脳男:瀧本智行監督に聞く 生田斗真と二階堂ふみの出演で「この映画いけるんじゃないか」

最新作「脳男」について語った瀧本智行監督
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最新作「脳男」について語った瀧本智行監督

 00年に出版され、江戸川乱歩賞を受賞した首藤瓜於(しゅどう・うりお)さんの小説を、生田斗真さん主演で映画化した「脳男」が9日から全国で公開された。並外れた知能と肉体を持つ、生田さん演じる殺人者“脳男”の真の姿が、東京都内で発生する連続爆破事件の捜査とともに解明されていくサスペンス。“脳男”こと鈴木一郎を生田さんが、一郎の精神鑑定を担当する精神科医・鷲谷真梨子役に松雪泰子さん、一郎と爆弾魔を追う茶屋刑事に江口洋介さん、爆弾魔の緑川紀子を二階堂ふみさんが演じている。「星守る犬」(11年)や「はやぶさ 遥かなる帰還」(12年)などを手がけた瀧本智行監督がメガホンをとった。瀧本監督に話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 瀧本監督のところに今作の話が来たのは4年前。そのときすでに「あのビターなバッドエンディング」は存在しており、そこに引かれた。また、鑑定室での一郎と真梨子の「かみ合わない会話がかもし出す緊迫感」にも興味を覚え、自分で映像化したいという思いに拍車をかけた。だが、肝心のビジュアルは「まったく思いつかなかった」という。12年6月のクランクインが間近になったころには、「これは、結構きつい」と映像化の難しさに気づいたという。

 その一方で、鈴木一郎役に生田さんの名前が挙がったとき、「いけるんじゃないかと直感した」という。瀧本監督は、生田さんの主演作「人間失格」を見ており、それ以来、その日本人離れした美しさに魅力を感じていた。生田さんのことを「散文の映画と韻文の映画があるとするなら、詩情のある韻文の映画がハマる」と評する。「脳男」は、なるほど“韻文の映画”に属する。

 瀧本監督は原作が発売されたときに読んでいたという。ちょうど「鉄道員(ぽっぽや)」(99年)や「光の雨」(01年)といった作品で助監督をやっていたころだ。当時のことを「趣味の中の1冊として読んだだけで、映像化することなど考えもしなかった」と振り返る。その原作と真辺克彦さん、成島出さんによる脚本とでは、人物設定などが少しずつ変わっている。今作においては、感情のない脳男を鏡のような存在に仕立て上げ、彼に対峙(たいじ)する人間は、己の内面を見ることになるようにした。そのためには、対峙する側の人間にも“ドラマ”が必要だ。例えば真梨子の場合、「精神科医としての信念だけでは、彼女自身の人間味がいま一つ出し切れない」。そこで、過去のある事件が原因で引きこもりになった母と、染谷将太さん演じる青年・志村を彼女にからませ、人間的な深みをつけていった。

 また、爆弾魔・緑川も現代社会にマッチするような犯行動機を考え、「人間味を出していこうと計算していくうちに」、原作とは違う緑川像が出来上がっていった。ただ、10代の役者に演じさせることに、最初は戸惑いがあったという。ところが、二階堂さんの名前が挙がったとき、「生田くんの名前が出てきたときと同じように、ピタッとくるものを感じた」と振り返る。今では「彼女(二階堂さん)自身が持つ無垢(むく)なところと合わさって人間味があり、深みもあるヒール(悪役)キャラになった」と、映画の緑川に大満足のようだ。

 見どころは、生田さんをはじめとする「それまで抱いていたイメージをすべて取り換えてしまう」ほどのインパクトがある俳優たちの演技と、撮影監督・栗田豊通さんによる「昔の大映映画をほうふつとさせる、光と影のコントラストの強い」「特殊な、美しいルック」の映像を挙げる。栗田さんは、故・ロバート・アルトマン監督や故・大島渚監督ら名匠の作品で実績を積んだ人物だ。

 一方、困難だったのは、3日間、廃倉庫で撮影した、一郎や真梨子らが一堂に会する地下駐車場の連続したシーンを挙げる。「あそこは、この映画の最大の肝となる場面。お客さんには、あそこでカタルシスを感じてもらわないと、それまでのすべてが水の泡になってしまう。その上、段取りがあまりに多いシーンだったので、3日間、頭がパンクしそうになりながらやっていました」と撮影当時の苦労を口にした。

 瀧本監督は、今作を含めてこれまでに7本の劇場用映画を撮ってきた。多くがヒューマン作で、今回のようにアクション性の高い作品は初めてだ。だが「これも人間ドラマだと思って撮った」と断言する。観客は、すでにハリウッド映画のアクションシーンや爆破シーンで目が肥えており、派手さだけでは太刀打ちできないことを知っている。その監督が、「ドラマの中にアクションが入ってくるイメージ」「スケールより生々しさ、臨場感を重視し、ドラマにどう落とし込めるかを考えながら撮っていった」と語る映画「脳男」をぜひ劇場で堪能してほしい。2月9日から全国で公開中。

 <プロフィル>

 1966年生まれ、京都府出身。フリーの助監督として降旗康男監督の「鉄道員(ぽっぽや)」(99年)や高橋伴明監督の「光の雨」(01年)などに参加し、技術を磨く。05年、自らの脚本で監督デビューを果たした「樹の海」は、第25回「藤本賞・新人賞」に輝いた。監督としては07年「犯人に告ぐ」、08年に「イキガミ」(脚本も担当)、10年に「スープ・オペラ」のメガホンをとる。社会派からヒューマン作まで守備範囲は広い。初めてハマったポップカルチャーを改めて聞くと、「今日の気分では」と小学校4年生のときに見た映画「ロッキー」を挙げた(以前「星守る犬」で同じ質問をしたときは、「ウルトラセブン」最終回を挙げていた)。何十回見ているか分からないほど大好きな作品で、いまだに元気がないときにはDVDで見返すという。

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