「悪人」や「パレード」などの原作者として知られる吉田修一さんの小説を、高良健吾さん、吉高由里子さん主演で映画化した「横道世之介」が、2月23日から全国で公開されている。メガホンをとったのは「南極料理人」(09年)や「キツツキと雨」(11年)の沖田修一監督。原作を読んで「動いている世之介を見たいと思った」と語る沖田監督に話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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主人公は、大学進学のために長崎県から上京した横道世之介(高良さん)、18歳。純朴で、ほどよくずうずうしく、何を考えているかいま一つつかめないが、友だち思い……そんな不思議な魅力を持った世之介を、“超お嬢様”のガールフレンド、与謝野祥子(吉高さん)や倉持(池松壮亮さん)、加藤(綾野剛さん)ら東京で出会った友人たちとの屈託ない学生生活を、16年後に世之介を知る人々が回想するという形で物語が語られていく。
−−この映画の主な舞台は87年です。斉藤由貴さんのカセットテープの街頭広告が出てくるなど、時代考証の綿密さに驚きました。
僕が、というより、スタッフさんがすごかった。「マイ・バックページ」や「苦役列車」といった時代映画を経験している人が多かったんです。当時、僕は小学校5年生ぐらいでしたが、4歳違いの姉がいたので、あのころのことは知らないわけではなかった。小道具の中には、「あ、これ懐かしい」みたいなものがあったりしました。また、いまだと「たるくない?」と(語尾が)上がる若者言葉が、当時は「たるくない」と語尾が落ちたり、そういった言い回しについては、きっちりと時代考証をしてもらいました。
−−脚本を、沖田監督とは中学、高校の同級生で、劇団「五反田団」の主宰・前田司郎さんと共同で書かれています。どんなことに配慮しながら書いていったのでしょうか。
世之介というキャラクターを、映画用に作ることはしないということです。もちろん、活字をそのまま話し言葉にすると違和感が残ることがありますから、そのへんは不自然がないように手を加えましたが、それ以外は、原作の構成はあまり変えずに、世之介が世之介としてちゃんとそこに存在しているということを大事にしました。この物語は、いろんな人が世之介についての思い出話をしていきますが、みんな、世之介について表現が違う。ですから、世之介は“こういう人”という形容詞で簡単に表現するのではなく、多面体に見えるよう、柔らかく対応していたような気がします。
−−ご自身と世之介が似ていると思いますか?
取りたてて強い目的意識を持って生きているわけじゃないのに、ふとした拍子にカメラで写真を撮りたいと強く思ったり、周囲の空気に流されてサンバサークルに入ったけれど、それはそれで楽しんでやっているみたいな、世之介のそういった優柔不断というか、流されるがままに生きているみたいなところは、割と僕にもあります。
−−そうした世之介を、高良さんはすんなり演じていたようですか?
原作の世之介は、もうちょっとひょうひょうとしてるんですけど、高良君には、周囲の、世之介、世之介という声に反応して、うれしかったら喜べばいいし、悲しければ泣けばいい、感じるままに演じればいいということを、現場で話しました。この役は、“狙いにいった”時点で、世之介でなくなっちゃうんです。世之介でいることがどういうことなのかと、高良くんが考え過ぎるとよくないというか……その点、高良君も世之介と同じ九州出身ですし、独特の大らかさを持っているので、割と素に近い感じでやれていたと思っていたんですが、でもだからこそ、高良君にとってこの役は難しかったろうなと、あとになって気づきました。
−−祥子役の吉高さんについてはどうでしょう。
世間では、一風変わった女優さんといういわれ方をされていますが、まったくそんなことはなく、まじめで、現場の雰囲気をよくしようと気を使ったったり、すごくしっかりした人でした。あの祥子という役は、吉高さんあってのもので、違う人が演じていたら、「わざとらしい」といわれかねない。吉高さんには「ただ話し方だけが生まれた環境のせいでちょっと変わっているけど、あとは普通の19歳の女の子としてやってもらえれば」とお話ししました。そのへんのバランスは、吉高さんも考えながらやっていたようです。
−−世之介と、綾野さん演じる加藤が、食べているスイカを落とす夜の公園のシーンや、パーティーなどで鳴らすクラッカーの中に紙吹雪が入り、祥子が「入りましたわ」と喜ぶクリスマスのシーンなど、クスッと笑える場面がたびたびありました。
あれはほとんど偶然です(笑い)。普段の映画作りでは、アドリブはやり過ぎないようにと思っているんですけど、この「世之介」については、自由な感じがあってもいいんじゃないかと思ったので、若い子たちの感性をなるべく生かすようにしました。池松くんなんか、今回は台本のせりふ通りというのはほとんどなかったんじゃないかな。
−−現場の雰囲気を大事にしたのですね。
「世之介」の場合はそれが多かったですね。ですから今回は、僕がというより、高良君や吉高さんをはじめ、俳優さんたちが引っ張っていってくれたようなものです。そこに(父親役の)きたろうさんが加わって好きにやっちゃうので、「引っ張るのやめてください」と、きたろうさんを止めるのには苦労しました(笑い)。
−−沖田監督は、映画はマニア受けだけで終わらせたくない、デートで見にいこうと思ってほしいと考えていらっしゃるそうで、この「横道世之介」もデートムービーになりえる映画だと思います。では、沖田監督ご自身がデートで見に行った映画はなんでしたか?
「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」です。僕は高校が男子校だったんですけど、友だちに女の子を紹介されて、その子と見に行きました。僕は映画が好きでよく見ていて、これを見に行こうとなったんですが、隣の劇場では「フォー・ウェディング」をやっていて、その子はそっちが見たかったようです。けれど、「フォー・ウェディング」なんて見てる場合じゃないと「ナイトメア~」を選んだら、彼女は完全に寝てました(笑い)。彼女とはそれっきり。名前も忘れちゃいました(笑い)。
−−今回の作品で好きなシーンと、最後にメッセージをお願いします。
世之介の部屋で、祥子が世之介の洗濯物をたたむシーンです。吉高さんがちゃんとたたまないのを、高良君が直していくというのは、2人が自然にやったことです。とにかくこの映画は、笑いながら見てほしいですね。
<プロフィル>
1977年埼玉県出身。日本大学芸術学部映画学科卒業。短編「鍋と友達」(02年)が水戸短編映像祭グランプリ受賞。長編デビュー作「このすばらしきせかい」(06年)、テレビドラマの脚本や演出などをへて、09年、脚本も手掛けた「南極料理人」が新藤兼人賞金賞を受賞するなど高い評価を得た。12年公開の「キツツキと雨」は、11年の東京国際映画祭で審査員特別賞を受賞した。初めてはまったポップカルチャーは、小学生のときに読んでいたマンガ「キャプテン翼」。
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