大沢たかおさんが、凶悪犯を移送するSPにふんしたサスペンスアクション映画「藁の楯」が全国で公開中だ。木内一裕さんの警察小説が原作で、「悪の教典」「十三人の刺客」などで知られる三池崇史監督がメガホンをとった。原作を読んだとき、「面白い作品だとは思ったが、自分にオファーが来るとは予想もしていなかった」という大沢さんに、作品について、役作りについて話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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映画「藁の楯」は、10億円の懸賞金を懸けられた凶悪犯罪者・清丸国秀(藤原竜也さん)を、福岡から東京の警視庁まで移送する任務に就いた5人の警察官の命懸けの闘いを描いている。大沢さんが演じているのは、5人のうちの1人で警視庁警備部のSP・銘苅一基(めかり・かずき)だ。ほかに、同じくSPで銘苅のパートナー白岩篤子を松嶋菜々子さん、警視庁の刑事を岸谷五朗さん、永山絢斗さん、さらに福岡県警の刑事を伊武雅刀さんが演じている。
大沢さんは、今回の役を演じるにあたって、元SPに身のこなしや精神面でのアドバイスを受け、役作りをしていった。もっとも大沢さんは“役作り”という言葉があまり好きではないという。なぜなら、役といえども人間という意識で臨んでいるからだ。「人間を演じるということは、人間を表現するということ。やくざでも、刑事でもなんでもいいんですけど、どんな時代のどんな役でも、僕は、ただ自分なりに人間を表現しているだけなんです」とさらりといってのける。
演技をする上で、型にはまることを嫌う。だからこれまで、前の作品で踏んだ役へのアプローチ法は壊すことを心掛けてきた。「前にやった準備はやらない。全部変える。もちろん、それでも人間である以上クセがあるから似てきてしまうけれど、そうやって破壊して初日に現場に行ったとき、デビュー当時の初日に現場に立ったときの緊張感と同じ状態までもっていけるか」、そういう思いで、これまで走り続けてきたのだという。
そうした役に対するアプローチ法は、ときにかなり無謀なことにも挑ませる。実は今作では、どういう演技をするかを一切考えずに撮影に臨んだ場面があったという。それは、後半での清丸と対峙(たいじ)する場面。その場面だけ台本は読まず、「どうなるかわからないけれど、あとは現場で」という覚悟で挑んだ。というのも、台本を読み出してしまうといろいろなことを考えてしまうからだという。「演技というのは、その日の暑さとか、(周囲の)牧歌的な雰囲気とか、そういうものの影響をすべて受けるんです。色とか、汗とか、竜也の笑顔とか、触れたときの肌の汗の感じとか。そういうものに触れることで、ずっと抑えていた興奮というか怒りみたいなものが、ポンと堰(せき)を切ったようにあふれ出してくるんです」。その場面で銘苅が清丸にとった行動は「予定にはなかった」そうだが、そのシーンは、今作における見どころの一つだ。
最近の映画は、喜怒哀楽がはっきりした、分かりやすく、ソフトな感触の作品が好まれる傾向にある。そうした中でこの「藁の楯」は、極悪人を警護するという任を負った警官が、正義と復讐(ふくしゅう)のせめぎ合いに苦悩するという、誰もが共感しやすい作品とは言い難い。だからこそ大沢さんは、今作への出演を決めたと明かす。「エンターテインメントとして撮られているもの、三池さんは『映画界に対して』という言い方をしますが、そうしたものに、一俳優として、一映画人として、自分もできる限りの能力を使って、その挑戦に参加したかったのです」、そうよどみなく話す大沢さんに迷いは見られない。
その今作において、演技の面でも自らに挑戦をしいることで、主人公にもかかわらず、護衛する人間の動きに合わせて自分が行動するという、「一歩下がった役」を演じる葛藤も味わった。だがそれをつらいとは思わない。「トライし続けることが僕らの仕事。僕らが守りに入ると終わり。お客さんは面白くもなんともない。高いお金を払って見に来てくれるわけですから。だから僕は、全エネルギーを使って挑戦するんです」。大沢さんの新たな挑戦が見られる映画「藁の楯」は全国で公開中だ。
<プロフィル>
1968年生まれ、東京都出身。94年、テレビドラマ「君といた夏」で俳優デビュー。「解夏」(03年)で日本アカデミー賞優秀主演男優賞受賞。ほかの主な映画出演作に「世界の中心で、愛をさけぶ」(04年)、「地下鉄(メトロ)に乗って」(06年)、「眉山」「Life 天国で君に逢えたら」「ミッドナイトイーグル」(07年)、「終の信託」「ストロベリーナイト」(12年)など。また、「ラブファイト」(08年)ではプロデュース業にも進出。09年放送のテレビドラマ「JIN−仁−」は高視聴率を記録し、11年に続編が放送された。
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