米人気テレビシリーズ「プリズン・ブレイク」で、文字通り“ブレーク”した、ウェントワース・ミラーさんが、8年かけて書き上げたという脚本が映像化され、公開される。タイトルは「イノセント・ガーデン」。ニコール・キッドマンさんを筆頭に、「アリス・イン・ワンダーランド」(10年)で世界中にその名を広めたミア・ワシコウスカさん、「シングルマン」や「ウォッチメン」(ともに09年)などに出演していたマシュー・グードさんが共演する心理スリラーだ。メガホンをとったのは、「オールド・ボーイ」(03年)や「親切なクムジャさん」(05年)といった作品で知られる韓国出身のパク・チャヌク監督。これまで、カンヌ、ベネチア、ベルリンといった国際映画祭での受賞歴を持つ実力派だ。「多くの女性に見てもらいたい」という今作について、チャヌク監督に話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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「イノセント・ガーデン」は、ワシコウスカさん演じるインディアが主人公。彼女の18歳の誕生日に最愛の父親が急死し、長年消息を絶っていたおじのチャールズ(グードさん)が葬儀に現れる。洗練され都会的な雰囲気のチャールズに引かれていくインディア。一方、日ごろインディアと折り合いが悪い母、イブリン(キッドマンさん)もチャールズに引かれていく。彼らの危うい三角関係と、その周囲で起こる人々の行方不明事件が、サスペンスフルに展開していく。
ミラーさんが書いた脚本の、「余白の多さ」に引かれたというチャヌク監督。余白が多くあるということは、つまりそこに「監督の息遣いをどんどん吹き込める」ということ。その言葉通りチャヌク監督は、自分のアイデアを脚本に加えていった。例えば、もともとあった「サドルシューズばかりを好んで履くインディア」という設定に、「サドルシューズは、毎年彼女の誕生日に贈られてくる」ことにし、今年はインディアが18歳になることからハイヒールを履かせるようにした。また、意味深なエンディングや“狩り”のエピソード、さらに鉛筆やベルトが効果的に使われるのも、チャヌク監督が考案したという。
この作品は、心理スリラーにジャンル分けされるが、チャヌク監督はそれ以外にも「成長物語としての側面がある」と力を込める。成長を遂げる人物が、18歳の誕生日を迎えたインディアで、インディアを演じているワシコウスカさんの髪の色はもともとはブロンドだが、「今回はカツラとコンタクトレンズをつけ、髪と目の色を変えてもらった」と明かす。というのも、グードさん演じるチャールズの髪と目の色に合わせることで、キッドマンさん演じる母、イブリンに、チャールズとインディアが「鳥肌が立つほど似ている」ことを知らしめ、それによって「疎外感を味わわせる」ためだ。
この“仕掛け”によって、ハイヒールを履いたインディアとチャールズをイブリンが階段の上から目撃する場面に、大きな効果がもたらされた。「あの、カメラが(インディアとチャールズの)2人をなめるように映すのは、それが母親イブリンの視点だからです。あのシーンで、イブリンとほかの2人との違いを顕著に表すことができました。だからこそそのあとの場面でのイブリンの言葉に説得力を持たせることができたのです」と説明した。
普段からカメラを持ち歩き、気に入った風景に出くわすとシャッターを切るというチャヌク監督。この日の取材にも愛用のカメラを持参。日本版のポスターなどにカメラを向けていた。そのチャヌク監督は今作を「女性に見てもらいたいと思って作った」と話す。実は、チャヌク監督の娘さんがインディアと同じ18歳で、「娘のことを思いながら作った映画でもある」のだという。女性客にはこれを見ることで、「自分の成長過程を振り返り、大人になるまでに体験した苦しみを思い出してほしい」とメッセージを送る。そして、「人間には、つい邪悪なものに引かれる時期があります。この映画は、まさにそのプロセスの中にいるキャラクターを描いています。そのあたりに共感してもらえるといいですね」と笑顔で語った。映画は全国で公開中。
<プロフィル>
1963年、韓国ソウル生まれ。2000年、「JSA」で当時の韓国歴代最高の興行成績を記録する。03年、日本のマンガを映画化した「オールド・ボーイ」でカンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ受賞。「親切なクムジャさん」(05年)はベネチア国際映画祭コンペ部門受賞。「渇き」(09年)はカンヌ国際映画祭審査員賞受賞。全編をアップルのiPhoneで撮影した短編「Night Fishing(原題「Paranmanjang」)」はベルリン国際映画祭短編部門において金熊賞受賞。ほかの監督作に「復讐者に憐れみを」(02年)、「サイボーグでも大丈夫」(06年)などがある。
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