晩で枯れてしまい、異常事態に気が付いていた。そして、原子力発電所の技師であるアレクセイの元に、原発事故を伝える電話が入る……という展開。
事故前日、リンゴの木を植える親子。事故当日のささやかな結婚式。柔らかな光の中につづられていく平和が、突然の黒い雲と雨で黒く汚されていく。避難のために住人たちがバスに乗せられる姿を見てドキッとする。福島の原発事故と光景が重なるからだ。と同時に、ウクライナの歌姫ナターシャ・グジーさんが日本語で歌う「ふるさと」を思い出した。チェルノブイリの事故で子どものころ被ばくしたグジーさんの歌声からは美しい故郷への思いがあふれているが、この映画も同様だ。
よりどころを奪われた人間の深い悲しみが、10年後の街を描くことでさらに深く伝わってくる。バレリーは行方不明となった父親アレクセイを探している。アーニャはプリピャチの観光ガイドになっていた。アレクセイは……。散り散りになった人々。事故さえなければ、あの牧歌的な風景の中にまだいたであろう人々。どんなに時間がたっても取り戻せない、戻れない。深い悲しみが静かに胸に広がっていく。映画は9日からシネスイッチ銀座(東京都中央区)ほかで公開中。(キョーコ/毎日新聞デジタル)
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